街づくり編 終章

#86 春のおとずれ

 村周辺の白い雪が、いつの間にか目につかなくなっていた晴れの日。

 陽の光の下に出ると、厳しい冬が終わり、春がやってきたことを実感する。


 太陽から降り注ぐ光が、なんとなく暖かいのだ。


「気持ちのいい朝だな」


 俺はつぶやいて身体を伸ばす。

 無事に越冬し、こうして春を迎えることができたのはなんとも清々しい。


「さて、はじめますか」


 部屋に入り、身体をほぐし始める。

 ストレッチのこの全身に血が巡っていく感覚が、また気持ちがいい。 


 覚醒していく意識を感じながら、俺は日課に励んだ。


◇◇◇


「はぇぇ。立派になったもんだなぁ」


 日課を終えた俺は、海岸線へと飛んだ。

 今日は海岸沿いに建設された城塞を、ユースティナと共に視察することになっていた。


「すごい! すごい! こんなに大きい壁が、人の手で出来上がるなんて!」


 俺の前を、きゃぴきゃぴ言いながらユースティナが小走りしている。

 砂に躓いて転ばないといいが。


 それはそれとして、『すごい!』というのは心底同感である。

 高く分厚い立派な城塞が、海岸線に沿って続いている景色は、もはや壮観の一言だった。


「ふふん、わたしの街に相応しい城塞よね!」

「ああ、そうだな」

「壁の建設に携わってくれたみんなを、褒めてあげなくっちゃ! あとはたんまりと褒美を取らせることにする!」


 ユースティナは相変わらずどこかふてぶてしいが、ちゃんと人を敬えるように成長した。

 そうなると、逆にこのふてぶてしく物怖じしない姿が頼もしく思えてくるから不思議だ。


「じゃあ、俺はこれを設置してくるわ」

「うん、お願いね! わたしは職人たちの詰め所に挨拶に行ってくるから!」


 そこでユースティナと別れ、俺は俺の仕事をはじめることにする。


 まず、アリアナから受け取った大きめの釘の形をした魔道具に、自分の魔力を注ぎ込む。そして、魔法を発動させ、魔法自体をこの魔道具に付与する。


 付与する魔法は、罠魔法の『ディモン・リジェクト』である。

 これは魔法狩猟師の魔法で、一定範囲に侵入した魔族へとオートでダメージを与える、典型的な罠魔法。


「あとは、適当な場所に設置、っと」


 城塞の壁面をそぞろ歩きながら、真新しい壁へ、魔道具の釘をカンカンと突き刺していく。

 こうすることで、この城塞自体にディモン・リジェクトの効果が現れるという寸法だ。


 この方法を思いついてくれたのは、我が村の誇れる頭脳アリアナだ。

 今は魔法研究の一環として、魔道具の作成にも精を出しているそうで、この釘型の魔道具も彼女のお手製。


 いやマジ天才かよ。


 この魔道具に定期的に魔力を送り込めば、俺がいなくても魔族を探知し、さらに自動的に防衛し、危険対策が可能になるというわけだ。

 しかも、魔力は俺のものでなくとも問題ない。


 いやー、本当に優れものだ。


「……ある意味、俺がここに居座る意味も薄れた、ってことだな」


 そう、もう俺が気張って村の守護者でいる必要はないのだ。

 この釘の魔道具が量産された暁には、密かに『ジャンプ』を使って世界各地に設置する予定でいる。


 ……それよりも、もしかしたら魔王を打倒する方が早いかもしれないが。


「なんにせよ、本当に立派だ」


 独り言ちて、城塞の壁面を撫でた。

 なんともゴツゴツして無骨だが、確かな愛着があった。


 こうして、『城塞を作る』という大きなミッションの一つが、達成されたのだった。


◇◇◇


 村に戻った俺を待ち受けていたのは。

 予想外の、歓待だった。


「「「レオン(さん)、誕生日おめでとう!!」」」


 なんと、女性陣が中心となりサプライズでパーティーを開いてくれたのだった。

 自分でも誕生日なんて忘れていたくらいなのに、なんと嬉しいことか。


「さ、今日の主役はレオンさんですから、たくさん食べてくださいね」

「ありがとうアリアナ。ちょっと気恥ずかしいけど、嬉しいよ」

「ふふ、喜んでもらえてよかったです」


 素直な気持ちを伝えると、アリアナは上品に微笑んだ。


「レオン、みんなで腕によりをかけて作ったんだから、お腹がはち切れるぐらい食べてよ!」

「お、おう!」


 エプロン姿のシェリに促され、俺は食卓に並んだ料理に舌鼓を打った。

 チキンの丸焼き、サラダ、焼き立てのパン、ジビエ肉のローストや、フルーツタルトまである。


 これは、本気で食い倒れられそうだ。


 それにしても、記憶が覚醒してもう一年もの時間が過ぎたのだと思うと、途端に感慨深い気持ちになる。

 佐伯大輔の記憶で、レオン・アダムスとなって、今日まで色々なことをしてきた。


 ……あれ、ほぼ飲んだくれていただけなような気もするけど、まあ、いっか。


 シュプレナード王から勅命を受け、こうして村一つを興すという重責を担うことになったけど、皆が支えてくれたおかげで、なんとかここまでやってこれた。

 はじめの頃はステータス重視で、村を盛り上げてくれそうな人をスカウトしなくちゃ、とか考えていたけれど、もはやどうでもよくなったな。


 縁の感じられる人たちを、村の仲間にしていきたい。

 そういう人たちと、マイペースに楽しく暮らしたい。


 そんな想いでやってきたけど、ここまで村は大きくなり、人も増えた。

 本当に、感慨深い。


 ……ただ一つだけ、不本意な別れがあったことだけはいただけないけれど。


「…………そろそろ、ルルリラを迎えに行かないとな」


 周りに誰もいないタイミングで、俺はぼそりとつぶやいた。


 窓の外では、屋根から垂れる雪解け水が、キラキラと光っていた。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【上位:魔道具師】の職業素養を獲得しました

:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

:【一般パッシブスキル『驚き耐性』】を獲得しました

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