#72 セントラ山脈を登る

「いやー、肉眼で見るとまた荘厳だなー」


 シュプレナードが収める領土の最西端、雲を突くような山々が連なる、セントラ山脈。

 俺は『ジャンプ』で、そのふもとまでやってきた。


 セントラ山脈自体はゲーム内でダンジョン扱いになっており、俺もゲームで行ったことがある場所なので、山頂に飛ぶことも一応は可能だ。


 だが、今回は自分の足で頂きを目指すことにした。


「久しぶりにアウトドアもしたいしな」


 極めて個人的なことなのだが、ちょっと登山を楽しみたいと思ったのだ。

『LOQ』はオリジナル版でもリメイク版でも、すごくグラフィックに凝っており、ここセントラ山脈もとんでもなく美しい山々となっていた。


 なので、そんな景色を楽しみながらアウトドアご飯なども楽しめたら最高だなと思い、麓からスタートすることに決めた。


 今はもう肌寒くなっているので、油断なく準備は整えてきたつもりだ。


「さて、いくか」


 備品を詰め込んだ革のリュックサックを背負い、俺は歩き出す。

 当たり前だが舗装された登山道などはないので、なかなか険しい道のりになることだろう。

 ま、いざとなったらジャンプ使えばいいし(元も子もない)。


 ちなみに今回は“とある理由”があり、単独で来た。

 最近はずっと村で皆と作業したりしていたので、たまには一人でソロキャンプするというのも悪くない。


 いやー、それにしても空気がうまい。


 深く吸い込むと、気道と肺が浄化されているような気分になる。

 大気に淀みがなく、澄み切っているのがよくわかる。


「森に入るとだいぶ暗いな」


 少し歩くと、すぐに鬱蒼とした森に入った。日が遮られて、結構暗くなる。

 セントラ山脈は麓の辺りは森林で、標高が高くなるにつれ巨石が転がる岩山になるので、森を抜ければある程度の明るさは確保できるだろう。


「お出ましか」


 と。

 木々の間、ガサガサと音を立てながら、四足歩行の魔物が顔を出した。

 目が異様にギラついており、こちらを威嚇するように睨んでいる。


 セントラ山脈は美しい山々ではあるのだが、ダンジョンであるがゆえ、当然魔物が出現する。


 まぁ、それも織り込み済みではある。


「バーサクカリブーか」


 魔物の姿を観察し、判断する。


 木の幹をそのまま頭に突き刺したような二本角が特徴の魔物で、要するに暴れん坊のトナカイだ。

 確かトナカイの肉は綺麗な赤身肉で、高たんぱく低脂質な、ダイエットにもってこいの食材だったはず。


 ……よし、いただきだな。


「おりゃ」

「ブォ――」


 決意した刹那、腰に下げた紅呉魔流べにくれまるで『居合い斬り』する。

 すとん、とバーサクカリブーの首が落ちる。


「よし、トナカイ肉ゲット」


 一瞬で息の根を止め、素早く血抜きなどを済ませる。

 そして各部位に分け、毛皮や角、食べきれない肉などを『ルームーブ』でリバース村の保管庫へ一直線。


 命の全ては、有効活用。

 狩猟のあと、こうして生き物を解体していると、人も動物も自然も、こういう命の循環で成り立っていることをひしひしと感じる。


「ブォ、ブフォ」

「……げっ」


 血の匂いを嗅ぎつけたのか、興奮したように鼻を鳴らしながら出てきたのは、フレンジーベアだ。


 立ち上がると三メートル以上になる巨体を持つ、強力な魔物である。


「ボォーー!!」

「っ!?」


 興奮状態のフレンジーベアは、獰猛な叫びを上げながら突進してきた。

 熊が突っ込んでくるのってすげー怖い!?


「むんっ」

「コォ――」


 だが、怯むのは一瞬。

 大太刀を振り抜き、沈黙。


 フレンジーベア、瞬殺である。


「こんなにデカくて恐ろしい熊を相手にしてる猟師さんたちって、やっぱすげーな」


 バーサクカリブーと同じようにフレンジーベアを解体しながら、改めてつぶやく。

 今の俺はスキルや場慣れした影響もあり、巨大な野生動物と対峙してもそこまで恐怖に駆られることはない。


 が、山や森などで狩猟して暮らしている猟師の人々は、常にギリギリの命の駆け引きを行っているわけだ。

 そうした人たちのおかげで、肉や毛皮などが市場に並んでいるのだと思うと、本当に痛み入る。


 その後も何匹かの魔物を屠りつつ、一歩一歩踏みしめるように森を進んだ。


「お、森を抜けたか?」


 木立を抜けると、今度は急に明るくなる。

 開けた場所に出ると、透明度の高い小川が流れていた。

 ちょうどいい、少し休憩するとしよう。


「川縁は癒されるな」


 川近くの岩場に腰を下ろし、一息つく。

 水に触れてみるととても冷たく、キンと目が覚めるようだった。


「うん、うまいな」


 手で救い上げて、小川の水を味わう。

 歩いた分の疲れが、一瞬で消え失せた。


「それにしても、今日はジビエパーティーだな」


 戦利品であるジビエ肉を入れた袋を掲げ、ニヤリとする。

 思い付きで登山をすることにしたけど、こうして心の癒しにもなるし食材は手に入るし、さらにステータス向上にもなる。


 うん、一石二鳥どころか、一石三鳥いっせきさんちょうだな。

 山頂さんちょうを目指すだけに、ね。


 ……我ながらさぶっ。


「よ、よーし、この調子でいくぞ」


 くそ寒いおやじギャグを考えてしまった自分の加齢を感じながら、俺は山頂へと足を踏み出した。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【魔剣王】の職業熟練度が上昇しました

:【魔導狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

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