#64 戦いの火蓋が切られる

 でき得る限りの軍備を整えた俺たちは、移動石と空間魔法で一気に海岸へと移動した。


 まだ申し訳程度にしか作られていない低い城塞を盾にする形で、皆は横陣おうじんの陣形を取り、待機している。

 内訳は、シュプレナード兵百三十名と、アリアナ、シェリを含むリバース村の有志らざっと二十名、全部で百五十名程度。皆一様に険しい表情で、海岸を見据えていた。


 俺は木材と縄だけで急ごしらえした簡素極まりないやぐらに登り、人間の大陸と魔族の大陸を隔てる海――ブロスト海峡を睨んだ。


「……来たな」


 望遠鏡を覗くまでもなく、肉眼で確認できる距離にまで、魔族の軍勢は接近していた。中でも一際目を引くのが、巨大なガレオン船。


 それが、五隻。


「戦闘準備!」

「「おおおお!!」」


 俺は櫓から皆へ叫び、敵の接近を知らせる。

 これまでに感じたことのない緊張感が、皆の表情から伝わってくる。


「いよいよね」

「だな」


 櫓の隣に立っていたユースティナも、これまでにない真剣な顔つきをしていた。


「レオン。改めて、作戦の確認」

「ああ」


 俺が考えた作戦は、以下のようになる。


 魔族が上陸寸前まで近づいたら、まずは手始めにアリアナとシェリでサイレントアサインを発動させる。そうして魔法を封じ、ヤツらの遠距離攻撃や広範囲攻撃を消す。

 もし、サイレントアサインが効かない上位の魔族がいる場合は、俺とクロエが一気に突っ込み、各個撃破する。


 あとは闇雲に突撃してくるであろう魔族の進撃を城塞を利用していなしつつ、アリアナとシェリの魔法攻撃を中心にして撃破していく、というプランだった。


 基本的に兵や村の皆には、安全のために城塞後方で防御に徹してもらう。

 前線で魔族の相手をするのは、基本的に俺とクロエのみとした。アリアナらが反対したが、その方が遠慮なく暴れられると俺が言うと、納得してくれた。


「ユースティナ、くれぐれも油断しないでくれよ」

「ふん、当然よ。相手は暴力、殺戮、蹂躙大好きの魔族なんだから、一瞬でも気を抜いたら、人間としての尊厳は踏みにじられるつもりでいくわ」

「その通りだ。最後の一体になっても気を抜くな」


 魔族は群を成し、国家を形成してはいるが、その長を潰したところで止まらないだろう。なぜなら魔族は、戦いそのもの、暴力そのものを愛する種だからだ。

 最後の一体になっても、決して油断はできない。


「それじゃ、いってくる」

「レオン、しっかり帰って来なさい。あなたも、わたしの所有物なんだからね」


 ユースティナに見送られ、俺は櫓の下にいるクロエの背に飛び乗る。


「はは、人を所有物みたいに言うなっての」

「ふん、みんなわたしのモノなんだから――とても大事な、ね」


 その言葉に背を押されるように、俺はクロエと戦場へと踏み出す。


「レオン・アダムス――参る!!」


 俺の叫び声に呼応して、城塞後方の皆から咆哮が上がった。


「サイレントアサイン!!」


 すぐさま、アリアナとシェリが先手必勝と言わんばかりに、魔法詠唱を封じる魔法『サイレントアサイン』を放つ。


 海岸線ギリギリまで接近していたガレオン船の上で、魔法を封じられた魔族たちから動揺が伝わってくる。


「今だ! いくぞクロエ!!」

「ガウ!」


 俺はその気を逃さず、ガレオン船の甲板へと一気に『ジャンプ』する。


「グォォ!?」「ゴァァ!?」


 突如視界に現れた俺に驚愕する、船上の魔族たち。

 暴力性を剥き出しにしていた血走った目が、一瞬きょとんとする。


「おりゃッ!」

「グギャアアア!?」「ウガァァ!?」


 挨拶代わりに、俺はケルベロスウェポンを大きく横薙ぎに振り回す。甲板に陣取っていた魔族どもの首が、一瞬で刎ね飛ぶ。


「ガンガンいくぞ!!」

「ガルルゥゥ!!」


 俺はクロエから降り、互いに背中を預け合うような格好で接近戦を開始する。

 状況を飲み込めない魔族の群へ向け、武器を振り回す。


「むんっ!!」


 ケルベロスウェポンが閃き、魔族を断末魔へと誘う。

 全個体、一撃。


 俺は一心不乱にケルベロスウェポンを振り回す。


「ガウ、ワァウ!!」

「「ギギャアア!?」」


 クロエも大きな身体をフルに使い、牙と爪の攻撃により魔族の壁を食い破っていく。

 なんとも頼もしい相棒である。


「こ、こいつら、魔族狩りの連中じゃないのか!?」


 魔族の一人が、なにかに気が付いたように叫んだ。

 が、もう遅い。


「せいっ!!」

「が、…………」


 再び、一閃。

 言語を操っていた魔族の首が飛ぶ。


 赤角の大きさや発音、イントネーションを聞く限り、かなり滑らかに言語を操る魔族だった。おそらく、かなり上位の魔族だろう。

 だが、またも一撃。俺の『魔族殺し』としての強さは、中々のレベルに育っているらしい。


「ヤレ! ヤツを止めロ!!」

「「「ウゴォアァァァァ!!」」」


 強い者の指示に従い、魔族の群が襲い掛かってくる。

 同族がやられたところで、ヤツらの戦意に衰えは見られない。


「無駄だ」


 俺は魔力を練り上げ、距離を詰めつつあった魔族全員に『スクープエクストラクション』を使用する。魔族数十体の口から赤黒い血が噴き出て、膝から頽れる。


「上陸する前に、もぬけの殻にしてやる!!」


 俺はケルベロスウェポンを、強く握りしめ、跳躍した。

 このまま、押し切ってやる!



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

:【一般パッシブスキル『先駆け』】を獲得しました

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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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