#70 趣味回:食事編 クラーケンのフルコース

「みんなのところに回ってるかー?」

「「「大丈夫ー」」」


 魔族との激闘を終えた、リバース村から少し離れた海岸。

 俺たちは急ごしらえした大きい木製テーブルを前に、全員あぐらや正座で、砂浜に座り込んでいた。


 一緒に戦ってくれたシュプレナード兵たちも、当然一緒だ。


「それじゃ……いただきます!」「「「いただきまーす」」」


 そう、食事である。

 そして勝利の祝賀会でもある。


 メイン食材は、獲れたばかりの――巨大タコ、クラーケン。

 すでに皆で調理し、食卓の主役としてテーブルに並んでいる。


 いや、それにしてもタコの下ごしらえは大変だった。


 じゃぶじゃぶと水で洗い、塩で揉んでぬめりを落とすのがとにかくきつかった。

 クラーケンは身体が大きく筋張っている箇所が多数あったので、それを切っていくのもなかなか骨の折れる作業だった。


 とんでもなく巨大な鍋に湯を沸かし、「五右衛門の釜茹でか!」と思わず突っ込んでしまった。誰もわかっていなかったようで、なんの反応もなかったのが悲しい。


 そんなこんなを経て、調理されたクラーケンはテーブルの上――豪勢なフルコースの様相を呈していた。


「これって……美味しいの?」


 テキパキと働き、ようやく隣に腰を降ろしたシェリが怪訝そうに言った。

 タコをはじめて食した人も、もしかしたらこんな顔をしたのかもしれない。


「確かに見た目は若干アレだけど、大丈夫、味はお墨付きだ」


 そう、タコだけに。

 俺は下ごしらえ中にすでに味見を済ませている。

 クラーケンは紛うことなきタコで、味や食感もそのままタコだった。


 少し生臭さが強かったが、そこも入念な水洗いと塩揉みによって消えている。


「じゃあ、俺が先陣を切ろうか」


 皆、少しばかり食べるのを躊躇しているので、俺が毒見とばかりに一番にいただくことにした。

 ぶっちゃけありがたい。実はもうお腹ペコペコなんですのよ。


「じゃ、まずは刺身から」


 やはりここは、一番に味わいたいお刺身からいくことにする。

 身の白と皮の薄紫のコントラストが美しい刺身は、一度下茹でをしたタコを薄切りにした。


 おそらく、食べたことのない人からすると所々にある吸盤がグロテスクに感じられるのだろうが、タコが美味いと知っている俺からすればなんてことはない。


 吸盤の縁の部分が、またコリコリして美味いのだ。


「いただきます」


 全国パトロールの際におすそ分けしてもらったしょう油とワサビをちょろりと付けて、口へ運ぶ。


 ……んーっ、ツンと抜けるわさびの辛味のあとに、じゅわっ、コリッというタコ独特の食感がいい!


 味自体は淡泊なのに、噛んでいると塩気とほのかな身の甘みが感じられ、なんともそれがクセになる。


「お次は……っと」


 刺身を一気に三枚ほどぱくぱくいただいてから、次に目を付けたのはからっと揚がったタコの唐揚げだ。

 巨大だったクラーケンの足を、これでもかと言わんばかりに細切れにしてあるので、とんでもない量が皿に盛られて小高い山のようになっている。


 小皿に取った塩にワンバンさせて、一口で頬張る。


「あふっ、あつ、ふはっ」


 ザク、っと揚げたての衣が音を立てたと思ったら、すぐに中からアツアツのタコのエキスが溢れ出てくる。


 この辺で、ちょうど近くの皆が「ごくり……」と息を飲んだ雰囲気が伝わってきた。


「ささ、みんなもいただいてみて」

「「「い、いただきまーす!」」」


 皆を促すと、各々がタコ料理に群がり出した。

 隣のシェリは「んー」と恍惚とした表情で口元に手を添えている。


 どうです、タコ。美味いでしょう美味いでしょう。


「どれ、それではメインを、っと……」


 タコという新しい美味を知った皆の顔に満足し、俺はメインとも呼べる最後の一品――タコ飯へと手を伸ばす。


 そうそう、ずっと所望していた米だったのだが、最近ようやく米に似た作物を取扱っている地域を発見した。ただ、一度炊いてみたところ、プレーンな白米と言うより少し香辛料っぽい風味があった。


 なので今回、タコ飯にしてみようとなったわけなのだった。


「開けるぞー」「「「ふぁふぉみみぃ」」」


 皆戦いでお腹を空かしていたのか、がっついているせいで何を言っているのかわからない。リスのように頬が膨らんでいるシェリがカワイイ。


 大鍋の蓋を開けると、もわっと湯気が上がる。

 うん、蒸らし完璧だな。


「あー、いい香りだ」


 鼻を抜ける、海鮮の香り。少し茶色く色づき、米が光っている。

 あー、これ絶対美味いヤツ。


 木を繰り抜いて作ったしゃもじで全体を混ぜてから、木の茶碗によそう。


 しっかりタコと米を一口大に取り、口元へ。

 ……いただきます。


「ほっ、ほふ」


 炊き立て、熱い。

 口の中で転がしながら熱を逃がす。


 落ち着き、味わう。


「んん……んん!」


 思わず、顔がにやける。

 今回はしょう油としょうがで味をつけたが、なんとも絶妙である。


 元々米にも風味がついていたうえ、タコにも味が染みているので、一緒に食べるとちょうどいい味加減になる。


「あ……こんなのはどうだ?」


 俺は思い付き、わさびとしょうひを付けたタコの刺身で、タコ飯を巻くようにして食べてみた。


 んー!

 わさびがいいアクセントになる! たまらない!


「あぁ、幸せだなぁ」


 ごくっと飲み込んで、つぶやく。

 ワイワイガヤガヤと、嬉しそうな楽しそうな、とにかく幸福そうな皆の顔。


 それを見るだけで、なんだかたまらなくいい気分になった。


「これが……俺たちが守った場所なんだよな」


 言って、小さく笑った。


 最後にひとつ、言っておかなければならないことが。

 この後、タコを肴にしてワインを開けまくりました。


 たぶん明日は二日酔いです。



:【体力】が上昇しました

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:【一般パッシブスキル『ゲテモノ食い』】を獲得しました

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:【魔導狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

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