#80 かぐや姫?
「竹、ですか?」
急な訪問にも嫌な顔一つせず対応してくれたアリアナが、少しだけ怪訝な顔をした。
それもそのはず、目的も伝えずにいきなり『竹が欲しい』などと言われれば、誰だってそうなる。
「ああ。ちょっと五右衛門風呂……サウナに続く、ちょっとした入浴施設を作ろうと思ってね。それに必要なんだ」
「へぇ。レオンさんが提案するお風呂なら間違いないですね」
俺の端折った説明に、アリアナは柔らかく微笑んでくれた。
なぜか俺の風呂へのこだわりは高く評価されているらしい。
なればこそ、できる限りその期待に応えたいところだ。
「竹なら、村から少し南に南西に行った林に自生していたと思います」
「へぇ。近くにあるもんだね」
さすがアリアナ、草木や植物の周辺環境の把握は完璧だな。
「それじゃ、さっそく行ってみるよ。教えてくれてありがとうアリアナ」
「いえ、私の方こそお役に立ててよかったです」
「完成したら一番に声をかけるよ」
「ふふ、楽しみにしていますね」
アリアナに見送られながら、俺はさっそく南西の森を目指すことにした。
「クロエも連れていくか」
村の入口を通る際、クロエの小屋が目に入り、連れていくことにした。
「クロエ、竹を探すのに付き合ってくれ」
「ガウ!」
元気のいい返事とぶるんぶるんと振られる尻尾が、またなんとも可愛らしい。
竹を採るついでに、久しぶりにクロエと親睦を深めるとしますかね。
◇◇◇
「クロエ、竹の匂いはするか?」
「クゥゥン」
リバース村、南西の林。
俺はクロエにまたがったまま、上を見上げる。優しく差し込む木漏れ日が温かく、なんとも穏やかな気持ちになる。
「いやー、冬の木漏れ日ってのはなんか癒されるよな」
「クゥン」
「はは、クロエもわかるか」
愛らしい声で鳴くクロエの頭を、よーしよしと撫でてあげる。
このもふもふ、いつまででも触っていられるなぁ。
「お、あれじゃないか」
「ガウ!」
前方、少し明るさが陰ったような場所に、スラっと伸びた濃緑の竹が鬱蒼としていた。
かなりたくさん生えているようで、上部は木漏れ日すら漏れていない。
ぱっと見、美しい竹林というより雑多で荒れ果てた竹藪、という感じだ。
「んー、日本の庭園とかにある竹林って、かなり人の手がかかってるみたいだな」
前世で一度だけ、観光地として有名な竹林を歩いたことがあるが、あれは人の手によって美しく保たれていたものだったんだろうな。
直立して真っ直ぐ育つイメージのある竹も、管理する人間がいなければ曲がって伸びたり途中で折れたりしてしまうらしい。
目の前の荒れた竹藪を見ると、それがよくわかる。
つくづく、人の営みというものの尊さを感じるな。
「よし、竹藪を整備する意味も込めて、採取するとしますかね」
「ガウ!」
「よし、クロエ。あ、あれはタケノコ。食べちゃダメだぞー」
足元には、少しすると竹となるタケノコも、いくつか生えてきていた。
「じゃあ、俺はあっちの方だな。クロエはこの辺を頼むよ」
「ガウ!」
そんなこんな言いながら、俺とクロエは二手に分かれ、竹藪のメンテナンス兼採取を開始した。
◇◇◇
「ふー、なかなかの重労働だな」
前かがみの姿勢から背筋を伸ばし、腰を叩く。
村から持ってきたノコギリで竹の根本付近を切っていく作業をしていたのだが、なんとも腰が痛くなる。
いくら身体を鍛えても、加齢にはかなわないのが人間だと痛感する。
これぞまさに、おっさんの悲哀。
「クロエは捗ってるかな」
気になったので、作業用のノコギリをしまい、クロエが作業している方へ向かう。
「…………ん?」
竹藪を抜け、クロエが作業していたはずの辺りに目を凝らすと、なにやら少女らしき子供が一人、黙々と竹を切っていた。
んー?
もしかしてクロエのやつ、途中で飽きたか?
真面目でよく言うことを聞いてくれるクロエにしちゃ珍しい。
なにはともあれ、今はあの子供を保護するのが先だな。
……ん? なんか腰の辺りにふわふわしたものが揺れているけど、なんだアレ?
子供の間で流行ってるアクセサリーかなにかかな?
「おーい、君ー」
「わんっ!」
「……わん?」
俺が背中側から声をかけると、子供は肩をビクンと震わせてから、おそるおそる振り向いた。
おっと、怖がらせてしまったかもな。
「突然ごめんよ。君、村の子かい? 迷子かな? この辺りはまだ魔物が出ることもあるから、お家に帰った方がいいよ」
「…………」
「えーっと、おじさんはあやしいもんじゃないよ。一応これでも、前は村長をやっていたんだ」
色々と話してみるが、子供はうつむきがちで応えない。
よくよくその顔を見てみると、彼女の頭には黒い犬耳のようなものが生えている。
……これもあれか、流行のアクセサリーか?
「……あの、レオン。わからない、かな?」
「え?」
鈴を転がすような、甘みある声。
いじらしい感じで、言葉を紡ぎはじめる少女。
なんだろう、この恐ろしく庇護欲を掻き立てられる感覚は。
「ボク……クロエだよ」
「っ!? クロっ……ぺ……っ」
今、なんと?
い今、なんとぉぉ!?
まさかのボクっ子ぉぉぉぉ?!
「ご、ごめんよ、驚かせちゃって。この状態の方が、綺麗なまま竹を切れたから……」
自らをクロエだと名乗った少女は、もじもじと指先を合わせながら続ける。
ひょこひょこ動く犬耳が、なんとも可愛らしい。
「今まで黙っていてごめんなさい。ボク、実は犬神っていう種でね、成長すると言葉を覚えて、人の姿に変身できるようになれるの」
「…………」
「ボクね、ずっとずっとレオンと話してみたいと思っていたんだけど、その、言い出すに言い出せなくて……驚かれて、嫌われちゃったらどうしようって、そう考えちゃって……」
「…………」
「レ、レオン? なにか言ってよ。こ、怖いよ」
「…………ゴキっ」
驚きすぎて『っ!? クロっ……ぺ……っ』の辺りで顎が外れていたので、両手で無理矢理に戻す。
痛い。
そんなことより。
俺には言わなければならないことがある。
「大丈夫だ、クロエ。お前――最高に可愛いぞ!!」
風のそよぐ竹林に、俺の魂の叫びがこだました。
クロエったら、人になってもなんて可愛いのかしらん。
:【体力】が上昇しました
:【魔力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【知力】が上昇しました
:【竹取翁】の職業素養を獲得しました
:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました
:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました
:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました
:【一般アクションスキル『関節外し・戻し』】を獲得しました
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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
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