#73 空中での戦い

 透き通るような青空の下、俺は相変わらずセントラ山脈へとアタックしていた。


 登山において、過信はとにかく禁物だ。

 油断したその一歩が泥濘ぬかるみにはまり、大怪我に繋がってしまうことだってある。


 一歩一歩、足場を確認しながら踏みしめるように歩く。


「ふぅ。この辺りから岩場だな」


 自然を楽しみつつ、魔物を屠ることでステータス向上もしながら、ゆっくりと山を登ってきたが、ここからは一気に様相が変わってくる。


 急斜面や不安定な足場ばかりの、岩場を攻略しなければならないからだ。


 剥き出しの岩はかなり滑るため、足場が安定せずに危険が増す。さらに、岩肌は平らな面はほぼなく、全てかなりの傾斜があり、平衡を保つことすら難しいだろう。


 しかも、極め付きは。


 真っ青な空に斑点のように浮かぶ、影。

 俺の位置からでは正確な大きさはわからないが、かなり大きい気がする。


 おそらく、鳥型の魔物だろう。


「ったく、退屈しないよな」


 やれやれ、と言わんばかりに俺は一度かぶりを振ってため息をつく。

 村の仲間、ルルリラを連れ去った憎っくき魔王をぶっ倒すためだ。戦闘の一つ一つが、会心の勝利への一歩一歩だと思おう。


「グギャア!!」「ギギィ!!」「ガァ! ガアァ!!」


 岩場を少し登ったところで、頭上が騒がしくなる。

 どうやら、空を飛んでいた鳥たちが俺を獲物だと判断したらしい。


 うーん、たぶん俺を食べても美味しくないですよー。

 美味しいものは結構いただいておりますが。


 そうこうしているうちに、先陣を切ったように一匹が急降下してくる。

 徐々に接近してくるその身体は、予想以上の巨体だった。


「グギャッ!」

「うおっ!?」


 魔物は、大きなくちばしを開いたまま突っ込んできた。

 マジで俺を食べる気満々かよ!?


「あ、危ないなぁオイ」


 俺は横っ飛びでなんとか攻撃を回避する。受け身を取るように、岩肌をゴロゴロと転がり、自作したピッケルを取り出して停止する。

 ふぅ、危ない危ない。


 予想以上の大きさと降下速度に驚かされたが、本格的に岩山を上る前で助かったな。


 今しがたまで俺がいた場所を見ると、固い嘴によって岩肌に線が走っている。

 あんなものに食いつかれようものなら、人間の肉なんて簡単にちぎられてしまう。


「デスヴァルチャーだったな」


 すでに上空へと戻っていた魔物は、死のハゲワシ、デスヴァルチャーだ。

 羽を広げるとパラグライダーみたいな大きさになる、厄介な空の魔物である。


 おそらく攻撃が当てられさえすれば一撃で倒せると思うのだが、いかんせん相手は空を飛んでいる。


 ヴァンがいれば『エアリフト』をかけてもらい、ヤツらの高度まで行って一網打尽にすればいい。が、残念なことに、俺はまだエアリフトを習得できていないのだった。


 正確に言えばあの時は、俺にエアリフトをかけたのではなく、クロエにかけてもらって背に乗って戦ったんだったな。


 ――と、そこで。

 一つの妙案を思いつく。


 またも、デスヴァルチャーが俺めがけて空中から急降下してくる。

 しかも今度は三位一体、同時攻撃だ。


「やってみるしかないよな」


 見上げてから、俺は身構える。

 デスヴァルチャー三体が、激しい十字砲火の如く三方向から突っ込んでくる。


「ぃよっと!」


 ヤツらの攻撃の瞬間――俺は大きく跳躍し、中空に身を遊ばせる。

 そして、すかさず。


 デスヴァルチャーの背に着地する。


「グギャ!?」「ギギィ?!」

「おし、狙い通り!」


 背中に陣取られたデスヴァルチャーは、焦ったように首を回している。が、可動域の問題で、俺を視界に捉えることはできない。


 俺を背中に乗せたまま、空高く戻っていくデスヴァルチャー。

 先ほどよりもうるさくギャーギャーと騒ぎ立てているが、きっと二匹の会話の内容はこんなところだろう。『おい、お前の背中に乗ってるぞ!』『わかってるけどどうすりゃいい!?』


「悪いけど、為す術なしだ」

「グギャア!」


 背中から、俺は紅呉魔流でデスヴァルチャーを一刀両断する。

 そして、その身体が沈み込む前に――次の背中へと、飛ぶ。


「せいっ、でいっ」

「ギギャ!?」「グギェ!?」


 タン、タタン、とリズムを刻む感じで、デスヴァルチャー達の背中を飛び跳ねるように移動しつつ、全員を一撃で撃破していく。


「最後の一匹!」

「ギャ!?」

「よし、お前にはちょっと頑張ってもらうぞ」


 言って、俺はデスヴァルチャーの首根っこを掴む。

 んで、ちょっとそこまで飛んでもらうことにする。


「すんげー景色。鳥って気持ちいいんだな」

「ギャアァ! シギャア!!」


 暢気のんきに高所からの景色を楽しむ俺に対して、乗り物にされているデスヴァルチャーが抗議の叫びを上げていた。


「お、もしかしてあれか?」


 と、下の方へ視界を動かすと、トーテムポールのようなものが立っている入り口があった。


「んじゃ、ありがとうな」

「ギャア! グギャア!!」

「うわ、危ねっ」


 ここまで運んでくれた一匹に礼を言ったが、身体をねじるようにして俺を落とそうとしたので。


「ていっ」

「グギャ!?」


 結局とどめを刺す。

 俺ってば、冷酷無比。


「いよいよだな」


 上手く着地し、俺はぽっかりと口を開けた祠の入口を見つめた。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【運】が上昇しました

:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました

:【魔導狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

:【一般パッシブスキル『冷酷無比』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『空中八艘飛び』】を獲得しました

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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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