越冬編

#78 リバース村、はじめての冬支度

『覚醒の祠』を攻略してから、はや数日。

 リバース村の食糧庫内で、俺はシェリと共に食料の確認作業を行っていた。


 なんだか、前世の学生時代にしたコンビニバイトの、冷蔵庫裏での品出し作業を思い出すな。


「うーん、これじゃちょっと心許ないかも……」

「えっ。こんなにあるのに?」


 何気なく呟かれたシェリの言葉に、俺は驚く。

 手分けして在庫チェックをしているのだが、ここまで見た感じでは十分な量の食料備蓄があると思われた。


 今、村のみんなは間近に迫る次の季節に向け、忙しなく準備を進めており、この食料の備蓄チェックもその一環だった。


 そう、リバース村に、はじめての冬がやってくるのだ。


「方々を忙しく飛び回っているレオンは知らないかもしれないけどね、村の人口はかなり増えているの。城塞の建築に関わる労働者の人たちだってどんどん流入しているんだから、こんなにあっても不安なぐらいよ」

「ぜ、全然把握してなくてすいません……」


 手早く在庫のメモを取りながら、ぷりぷりとお怒り気味のシェリ。艶めく唇を尖らせて怒っているが、いかんせん横顔が美人過ぎて嫌味を言われても全然腹が立たない。


 彼女のお小言をそんな気分で受け止めながら、俺は棚に積んである食材を眺めた。

 棚には、様々な食材が種類別に並べられている。


 主には、俺が仕留めてきた動物系魔物の肉や、対魔物パトロールのついでに各地で見つけた珍しい食材など。

 他には、各地で手に入れた香辛料や、個人的に集めている珍味などがある。


 食糧庫には俺の氷魔法が半永久的に作用するよう、アリアナが作成した特殊な魔道具が設置されているため、かなり日持ちもするはず。要するにデカい冷蔵庫になっているというわけだ。


 と、このように庫内にはかなりの量の食料があり、保存も問題ない。

 なので冬の間に困ることは特にないと高をくくっていたのだが、どうやらこれでも追い付かないほど、リバース村の発展は著しいらしい。


 まあ、元村長としては喜ばしいことでもある。


「それじゃあ、もっと俺が食料を集めればいい?」

「んー、それはそうなんだけど、またフラフラとどっか行かれちゃうのもなぁって感じ」

「それを言われて俺はどうすれば……?」

「女心は難しいの」


 在庫チェックを終え、扉を閉めながらウインクを送ってくるシェリ。むーん、相変わらずチャーミングな魅力が爆裂しているぞ。


「ふぅ、やっぱり食糧庫の中は冷えるな」

「もう外の気温もあんまり変わらないけどね」

「確かに」


 食糧庫内はかなり低温に保たれていて、上着なしではいられないほどなのだが、もはや冬を迎えようとしている今、外気温とあまり温度差がなくなっていた。


 本格的な冬が近いな、とつくづく感じる。


「こういう季節はみんなサウナに入りたがるだろうから、あのサイズじゃもう狭いかもしれないね」

「だなー。でも個人的には冬は湯船に入りたいな」

「いいねー、湯舟。温まりたい」


 はぁ、と自分の手に息を吹きかけて暖を取るシェリ。

 その横顔がなんとも美しく、一瞬見惚れてしまう。


「さて。いったんここはオッケーだから、レオンは他の人たちを手伝ってあげて」

「あ、ああわかった。シェリも適度に休憩しながらね」

「うん、ありがと」


 にこりと微笑まれて、若干ドギマギする。

 いかんいかん、おっさんのドギマギとか犬も食わんぞ。


 俺はシェリに手を振られつつ、食糧庫を離れた。


◇◇◇


 次にやってきたのは、アリアナの植物小屋だ。

 可愛らしい三角屋根の小屋には、所狭しと植物や薬草などの鉢植えがある。


 そこでアリアナは、植物を虫眼鏡のようなもので、丁寧に観察していた。

 優しい手つきからは、植物たちへの愛情が感じられる。


「アリアナ、なにか手伝うことはある?」

「あ、レオンさん。いえ、レオンさんのお手を煩わせるほどのことは特には……くしゅんっ」

「大丈夫? これ使って」

「あ、ありがとうございます」


 アリアナは小さくくしゃみをしたあと、遠慮がちに首を横に振った。

 その肩に上着をかけ、再びたずねる。


「じゃあ、畑の方は? 野菜も冬支度とかあるんじゃないか?」

「野菜の冬支度も終わっています。あれは夏の終わりにやっておくものなので」

「はぇー、そうなんだ。さすがアリアナだ」


 俺程度の思考では、アリアナの優秀な頭脳を上回ることはできないらしい。

 いくら元村長とは言え、ここまでまったく持って役に立てないのは寂しいし悔しいなぁ。


「じゃ、じゃあ重いものとか運ぶよ」

「ありがとうございます。助かります」


 苦し紛れに、足元にあった肥料袋などを持ち上げる。

 その他にも、畑仕事で使う道具類を片付けた。


「もしまたなにか手伝うことがあれば呼んでくれ」

「はい、ありがとうございます」


 アリアナの可憐な笑顔に見送られ、植物小屋を後にする。

 次はクロエのところにでも行ってみるか。


◇◇◇


 アーチ状の看板が立てられた、リバース村の入口。その門柱の横に、今のクロエのお家がある。

 今のクロエは、リバース村の番犬であると同時に、守護神と呼べる存在なのだった。


「クロエー。どうだ、寒くないか?」

「ガゥ」


 呼びかけると、小窓のようになっているところからひょっこりと顔を出してくれる。ガンガン大きくなり、今や見上げるような巨体の彼女だが、職人さんに特注で作ってもらった犬小屋でくつろいでいる様子だ。


 まぁ、もはやそれは犬小屋というより、平屋の一軒家みたいな大きさなのだが。


 俺が作った犬小屋は、今現在は小屋の手すりに変わっている。

 愛着を持ってくれているのか、たまにそこをペロペロしているのを見る。


 まったく、カワイイやつめ。


「よしよしー、クロエー。なんか困ったことあるかー?」

「アウ、ガゥゥ、クゥーン」


 背伸びして、クロエが下げてくれた頭を全身でわしゃわしゃする。

 あぁ、癒される。


 クロエも気持ち良さそうに目を細めている。あぁ、クロエ。お前はどんなに巨体になっても、俺の可愛いワンコちゃんだぞ。


「ガルゥ……ベックシッ!!」

「がふっ!?」


 と、突然クロエがくしゃみをした。俺はその圧によって若干後ずさる。

 とんでもない威力の空気砲だったぞ!?


「ワウ、グルゥゥ」

「あー大丈夫大丈夫、気にするなよークロエ―」


 駆け寄ってきてくれたクロエを再び撫でてやり、俺は鼻をすする。

 うーん、どうやら本格的な寒さがやってきているみたいだな。


「シェリもアリアナもクロエも、寒そうだよなぁ」


 ふと、つぶやく。


「……よし」


 そこで俺は、冬に向けて自分がするべきことを思いつく。


「五右衛門風呂でも作るか!」


 またも、趣味に流れる俺。

 でもまぁ、マイペースに生きるというのが今世のモットーだしな。

 魔法を使いながらなら、すぐにサクっと作れそうだし。


 やるだけやってみるとしますか!



:【体力】が上昇しました

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:【雑用係】の職業素養を獲得しました

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:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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更新がんばります!

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