#69 クラーケン襲来

「はぁ……はぁ……大勢は決した、か……?」


 ギンリュウとの一騎打ちを制し、ガレオン船を転々としながら単独で魔族を屠っていた俺は、魔族の数が目減りしてきたのを感じて、呟く。


 海岸の方でも、もはや魔族は風前の灯火。

 勢いづいたリバース村軍団を、跳ね返す力など、もはやなかった。


 ユースティナが腕を突き上げて、勝鬨かちどきを上げていた。


「グオオオオ!!」

「むんっ」


 刹那、襲い掛かってきた魔族を一刀の元に切り捨てる。

 ギンリュウから受け継いだ大太刀、紅呉魔流べにくれまるだ。


 刀身の広いグレートソードであるケルベロスウェポンに比べて、日本刀型で刀身が細い紅呉魔流は小回りが利く。

 先ほどから何度か使わせてもらっているが、パワーで押す場合のケルベロスウェポン、手数でいく場合は紅呉魔流という感じで使い分けるのがいいだろう。


 ギンリュウ以後の戦闘のおかげで、いくつかのスキルも覚えたし、この調子でどんどん強くなっていきたいところ。


「……ん?」


 と、本能的な闘争本能も失い、怖気づいた様子で逃げ帰って行く魔族が出始めた頃。かなり静かで落ち着いていた波が、ざざ、ざざぁと大きな揺らぎを刻み始めた。


 大質量のガレオン船を揺らすほどではなかったが、確実に波は大きくなりつつあった。


「この空気……嫌な予感がする」


 大気が、冷えている感じがした。

 張り巡らせている危機察知系のスキルが、全身に違和感を伝える。


 なにか、近付いている――まるで魔族襲来を告げられた時のような不気味な感覚が、肌を粟立たせていた。


「おいなんだアレ!?」「お、大きすぎる」「大波が来るぞ!!」


 俺が周囲を警戒していると、海岸の方から村人らのざわめく声が聞こえてきた。

 海辺に現れる、巨大なもの……?


 まさかと思い、俺はひゅっと息を飲む。

 俺は慌てて背中側、海の方を振り返る。


 すると。


「っ!?」


 視界に飛び込んできたのは――


「クラーケン!?」


 ズボボボボオオオオオオオオオオオ


 視界を覆い尽くすほどに巨大なタコ型の魔物、クラーケンが海面から顔を出していた。

 巨大生物の出現に伴い海が荒れ狂い、俺の足場であるガレオン船が大きく揺れる。


「魔族の次は、お前かよ……!」


 俺は甲板の縁にしがみつきながら、思わず悪態をつく。


 クラーケンは、エンシャントドラゴンのようなユニークモンスターの一匹である。

 本来はゲーム佳境、魔族の大陸へと渡る際に出会うことが多い。

 その際に勝てるかどうかで、ゲームクリアが可能かどうかを試すと言う、いわば試金石のようなモンスターだった。


「ってことは……」


 俺は海面すれすれに浮き上がっているクラーケンの不気味な眼を睨みながら、俺は一つの結論に辿り着く。


 もし今、コイツを倒すことができれば――

 魔王に勝つことも、一応は可能ということになる。


「……やってやる」


 俺は改めて気合を入れ、海を覆い尽くさんばかりのクラーケンへと挑む覚悟を決めた。


 と、その前に。


「みんなは城壁の後ろ、もしくは高台に登っていてくれ! あの大きさだ、一撃放つ度に大波が起こる!」


 声の限り叫び、リバース村のみんなに伝達する。海岸から応えるように『おおおお』という声が聞こえた。


「グボオオオオォォォォ!!」

「っ!?」


 その隙を突くかのように、クラーケンが丸太のごとき極太な触手を海面を這わせ、岸へと伸ばした。


 させるかっての!


「刺身になってろ!」

「グボォォォォ!?」


 もぬけの殻となっていた魔族の小舟へと飛び、伸びた触手を細切れに切り裂いていく。ケルベロスウェポンと紅呉魔流による、二刀流だ。


 というかリバース村の魅力的な女性陣を触手プレイの餌食になんて絶対にさせませんからね!


 同人誌とかで描いてもらうのは大歓迎ですがっ!!


「グボボオオォォォォ!!」

「いくら喚いても、俺には勝てん」


 ヤツの低い呻きに合わせて、海面が波立つ。

 が、俺に焦りはない。


 四天王であるギンリュウは、ラストダンジョン手前で対峙する最強クラスの敵だ。

 そしてクラーケンは、それよりも弱い。


 ならば。

 ギンリュウに真っ向勝負で勝利した俺が――クラーケンなどに屈するわけがない。


「覚えた技で沈めてやる」


 言い、俺は腰に提げた紅呉魔流の鞘の鯉口を、左手でぐっと握り込んだ。


 見よう見まね、にわか知識でのチャレンジ。

 だが、千里の道も一歩から、である。


 誰だって最初は上手くできない。

 大切なのはめげずに試みること。


「くらえ――――」


 静かに息を吸い込み、そして。


 ――抜く。


「『居合い斬り』」


 一閃。


「グボオオオオオオオオオオオ!!」


 俺の一撃を喰らったクラーケンは、巨体の各所から泡と血を噴き出しながら沈んでいく。


 そう、俺が繰り出したのはギンリュウの得意技、居合い斬り。

 学んだばかりのその一撃で、俺は巨大なクラーケンを真っ二つにした。


「ふぅ。いっちょ上がりだな」


 俺は歓声を上げる村の皆へ振り向き、思いっきり拳を突き上げた。


 俺たちの――リバース村の、大勝利だ!



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【上位:侍】の職業素養を獲得しました

:【上位:海賊】の職業素養を獲得しました

:【上位:大漁師】の職業素養を獲得しました

:【銀龍至幻流『居合い斬り』】を獲得しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました

└【魔族殺し】はすでに『マスター』です

:【魔導狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

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