#65 血毒攻撃

「『スクープエクストラクション』!」

「「「グギャアアアア!!」」」


 ガレオン船の甲板で、呪文を声高に叫ぶ。

 俺を取り囲んでいた魔族たちが、皆同時に表情を失い崩れ落ちる。


「でやぁぁ!!」

「「「ギグァァァァ!!」」」


 続けざま、一切の容赦なくケルベロスウェポンを振り回す。

 視界を埋め尽くす魔族の群を、上半身と下半身に一刀両断する。


 魔族の亡き骸は瞬く間に粒子となって、大気中に消えていく。


「はぁ……はぁ……よし、次!」


 身体に疲れはないが、さすがに少し息が上がってくる。

 すかさず腰のポーチからアリアナお手製の強壮剤を取り出し、一息で飲み込む。


「うおー、滾ってきた! クロエ、次のガレオン船へ行くぞ!」

「ガァウ!!」


 背中側で大暴れしていたクロエに振り向きざま声をかけると、威勢のいい鳴き声が返ってくる。

 それを合図にして俺は、ガレオン船の周囲に浮かぶ小舟へと飛んだ。


「でいっ!」 

「「ギャアア!?」」


 小舟から小舟へと、源義経みなもとのよしつね八艘飛はっそうとびが如く飛び移りながら、乗船している魔族どもを蹴散らしていく。

 どうやら小舟に乗っているのは低級の魔族らしく、ケルベロスウェポンやスクープエクストラクションを使うまでもなく、蹴りや殴打で一撃だ。


「うお! クロエすげぇ!」


 と、俺の頭上をクロエの影がびゅんと横切る。

 俺は小舟を経由してガレオン船とガレオン船の間を移動していたのだが、なんとクロエはその距離をひとっ飛びした。


 なんつー脚力。元居たガレオン船がぐわんぐわんと揺れている。


 俺としても『ジャンプ』を使えば一瞬ではあるが、できるだけ魔力は温存しておきたい。なので足を使っての移動だ。


「……ん?」


 二隻目のガレオン船の間近まで来たところで、言いようのない違和感が去来する。

 イヤな胸騒ぎというか……そう、現語化できない違和感。


「押して押しまくるだけだ!」


 俺は嫌な気分を振り払うように、小舟から跳躍し、二隻目のガレオン船の甲板へと着地する。そこではすでにクロエが躍動し、魔族たちを圧倒していた。


「よし、クロエ! 後ろは俺に任せろ!」

「ガウ!!」


 俺はクロエと共に魔族を蹴散らそうと、武器を構える――が。


「……これだけか?」


 魔族を数体屠り、気付く。

 俺に敵意を向けているのは、片手で数えられる程度の魔族だけだった。

 いくらクロエが先に暴れていたとは言え、一隻目に比べて数が少なすぎやしないか。


 一層、さっきの違和感が大きくなる。


「まさか……囮か!?」


 そこで気付く。

 最初の二隻のガレオン船を半ば捨てて囮にし、俺とクロエという最大戦力をここに釘付けにするつもりなんだったとしたら――ヤツらは、どこを狙う?


「そんなの、考えるまでもないッ! クロエ!!」


 俺は素早く振り返り、クロエを伴って『ジャンプ』をしようと魔力を練りはじめる。

 しかし、思惑通りに事は進まなかった。


「ガゥン!!」

「クロエっ!!」


 なんと、クロエの意識が俺に向いていた隙を突いて、その脚に数体の魔族がしがみついた。

 あの魔族の独特な容貌……まさか!?


「クロエ! そいつらを今すぐ振り払――しまった!?」

「ワレらの血、くれてヤル!!」


 油断した隙に背中から、覆いかぶさるように二体の魔族にしがみつかれてしまった。見た目は、クロエの四肢に絡みついている魔族と同じだった。


 そしてヤツは――俺の首筋に、噛みついた。


「ぐあ、ああぁぁ!?」

「フヒヒ、フハハハハ! 苦シメ、苦シメェェ!!」


 途端、血管に針を入れられたかのような痛みが、全身を襲う。


 この攻撃方法は、一部の特殊な魔族に備わった特殊能力――『毒血どくち』と呼ばれるものだ。

 毒血攻撃を喰らうと、一定時間ステータスが大幅に低下し、魔法とスキルが使用不能となるうえ、HPとMPが徐々に減少する最悪の状態となってしまう。


 しかもこの毒血には治癒方法がなく、効果が切れるまでひたすら耐えるしかない。


「く、くそッ!」

「ガァァ!?」


 俺は背中の魔族にケルベロスウェポンを突き入れ、消滅させる。

 クロエもなんとか、脚にまとわりついた奴等を倒したらしかった。


「身体が……お、重い……」「ガ、ガルルゥゥ……」


 毒血による状態異常のせいで、膝を着く。

 この毒血を使う魔族はラストダンジョンである魔王城の中でしか出現しなかったため、完全に失念していた。


 これじゃ、みんなの元にジャンプすることも、足で急ぎ戻ることもできない。


「く、そ……!」


 甲板の縁までなんとか移動し陸地の方を見ると、すでにガレオン船の一隻が接近し、そこから無数の小舟が射出されていた。魔族共が狂喜乱舞した様子で、城塞の方へ突進していく。


「みんなぁぁ! 逃げろぉぉぉぉ!!」


 俺にはもう、叫ぶことしかできなかった。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

:【一般パッシブスキル『八艘飛び』】を獲得しました

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