ゲームの不遇おっさんキャラに転生したおっさん ~必ずパーティーで飼い殺しにされる無能なおっさんキャラでも、マイペースに楽しく生きれば主人公より強くなれるみたいです~
#85 趣味回:食事編 エンシャントサーモンのシチュー
#85 趣味回:食事編 エンシャントサーモンのシチュー
リバース村役場に併設された、大きな厨房。
最近、大きくキレイに改装され、炎魔法を活用できるかまどなども設置された。
そこで俺は、大きな鍋を相手に格闘していた。
脇の調理台には、ざっと骨を取って塩を振っておいた、エンシャントサーモンの切り身が並んでいる。
一口大よりも大きく、贅沢に切った。
そのままバターなどで焼いて食べても美味しいだろう。
「絶対に焦がせないぞ……!」
巨大な寸胴鍋の底を、長い木べらでかき混ぜながら唸る。
今作っているのは、ホワイトシチュー用のホワイトソースだ。
エンシャントサーモンを使ったメニューは、冬と言えばコレ、ホワイトシチューにしたのだ。
皆と話してシチューを作ると言った際にわかったことなのだが、前世の日本人としての感覚だと、シチューと言えばホワイトシチューかデミグラスなビーフシチューだと思っていたが、中世ヨーロッパ的感覚だと、どうやら少し違うらしい。
庶民的には、ただ野菜とお肉を煮込んだものに、塩を振って終わりの場合がほとんどだそうだ。
というわけで、ホワイトソースを作れる人はいないみたいだったので、俺がこうして全員の分を作ることになったのだった。
ぶっちゃけ、俺もあんまりレシピを覚えているわけではない。
当然だ、一人暮らしの自炊で作る時には、常にレトルトのルーという便利アイテムを使っていたのだから。
素晴らしき企業努力、食品企業様、万歳!!
というわけで、中学だか高校だかのときの調理実習で作ったレシピをなんとか思い出しながらの調理となっている。
ただとにかく『焦がすな!』と教師が言っていたのだけは覚えているので、とにかく鍋を木べらでかき回し続けている感じだ。
量が量なので、なかなかに重労働だ。
腕が疲れてきた……。
「レオン、手伝うよ」
と、そこで耳にしっとりと響く声。
シェリが調理場にやってきた。
「助かるよ」
「こういうときに二人っきりになっておかないと、レオンはすぐどっか行っちゃうからね」
「す、すいません……」
腕まくりしたシェリに微笑まれ、思わず恐縮する。
「うーん、いい香り」
鍋を覗き込み、ホワイトソースの匂いを吸い込んだシェリが言う。
見た感じダマにもなっていないし、そろそろいいだろう。
野菜を煮込んでいた別鍋に、出来上がったばかりのホワイトソースを流し入れていく。シェリに鍋をかき混ぜておいてもらいつつ、零したりしないようゆっくりと注ぐ。
ゆっくりと馴染ませつつ、ミルクを入れて、じっくり煮込んでいく。
よーし、完成だ。
「うーん、白くてキレイ! 美味しそう!」
「だろ? シチューと言えばこれなんだよ」
隣で目をキラキラさせているシェリにドヤ顔する。
ミルクの甘やかな香りが、またなんとも言えない……!
さぁ、冬の団らんといこうか!
◇◇◇
「「「いただきまーす!」」」
長机に村の皆が集まり、同時に手を合わせる。
広々としているせいか、暖炉に火をくべているとは言え、食堂はまだ少し寒い。
ま、シチューを食べていれば自然と温まってくるだろう。
「なぁにこれ!? 白いシチューですって?! 聞いたことないわよ!?」
今日は珍しくユースティナもいる。最近はいつも忙しいようで、晩御飯は執務室で摂ることが多かった。ぜひシチューで温まってほしいものだ。
「俺の祖国というか、そういうとこで食べられていた料理さ」
「ふん、レオンが作ったっていうなら間違いないわね! コーヒー牛乳とかも最高だったし。いただきます!」
言って、ユースティナはすぐにがっつきはじめた。
表情をコロコロと変えながら「まぁ!」とか「濃厚ねっ!」とか言っている。味わってくれているみたいでよかった。
「どれどれ……」
俺も習い、シチューへスプーンを伸ばす。
さっそくエンシャントサーモンの切り身をすくい上げ、口へ運ぶ。
「んんっ!」
噛むとじわっと身の旨味が溢れ出し、それがホワイトシチューと相まって、なんともまろやかでジューシーな味わいだ。
下ごしらえの塩味がちょうどいい。
甘いホワイトシチューとのバランスが絶妙だ。
「お次は野菜……っと」
ホウレンソウ的な野菜をすくって、ふぅー、っと息を吹きかけて冷ます。がっつくとマジで火傷するので、注意。
「はふ、おふっ」
んー!
うま熱い!
なんでこう鮭とホウレンソウってこんなに合うんだろう? パスタとかでもいつも一緒だし。
最初にやった人、どう考えてもマリアージュ界の天才児だろ(?)。
感嘆しながら味の余韻を楽しんでいると、テーブルに焼きたてのバゲットが並べられた。こりゃいくっきゃないな。
「これをこうして……」
まずはバゲットにたんまりシチューをのせ、ばくり。
「んんぅ……!」
美味い。
美味くないわけがない。
サクっとしたバゲットの食感が、じゅわりシチューによってふっくらしていくのもたまらない。
よし、このままバゲットをシチューにどぼんだ。
「んんんっ!!」
今度はシチューの甘みの奥から、バゲットのカリカリ感が出てきてアクセントになる。
そこに徐々に味が染み込んでいき、バゲットを噛むとじゅわっと甘みが広がるようになっていく。
あぁ、美味い。なんて美味いのかしら。
てかシチューとパンってなんでこんなに合うのだろう。
最初にやった人、どう考えてもマリアージュ界の天才児だろ(?)。
美味すぎて語彙がおかしくなってきたところで、俺は白ワインをグラスに注ぐ。
そして、クイっと一口。
「ふはぁ……」
鼻に抜ける香りが、これまたなんともふくよか。
濃厚な甘さとしょっぱさに染まった口腔内をリセットするように、さわやかな風が通り抜けたような気分になる。
白ワインとホワイトシチュー、合うなぁぁ。
これ最初にやった人マリアージュ界の以下略。
再び、ぐい、とワインを呷る。
あー、美味い。
「冬のシチューは、いいものだ……」
壺を愛でる敵キャラのような風情で、俺はつぶやいた。
ふと見ると、村人全員で集まれるようにと作った長机には、所狭しと料理が並び、皆の笑顔が咲いていた。
気付けば部屋は、暖かさでいっぱいだった。
:【体力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【知力】が上昇しました
:【精神力】が上昇しました
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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
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更新がんばります!
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