#77 趣味回:食事編 モンスタージビエのハンバーグ

『覚醒の祠』を出た俺は、まだセントラ山脈の中腹にいた。

 すでに日は落ち、辺りは色濃い闇をたたえている。


 今は祠への道すがらに見つけた川のほとりに、動物の皮や骨で作った一人用テントを組み立てて腰を落ち着けたところだ。


 なぜ、まだ山にいるのかと言えば。


 最初の目的であるソロキャンプを敢行するためだ。

 転生前は地方に住んでいたこともあって、「山なんて車で一時間もあれば行ける」と高をくくって、ほとんどソロキャンプに行っていなかった。


 もったいない、もったいないぞ俺!

 ソロキャンプ、行けるときに、行っておこう。

 おっと、思わず詠んでしまった。


 というわけで、今晩は山でわくわくさんな一泊なのである。

 一応村のみんなには許可をもらっている。女性陣が自分たちも連れていけと言っていたが、なんとか今日だけはソロを許してもらった。


 で、だ。

 なによりお楽しみの、晩御飯のメニューと言えば。


 ジビエハンバーグを作ろうと思う。


「レッツクッキング!」


 おっと、やばいやばい、テンションが上がりすぎて叫んじゃったよ。

 誰もいない夜の山に、おっさんの恥ずかしい叫びがこだましている。


 まぁ、魔物除け(逆に引き寄せる?)にもなるしいいか。


 開き直り、さっそく調理にとりかかる。


 まずは、血抜きなどの下処理をしておいた肉たちを、紅呉魔流べにくれまるとナイフで細かく刻んで叩いていく。この作業にはケルベロスウェポンは大きすぎて向かないので、一足先にテントでおやすみ中だ。


 まぁ、俗にいうチタ〇プみたいなものである(正確には一人なので違うんだけども)。


 そうしてかなり粗びきなジビエ挽肉を作り、持参した塩、コショウを振って下味をつける。パン粉などのツナギは一切使わず、肉純度百パーセント(?)で勝負する。


 これぞまさしく、男のハンバーグだ。


 レシピの参考は前世でよく見ていた、料理系配信者の動画だ。

 きちんとした手順などはあまり覚えていないので手探りだが、まぁ肉が新鮮だしなんとかなるだろう。


 今回使う食材のトナカイ肉(バーサクカリブー)とクマ肉(フレンジーベア)は、両方とも脂肪が少ない。

 そのため、たくさんこねて粘り気を出さないと、焼いたときにボロボロと型崩れをしてしまう。


 なので、こねる。肉をこねてこねて、こねまくる。


 記憶では確か、脂の多い肉を混ぜ込むなどの工夫をしていたレシピもあった気がするが、気分的にあまり小細工はしたくない。

 とにかく、肉だけで作ったハンバーグ、いや、こねて焼いた肉の塊が食いたいのだ!


「ふぅ、こんなもんか」


 筋力の許す限りこねまくり、肉の様子を見る。

 うん、しっかりと粘りが出てきていて、これなら焼いても崩れなさそうだ。


 焚火の周りに適当な大きさの石を組み上げ、簡易的なコンロを設える。

 ここにフライパンをセッティングし、油を引く。


 そこへ、一塊にして中の空気を抜いた肉塊を、静かに滑り入れる。


 じゅううぅぅぅぅ


「たまらんっ」


 この音。

 肉と油が陽気に踊り出している。

 このままだと空腹が限界突破してしまう。


 肉からじんわりと肉汁が溢れ出ている。

 あーもう食いたい。食いたいよハンバーグ。


「い、いかんいかん」


 口の端からだらしなくよだれが出そうになり、慌てて拭う。

 危ない危ない、美味そうすぎて脳機能が低下してしまった。冷静になれ、俺。


 そういえば、俺ったらもう覚醒の祠でちょっと飲んでしまっていたんだったな。

 軽く酔った状態でこの我慢タイムはキツイものがある。


 深呼吸して冷静になろう。

 すー、はー。


 気を取り直して、木べらを使って肉をひっくり返す。

 

 じいぃぃゅぅぅ


「う、うまそう……」


 返した面にはこんがりと焼き色が付き、焼き目の間からてらてらと輝く肉汁が湧き出ている。

 あぁ、早く食べたい!


 が、ここで焦ってはいけない。


 またも口の中に溢れ出るよだれをなんとか押し止め、もう一度深呼吸。

 料理は冷静に、である。


 ハンバーグの中の部分にまで適度に火を通すため、フライパンに蓋をする。

 あの神々しいまでのお姿が見えなくなるのは切ないが、さらなる美味しさのため、我慢する。


「さて、と」


 切り替えるように声を出し、気を取り直す。


 付け合わせでも作るとしますか。

 鉄板料理の付け合わせと言えば、マッシュポテトだ。


 ゆでておいたジャガイモの皮を剥き、適当に潰す。

 その際、塩・コショウ、バター、牛乳を少々加え、ペースト状になるまで混ぜ合わせれば、マッシュポテトの完成だ。


 うーん簡単簡単。


「そろそろか……」


 マッシュポテトができたタイミングで、蓋を取る。

 すると。


 じゅわああぁぁぁぁ


「もう我慢できないっ!」


 完璧な焼き色をまとってコンニチハしてくれたハンバーグに、思わずフォークを伸ばす。刺した瞬間、ぴゅ、と弾けるように肉汁が飛んだ。


「いただきます!」


 そのまま焼きたてを、荒ぶる食欲のままに口へ運ぶ。


「んーーーー!!」


 まず、熱い。

 しかしそれを追い越すように芳醇な肉の旨味がガッと押し寄せる。

 繋ぎが入っていないので噛み応えもあり、噛む度に肉がプリっと弾ける。


 ジビエ肉だからか、コクと旨味が強い。

 おかげで飲み込む際にも、肉のあじわいが喉にぎゅーっと感じられる。


 美味い!!


「ソースなしでも全然いいな!」


 上機嫌に叫び、ワインを煽る。

 くぅーー! 肉には赤が合う!!


「味はガツンとくるのに、全然しつこくない」


 再び、ハンバーグにかじりつく。

 脂が少ないからなのか、味の濃さに比べてしつこさがないのだ。


 これなら何個でもいけちゃうよ!


「お次はこうだ!」


 今度はマッシュポテトを添え、一緒に味わう。

 クリーミィなマッシュポテトが、肉の旨味をさらに引き立てる。


 完全にアリ寄りのアリですこれは!


「最後は……!」


 半ば狂乱状態に突入した俺は、持参した丸パンを取り出し、真ん中から半分に切り分ける。

 そう、ちょうどのような形だ。


 そこへハンバーグを挟み込み、アリアナにおすそ分けしてもらった葉物野菜をサンドする。見栄えの良いトマト的な野菜もあるので、もう完璧中の完璧と言える。


 おしむらくは、トマトケチャップがないことぐらいか……!


「即席ハンバーガー、いただきますっ!」


 顎が外れんばかりに大口を開け、一気にかぶりつく。


「んんっ!! うんまっ!!」


 一度頬張るだけで、肉汁と喜びが、止まらない。

 肉の味をバンズがしっかりと受け止め、野菜たちがシャキシャキとした食感を加え、トマトの甘みと酸味が最後に味を締める。


 ソースなどないのに、抜群に美味い。


「はぁ。まさか、ハンバーガーが食べられるとはなぁ。感動だぁ……」


 押し寄せる感動に思わず夜空を見上げれば、満天の星。

 よく通っていた近所の赤い看板のハンバーガー屋を思い出し、ちょっとだけしんみりする。


 あぁ、エモいぜソロキャンプ……!


 そうして、ソロな夜は更けていった。



:【体力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【運】が上昇しました

:【ソロキャンパー】の職業素養を獲得しました

:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました

:【魔導狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

:【一般パッシブスキル『野営◎』】を獲得しました

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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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