#87 城塞都市リバース

 俺は一人、シュプレナードの飲み屋に来ている。

 周囲は酔客たちの喧騒で包まれており、なんとも騒がしい。


 そんな中、俺はテーブルに羊皮紙を拡げてうなっていた。

 なにを隠そう、魔王討伐のための一人作戦会議を行っているのだった。


「まずは船だな」


 なによりもまず、魔王城に行くための船が必要だ。


 魔族の住む大陸、通称『魔領域』は二つの大陸に別れており、片方はジャンプで移動することが可能だ。そこにある『魔族国家ジ・アポン』にて、日課である魔族狩りを行っていた。


 しかし、魔王の居城である魔王城、それが建つもう一つの大陸『ザーストリア』は、魔王自らが周辺地域にかけた特殊な防御魔法の影響で、ジャンプや移動石による一飛びができないのだ。


 ゆえに、船での渡航が必要なのである。


 正規ルートでは、本来はジ・アポンの大陸へも船で生き、ジ・アポンを統治するギンリュウを討伐してから魔王城へと乗り込む流れだったが、すでにギンリュウは死闘の末、打倒している。


 船で直接、ザーストリアに上陸するのがベストだろう。


 俺は羊皮紙にうろ覚えの魔領域の形を書きつけ、リバース村からの船のルートをぬるぬると記入した。


「さて、次は……」


 一度エールで喉を潤してから、再び作戦会議に戻る。

 考えておかなければならないことは多いが、このシミュレーションの有無が、必ず勝敗に影響を及ぼすはず。


 こうして。

 俺の一人作戦会議は、夜更けまで続いた。


◇◇◇


 次の日。

 朝の日課としてゆったり村の周りを散歩していると、春めいてきたのがよくわかる。

 吹く風の温かみや、草木の息吹。足元にはすでに、小さい花も咲いている。


 一歩一歩、見える景色を噛み締めるように歩いていると、村の入口に設置されているアーチの下で、なにやらユースティナがうんうんと唸っていた。

 俺もユースティナに用事があったので、ちょうどいい。


「おはよう、ユースティナ。早いね」

「あらレオン、おはよう。あなたこそ早いじゃない」

「アーチになにか用かい?」

「うん、ちょっとこれ、ぶっ壊そうかと思って」

「いきなり物騒!?」


 え、これせっかく作ったのに壊すの!?

 個人的には結構思い入れあるのに!!


「このアーチ、ここの規模感に合わなくなってきてるのよね。あと、そもそもがダサい」

「うぐっ、グサっとくるぜ……」


 イマドキの若者は、常に古い価値観を破壊していくということかな……。

 フッ、若い感覚を受け入れられる大人でいたいものだゼ……。


「レオン、もうここはね、村じゃないの。言うなれば、そう――『城塞都市リバース』なのよ」

「城塞都市、リバース……」


 ユースティナに堂々と言われ、はたと気付く。


 確かに彼女の言う通り、城塞を備えた村など聞いたことがない。

 立派な城塞があるというだけで、もはや村とは呼べないのかもしれない。


 ここはもう、村ではなく、街。


 気付かされてから、入口から辺りを見回してみると、まるで違った景色が見えてくる。

 石畳などで舗装された路地や広場、立派な家々、行き交う人々の多さ。

 冬の間も、城塞建築による恩恵として人の流入が絶えずあり、家屋が増え、集合体としての都市機能もどんどん発展していた。


「…………」


 変化はゆっくりと起こるため、毎日の暮らしの中では気付けなかった。

 だが、こうして一度外に出て、客観的な気持ちで眺めてみると、それは間違いなく街の規模感と言えた。


 はじめの頃はかなり人員が少なかったが、今では俺やアリアナ、シェリの魔法や魔道具を使った便利な機能も多々あり、人口は少なめながらも住みやすく、活気あふれる街として、シュプレナード本国でも認知されているらしい。


 一から携わってきた村づくりが、そこまでのものに育っていたのだ。


 ……あぁ、なんて誇らしいことだろうか。


「こりゃ、マジもんの大浴場も夢じゃないな」


 思わず嬉しくなり、街を見ながらつぶやく。


「ええ、密かに建設計画を立案中よ。楽しみにしてなさい」


 隣で、同じく嬉しそうなユースティナ。

 自分の企みを話す彼女の表情は、まだ無邪気な十代の少女ものに見えた。


 ……彼女がいれば俺がいなくとも、ここはもっともっと発展することだろう。


 そうだ、自分の要件を伝えなければ。


「ユースティナ、一つ頼みがある。船を作ろうと思うんだ」

「船?」


 なにはともあれ、船だ。

 素人の判断だが、魔族が襲撃してきた際に連中が乗っていた船をベースとして、木材や魔法などで補修・改修を施して作ろうと考えていた。


 その案を話すと、


「ふむふむ、それならまず港としての機能をある程度発展させないとね。それはそうと、船でどこに行こうってのよ? レオンには移動石があるんだから、いらないんじゃない?」

「……魔領域さ」


 質問に、軽い感じで応える。


「レオン、あんた……帰ってこないつもりなら、許可しないわよ?」

「…………」


 何かを察したのか、ユースティナは半ば睨むように俺を見た。


 帰ってこないつもりなど毛頭ないが、さすがに相手が相手だ。

 軽い口約束だとしても、簡単に言い切ることはできなかった。


 しばし、黙ったまま見つめ合う。


「……はぁ。わかったわよ。船ね、作りましょう」

「本当かい!?」

「ええ。実際のところ、今後の交易とかを考えても船、あったらいいなと思ってたしね」

「おーし、俺もバリバリ働きます!」

「ただし! わたしの許可なく絶対に使わせないからね! 絶対よ!!」

「わ、わかったわかった!」


 ユースティナに言い切られ、俺は頷く。

 しかしなにはともあれ、これで移動手段は確保できる。


 こうして俺は、職人さん数名と共に船造りを開始した。


 できる限り、早く完成させるぞ。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【船大工】の職業素養を獲得しました

:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

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