#74 覚醒の祠、厄介につき

 覚醒の祠らしき洞窟に足を踏み入れると、中はひんやりとして不気味なほど静かだった。

 薄暗い岩の洞窟が奥まで続いているが、所々に誰が設置したのか、松明のような炎が揺らめいている。


 スキルのおかげか、暗闇で完全に視界がなくなることはないが、明かりがあるのはありがたい。


「……ん?」


 と、そこで洞窟内の静寂を破るように足音が聞こえた。

 姿は見えないが、魔物だろう。


「ここの敵はこっちの強さに合わせて出現するからな。油断できん」


 俺は武器の柄に手を伸ばしつつ、独り言ちる。

 そう、覚醒の祠の中に出現する魔物たちはすべて、こちらのステータスに比例した強さで現れるのだ。


 端的に言えば、こっちがクソザコな能力値ならクソザコな魔物が出現する、というわけだ。


 逆に、もしこっちがカンスト級のステータスに成長していたならば。


 敵も全員、カンスト級の強さを持って現れるということだ。

 ……で、だ。


 冷静に、今の自分のステータスを予想してみる。


「おそらく激ツヨのバケモノ共が出てくるよなぁ……」


 どれだけ自分のステータスを謙遜したとしても、かなり強力な魔物しか出てこないだろう。

 武器などが良かったとは言え、クラーケンを一撃で葬るステータスなのだ。いくらなんでも普通以下の強さというわけはあるまい。


 実は、これが今回単独でここに来た理由だった。

 俺の能力値に対応した魔物がわんさか出現するダンジョンに、いくら頼もしい仲間とは言え、リバース村の女性陣を連れて来るわけにはいかなかった。


 クロエについては逆で、俺より強い魔物が出現した詰むので留守番してもらった。


 覚醒の祠はその名の通り、究極職の覚醒を促すダンジョンだ。

 ゆえに、自分と対等な強さを持つ魔物が出現するここの攻略を試みることで、職業熟練度の大幅な向上を促し、スキルなどを多数獲得するように仕向け、覚醒に相応しい経験値を積んでもらうという意図があったのだろう。


「さて。そんじゃいっちょ気合い入れていきますかね」


 思考を打ち切り、現状に集中する。


 先を見ると雑魚モンスターの代名詞であるスライムとゴブリンが、無警戒と言っていいぐらいの無防備さでその辺をうろついていた。


 覚醒の祠は洞窟状のダンジョンだが、空間的にはあまり広くない。なので、大剣であるケルベロスウェポンではなく、紅呉魔流の方へと手を伸ばした。


 腰に下げた鞘の鯉口に手を添え、いつでも抜刀できるよう備える。


「ギギ?」「…………?」


 コンビで動いているらしきゴブリンとスライムが、こちらの気配に気づいたようだ。

 なんとも、俺の隠密性能すら無視して勘づいてくる時点で、かなり手練れだ。


 雑魚なのは外見だけで、やはりヤツら、かなり強い。


「ギッ!!」

「んなっ?!」


 そんな風に考えていたのも束の間、とんでもない速度でゴブリンが接近し、こん棒を振り回してきた。紅呉魔流で受けるが、その一撃の重さに一瞬怯む。


 こんなの、ゴブリンの攻撃力じゃねーぞ!?


「…………!」

「おわっ!?」


 今度は音もなく、スライムが身体をぐんと伸ばしてから目前で弾けた。

 俺は咄嗟に身体をひねって回転させ、瞬間的な竜巻を発生させてスライムの体液を吹き飛ばし防御した。


「岩肌が溶けてるじゃねーか……!」


 瞬間の判断は功を奏したようで、あれを喰らっていたら大ダメージをもらっていただろう。

 高レベルのスライムは身体が硫酸のように溶解させる力を持つようで、相手の至近距離で身体を弾けさせる攻撃は、まるで散弾銃のようだ。


「グギギ!!」


 そこへ、再びゴブリンがこん棒の先端を向けて突進してくる。

 好き勝手させるかっての!


「『フリージングウォール』!!」

「ギガャ!?」


 地に手を着き、突っ込んできたゴブリンの眼前に氷の壁を出現させる。

 氷と衝突したゴブリンはこん棒を手放し、尻餅をついた。


 今だ!


「おらっ!」

「ギギャアア!」


 隙を逃さず、ゴブリンにトドメを刺す。

 そしてすかさず、ゴブリンが持っていた大きなこん棒を拾い上げる。それと同時に魔力を練り上げ、スライムへ向けて氷属性の魔法を発動。


「『エイムブリザード』!!」


 最近習得した新魔法で、ヤツを氷漬けにする。


「お前にはこれもくれてやる!」

「…………!!」


 動きが止まり、半ば氷塊のようになったスライムの身体へ、ゴブリンのこん棒を目いっぱいに叩きつける。

 

 バキバキと派手な音を立てて、スライムは砕け散り絶命した。


「ふぅ。こりゃなかなか厄介だな」


 戦闘を終え、痛感する。

 ここでは高ステータスによる一方的な蹂躙ができない。なのでその分、常に戦術的な戦い方が必要とされるというわけだ。


「ま、望むところだ」


 が、これこそが究極職の覚醒への近道というのなら、どんと来いだ。

 俺はもっともっと、強くならなくちゃいけないからな。 


 改めて気合を入れなおし、紅呉魔流を鞘に納めてから、慎重に行軍を再開した。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【魔剣王】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【魔導狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

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