#62 最悪の報せ

「…………収まったか?」


 ダンジョン内、魔力震動が落ち着いたタイミングで、俺は近くのアリアナとユースティナに語りかけた。


「そうですね、収まったと思います」

「もう、なんだったのよ、今の」


 魔力震動を知らないユースティナは、どこか不安そうな色を浮かべたままプリプリとしていたが、アリアナは冷静だった。

 さすが、様々な学問に精通した彼女である。


「魔力震動で魔物が狂暴化することもある。村も心配だ、すぐに出よう」


 ここで判断を遅らせてしまうとロクなことがない。

 俺はアリアナとユースティナを引き連れてジャンプするため、二人を囲むように魔力を充溢じゅういつさせる。


「よし、飛ぶぞ。アリアナ、ユースティナ」

「はい!」「わかったわ!」


 瞬間。

『ジャンプ』が発動し、視界が魔力の輝きで満ちた。


◇◇◇


 視界から光が引いていくと、ダンジョンの外、城塞建築地の森にいた。

 微かに海岸から潮風が香っている。


「この辺に魔力震動の影響は……出てないみたいだな」


 周囲をざっと見回して、ダンジョンに入る前と特に景色は変わっていなかった。

 大規模な魔力震動は、ほぼ大地震と変わらないので、下手をすれば大きな被害が出ることもあるのだが、それほどではなかったらしい。


 一瞬、安堵感が胸に広がる。


「レオン、あんたさっきから一人で納得してないで、わたしにも説明しなさい! さっきの地震はなに!? 村は大丈夫なのよね!?」

「あ、あぁすまん。さっきのは魔力震動と言って――」


 ユースティナに事情を説明し、ひとまず安心してもらうことにした。

 が、説明を終えた頃。


「レオン! みんな!!」

「シェリ! それにクロエ! どうした、なにかあったのか!?」


 シェリを背中に乗せたクロエが、疾風怒濤のスピードで海岸線を駆けてきた。

 シェリとクロエには念のため、リバース村の防衛をお願いしていたのだが……なにかあったのだろうか?


 背筋を緊張が走る。 


「いえ、家屋の倒壊などはないわ。安心して」

「そうか、よかった」

「ただ――」


 シェリはどこか不安そうに、表情を曇らせると、一呼吸、置いた。

 そして、俺の顔を見て、言う。


「なにか、嫌な予感がするの。クロエちゃんも、ずっと落ち着かない様子で」

「グルルゥ……」


 シェリの言葉に呼応するように、クロエが毛を逆立てるようにして喉を鳴らした。

 牙を剥き出しにし、眼光も鋭い。


 その威圧感は、アリアナとユースティナが怖がるほどだ。


 クロエは本当に利口な子なので、仲間である彼女たちがいる前で、こんなに緊張感のある表情をするわけがない。


 ……これは、なにかある。


「みんな、よく聞いてくれ。一度俺の全魔力を使ってシュプレナード一帯に索敵をかける。少しだけ待ってくれるか」

「「「了解」」」「ガル!」


 俺は集中し、シュプレナード各地の沿岸沿い、国境線などに張り巡らせた警戒魔法に、ありったけの魔力を流し込んでいく。

 そうして発動させることで、周辺の魔族出現を即座に知ることができるというものだ。


 俺の全身全霊の魔力を使えば、なんとかシュプレナード全域であればカバーできる。だがまだ、人間の大陸全土までは力及ばない。


 しかし、魔力震動が発生したことを考えれば、危険なのはシュプレナード沿岸であるはず。


 魔力を、シュプレナード中に吹き飛ばすようなイメージで、発散する。


 ……………………。

 …………。

 ……。


「…………まずいぞ」


 魔族殺し、魔法狩猟師としての能力で編み出した、魔族探知機魔法から、驚愕の事実が伝えられる。

 全身が、粟立つ感覚があった。


「魔族が、大軍で攻めて来てる――この、沿岸に」

「「「…………っ!」」」


 俺の言葉に、場が凍り付いた。



:【魔力】が大幅に上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

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