#68 一騎打ち、決着

「ヌゥゥンッ!」

「ぐっ!!」


 魔族たちに周囲を囲まれた中、再び俺とギンリュウの剣がぶつかり合う。

 魔族たちは一切、手出ししてくる様子はない。


 俺とギンリュウの烈風のような激突に、慄いているのかもしれなかった。


 ギンリュウの興奮はとどまるところを知らず、その攻撃はどんどん重たく、そして鋭くなっていく。


「でやぁぁ!!」

「ヌォォ!!」


 負けていられないと、俺も力いっぱいケルベロスウェポンを振り抜く。

 紅呉魔流べにくれまるを立てるようにして防御したギンリュウが、小さく口の端を吊り上げて笑っていた。


 ヤツはこの戦いを、心底楽しんでいる。


 ――それは俺も同じだった。


 今の俺は、一切の手加減なしに剣を振るっている。

 千切れんばかりに力んだ二の腕から発揮される筋力も、視界の景色が瞬間的にゆったりして見えるような反応速度も、自らの意思や反応より速く発動するスキルも。


 全てをぶつけて、ヤツと戦っている。


「シッ!」

「はぁぁっ!!」


 再び、打ち合った剣が甲高い音を鳴らす。

 その音を契機に、俺は練り上げていた魔力を呪文に結び付けることなく、身体の外へ発散した。

『スクープエクストラクション』での不意打ちでダメージを与える算段だったが、やめだ。


 この戦いには、正々堂々と勝利するべきだと思った。


 が。


「魔法を使え、レオン・アダムス!」

「っ!?」

「全力を出せ! 戦闘に用いる全ての能力を解き放つのだっ!」

「……漢らしいヤツっ!」


 ギンリュウの正々堂々へのこだわりは、俺の考えていたそれを上回るものだった。俺はすかさず、再度魔力を練り上げる。


 その間も攻撃の手は緩めない。


「『スクープエクストラクション』!」


 先ほどとは打って変わって俺は躊躇なく、ギンリュウのどてっ腹に穴を開けるつもりで、スクープエクストラクションを放った。


 しかし。


「『無堅不摧むけんふつい』!」


 ギンリュウは俺の魔法発動に合わせて、ヤツ特有の防御スキルを発動させた。

 そう、ギンリュウは剣技だけでなく、スキルや魔法も扱える超強力な魔族だ。


 言うなれば、走攻守揃った選手というやつである。


 そしてさらに『居合い斬り』に代表される、ギンリュウだけが扱える強力なスキル群があった。


 その名も――


「我が『銀龍至幻流ぎんりゅうしげんりゅう』の魔法防御を、貴様に掻い潜れるか?」


 そう、『銀龍至幻流』という独自の名前を冠したスキルの数々を扱うのだった。


 先ほどスクープエクストラクションを無効化した『無堅不摧』も、どちらかと言えば魔法ではなくスキルという扱いで、ギンリュウだけが扱う魔法を無効化する防御技なのだった。


「どうだ、レオン・アダムスッ! 全てが沸騰するような高揚!! 滾る血潮!! 命を燃やす戦いだけが生み出す、至高の時を感じているか!?」

「ギンリュウ、目が血走ってるぞ!!」

「当然! こんなにも全身の血が湧き立つのは魔王様と対峙して以来のこと!!」


 ギラつく目力で俺を睨みつけながら、決して攻撃の手を緩めることなく叫ぶギンリュウ。


 ヤツとの戦いは、これまでにない充実感をもたらしてくれる。

 間違いなく殺し合いなのだが、なぜかスポーツの真剣勝負のような高揚があるのだった。


 ……だが、ここまで打ち合い、はっきりした。


 俺の方が、強い。

 この実力差はおそらく、いかんともしがたいものだ。


「そこだっ!」

「ヌッ!?」


 俺は、ギンリュウの連撃を全ていなして、ヤツに隙を作る。

 視覚的には、まったく追い付いていない。


 だが。


 俺のステータスとスキルが、完全にヤツの強さを上回っている。

 目にも止まらぬヤツの斬撃が、俺には届かないとわかるのだ。


 俺の――勝ちだ。


「もらった!」

「グ……ッ!!」


 袈裟斬りに、俺はケルベロスウェポンを振り下ろした。

 ギンリュウの巨大な身体から、血が噴き出した。


 致命傷……だろう。


「見事……なんと、美しく強い一撃か」

「…………」


 口からも血を吐きながら、ギンリュウは言った。


「フフ……最後の相手が……レオン、貴様で良かった」

「ギンリュウ……」

「貴様にこれを託そう。我が愛刀である」


 言ってギンリュウは、俺に紅呉魔流をよこした。

 ずしりと、重さを感じた。


「戦い抜いた我が人生に、一切の悔いなし」


 そう言って。

 ギンリュウ・マガツヒノカミは、粒子となって大気に消えていった。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が大幅に上昇しました

└【魔族殺し】の職業レベルが『マスター』に達しました

└職業を変更しても【魔族殺し】のジョブ特性が永久継続となります

└上位職がマスタークラスになりました

└【究極職】を開放します。今後、職業素養の獲得が可能になります

:【究極:魔剣王】の職業素養を獲得しました

:【特殊技能『銀龍至幻流の心得』】を獲得しました

└今後、行動等に応じてスキル等を習得できます

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