【KAC20248】魔法のめがねを手に入れた少年が憧れの美少女に迫る魔物を瞬殺するお話

蒼井星空

少年の決意

 これは上手く魔法を使うことができなかった少年が不思議な本と出会い、魔物と戦い、憧れの女性を守る、そんな物語です。


 このお話の主人公であるカイルは魔法が使えなかった。

 彼は生まれながらにして多くの魔力を持っていたが、どうやっても魔法を発揮できなかったのだ。

 周りの友達は魔法の才能を見せつけていたが、カイルはただの普通の少年だった。彼は自分に自信が持てなかった。


 ある日、カイルは古本屋で一冊の本を見つけた。それは魔法の発動のために必要な魔力の扱い方に関する本だった。

 今の世界では詠唱が常識であり、あとは使う者の感覚で魔力をコントロールする。誰もが簡単に魔法を使ってしまう。

 しかし、かつては魔法を想像し、構造式を描き、発現させる魔法に似合った魔力を投入し、発動し、発射していたのだという。その技術を使って発動する雷属性の魔法に関する本だった。

 カイルは興味本位でその本を手に取った。

 すると、本の中から1つのめがねが飛び出してきた。カイルは驚いてそのめがねを拾い上げ、すぐに本を買って書店を出た。


 そのめがねは古びた金色のフレームに青いレンズがはめ込まれていた。


 カイルがそれをかけると、目の前の世界が一変した。彼は自身の周囲に魔力の流れを視認することができるようになった。彼は深い感動を覚えた。そのめがねは、魔法を見ることができる特別なものだったのだ。

 

 カイルはめがねをかけたまま、書店の外に立ったまま本の中身を読み進めていった。

 本には古代の魔法使いがどのような魔法を使い、それに必要な魔法陣と魔力がどんなもので、そして効果はどれくらいか、などが書かれていた。

 カイルは興味津々だった。その本に書かれている内容は、カイルに自分が魔法を使う姿を想像させた。

 カイルの持つ魔力であればいずれも発動させられると彼は思った。

 

 彼は自分の持っている多くの魔力を、どうにかして使えないかとずっと考えてきた。もしかしたら、この本とめがねのおかげで、自分も魔法が使えるようになるかもしれないと思った。カイルはそう思うと、胸が高鳴った。


 だが、夢中で読みふけるカイルの本に影が差し込んだ。

 不思議に思って顔を上げると、カイルの上空には巨大な亀の甲羅があった。一瞬でカイルは現実に引き戻される。


 モンスターだ。

 甲羅に手足を引っ込めた状態で飛び回るおかしさ抜群のモンスターが、この町に襲来したのだ。


 そして降り立つ巨大亀。

 カイルは慌てて路地に身を隠した。そこから巨大亀を眺めると、1人の少女が亀の目の前で呆然と立ち尽くしているのが見えた。

 運の悪いことに巨大亀が目の前に降りてきたために恐怖で逃げれなかったのだろう。


 そして、カイルにとっても運が悪いことに、その少女はカイルが憧れる同級生のアオイだった。


 まさかの事態に驚くカイル。

 通りには他に人がいない。


 まさか終わってしまうのか。

 アオイは無惨に殺されてしまう……そんな未来がカイルの脳裏によぎる。


 なにか……だれか……。

 カイルはあたりを見渡すが、やっぱり誰もいない。

 巨大亀は周辺からよく見える位置にいるため、もうみんな逃げたのだろう。


 警備隊すら来ない。

 仕事しろ給料泥棒。

 現実逃避しても変わらない光景。


 その場にへたり込むアオイ。


 自分がなんとかするしかないと考えようにも……魔法を使えたことがないカイル。

 そんな状態で巨大亀のもとに飛び出してもただ殺されるだけという恐怖が彼を支配している。


 しかし、このままではアオイは殺されてしまう。


 路地の中から様子を窺いつつ出てこれないカイル。手から本を落としたことにも気づいていない……。


 すると巨大亀が鋭利な爪を振り上げた。

 このままではアオイは爪に切り裂かれてしまう。


 そしてカイルは心を決めた。

「僕はもう逃げない!」


 路地裏から走り出し、アオイのもとへ。



 アオイに迫りくる巨大亀の爪……。


 間一髪のところでカイルはアオイを抱きかかえて横に飛ぶ。

 着地は上手くいかず一緒に転がることになったが、なんとか巨大亀の魔の手からは逃れたようだ。

 カイルはアオイの前に立って巨大亀に対峙する。

 

 そして巨大亀がカイルをその視界に納める。

 それと同時に凄まじい金切り声に似た咆哮を上げた。


 カイルはそれを聞いて身をすくめてしまう。

 アオイは気絶したようだ……。

 彼女は回復魔法と支援魔法が使えたはずだからそれくらいかけてほしかったけど、まずは無事で良かった……とカイルは後に語ったとかなんとか……。



 カイルはアオイを守るために魔法を使うことを決意する。

 すると本に書いてあった1つの魔法がカイルの頭の中に浮かぶ。そのイメージに沿って魔法陣を描き、魔力を注入する。

 あたりにはその魔法の効果なのか、もしくはまだカイルの制御が甘いからか、放電が起き始める。


 放電を嫌ってがむしゃらに手足を振り回す巨大亀。

 そんな巨大亀に向かってカイルは完成した魔法を放つ。


「サンダーストライク!!!!」

「グギャアァァアアアァァァァァアアアアアアアアアアアアアア」


 雷光の魔法は瞬時に巨大亀に着弾し、巨大亀はのたうち回る。

 その雷光は一瞬にして巨大亀の全身を焼き、その命を切り裂いた。



 自身が放った魔法の威力に……そもそも魔法を放てた事に驚きつつも、憧れのアオイを助けることができてはにかむカイル。


 そんなカイルのもとに巨大亀が倒れる姿を見ていた者たちが集まってくる。

 口々にカイルを讃える者たち。


 そんな中から1人の青年が出てきて、アオイのもとに向かい、彼女を抱きかかえる。


「すまない、アオイ、助けに来れなくて。今治療院に運ぶからな。ありがとうカイル。このお礼は必ず」

 そう言うとアオイを抱きかかえた青年に無言で手を振り、治療院に急がせるカイル。



 今は助けられたことだけを噛み締め、あの男のことを頭の中からシャットアウトするカイルを、秋の爽やかな風が優しくなでていく。

 少しだけひんやりとした感覚を与えながら……。


 めでたしめでたし。




△△△△作者のつぶやき△△△△

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【KAC20248】魔法のめがねを手に入れた少年が憧れの美少女に迫る魔物を瞬殺するお話 蒼井星空 @lordwind777

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