#63 時間の許す限り準備をする

「急ごう! 時間がない!!」


 俺は移動石を使い、シュプレナード城に来ていた。

 沿岸に魔族が侵攻しているという事態を王に共有したうえで、急ぎ兵を動員してもらうためだ。


 できる限りの準備をするため、今は城内を駆け回っている。

 両手に武器などの装備品を抱えながら、俺はシュプレナード王との会話を思い返す。


「レオンよ、今すぐに動ける兵は百人程度だ」

「ありがとうございます、王。一人でも多いに越したことはありません」

「それで大丈夫なのか? 魔族の軍勢の規模は、いったいどの程度なのだ!?」

「正確な数は不明ですが、あの魔力量から考えると少なく見積もっても――三千」

「さ、三千……っ!!」


 絶望的な王の表情を思い出し、気が重くなる。

 だが、だからと言って諦めて破滅を待つなど、俺はイヤだ。


 こういうときのために、俺は毎日筋トレをし、ビーンズを食べ、英気を養いながら生きてきたのだ。


 必ずこの苦境も生き延びて、もっともっと好きなことをして過ごしてやる。


 俺は現状で動ける兵士全員に、城前の広場に集まるよう声をかけて回る。

 広場に出ると、王から賜った兵百名だけじゃなく、三十名ほどの有志も集まってくれたようだった。


 彼ら全員を、できる限り迅速に『ジャンプ』と移動石でリバース村沿岸まで運ばなければならない。

 特訓を積んだ今の俺であれば、二、三度で一気に移動させられるはずだ。


「軍勢の到着まで、長く見積もっても半日です。それまでにできる限りの準備をし、防衛戦に備えなくちゃいけません」

「「「はい」」」

「現状、ここに集まってくれた皆さんが頼りです。村にいるのは入植したばかりの農夫や大工の方たちと、その家族だけです。戦闘経験のある者はごくわずかです」

「「「…………」」」


 俺は鬼気迫る表情をした兵士らの顔を見回し、状況を共有する。

 誰かの喉が、ごくりと鳴った。


 それもそのはず、魔族の三千の軍勢に対し、百三十余名で戦えというのだ。

 しかも、軍勢は刻一刻と迫り、こちらにできることは限られている。


 ――だが、必ず勝ってみせる。


 『魔族殺し』として今日まで鍛錬を積んできたんだ、一人で三千を相手取るぐらいの気持ちでやってやる。


 俺は心の中で、強い決意をしていた。


◇◇◇


「レオン! 防具は準備できてるわ!」

「シェリ、ありがとう。助かる!」


 兵士を引き連れてリバース村に戻ると(なんと全魔力をつぎ込んだら一発で百人三十人を運べた!)、シェリが大量の盾や鎧を磨いていた。

 シェリは魔導秘書として、なんと武器・防具に魔法でバフをかける技術を習得していたのだ。


 すごいぞ、魔導秘書。

 すごすぎるぞ、シェリ・インダストリア。


「レオンさんはまずこれです。飲んでください」

「ちょうど今言おうと思っていたところだよ、アリアナ。ありがとう」


 シェリの仕事ぶりに感動していると、すぐにアリアナに声をかけられる。

 その手には魔力を全快させる丸薬が握られており、俺はすかさず頂戴した。だるさが消え、再び気力が充実する。


 すごいぞ、薬学士。

 すごすぎるぞ、アリアナ・イリーアム。


 誰だ、攻略掲示板に『薬学士つかえねー』とかデマ書き込んでたのは!?

 超有能だっつーの!


「わたしは、もう、準備、万端よっ! 村長として、魔族なんて、け、蹴散らしてやるんだからっ!!」

「……その声、ユースティナなんだよな?」


 最後に現れたのはユースティナだ。

 が、頭からつま先までを金色のフルプレートアーマーに包んでいたため、誰だかわからなかった。


 全身が金ピカに輝き、頭もすっぽりと黄金の兜に覆われたその姿は、もはや百〇みたいである。これが若さか。


「ユースティナ、防御を固めるのはいいけど、それじゃ動きづらくないか?」

「だ、大丈夫よ! ここはもうわたしの村よ、村長であるわたしが、立ち上がらずに、誰が守るって、言うのよっ!!」


 気合十分に叫ぶが、すでに声が苦しそうである。

 いくら筋力高いからって、無理すんなよ。


「シェリ、ユースティナの鎧に身軽になる魔法をかけられるかい?」

「ええ、任せて」


 俺が言うと、シェリはすかさず金ピカの塊(ユースティナ)に手をかざし、魔力を込めてくれた。


「はい。これでどう?」

「え、すごい! 全然動けるわ! さすがシェリね!!」

「えへへ、どういたしまして」

「シェリさんも、この薬をどうぞ」

「ありがと、アリアナ」


 ユースティナの素直な礼を、シェリも笑顔で受け取る。

 その様子を見て微笑み、シェリにも俺と同じMP回復の丸薬を手渡すアリアナ。


 すっかり、三人も打ち解けたようだった。


 これなら――勝てるな。

 俺は勝利を確信する。


「よし、それじゃ……ユースティナ、みんなに言葉をかけてやってくれ」

「ええ」


 俺は村役場近くに集まっている皆に顔を向けるよう、ユースティナを促した。皆にその顔が見えるよう、フルプレートの兜を取り外してやる。


「時間がないから、手短に話すわ。わたしのありがたいお言葉なんだから、よぉーく聞きなさい!」

「「「おう!」」」


 ユースティナは言い終えると、ゆっくりと集まった皆の顔を見回す。

 そして、安堵したようにゆっくりと息を吐いた。


 少し間を置き、今度は大きく息を吸った。


「あなたたち全員っ、わたしの所有物みたいなものなんだから、勝手に死んだり傷ついたりしたら――死刑よ!!」


 彼女らしい、自分勝手な激励。

 だが、だからこそ皆に、届く。


「村と、そして命を。必ず守り抜きましょう。わたしたちが、必ず勝つ!!」

「「「おおおおおおッ!!」」」


 半ば怒号のような咆哮を上げ、俺たちは“戦場”へと向かった。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が大幅に上昇しました

:【運】が上昇しました

:【上位:参謀】の職業素養を獲得しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が大幅に上昇しました

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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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