#61 不穏な予感

「邪魔! どきなさいっ!!」


 薄暗いダンジョン内に、ユースティナの血気盛んな声が響きわたる。


 ドカ ボコ ドゴゴ


 こん棒を鬼のように振り回し、二匹、三匹と飛んでくるヘルバッドを一網打尽にしていく。


「「…………」」


 少し後ろの位置から、俺とアリアナはユースティナの様子を観察している。

 バーサーカーのごとく暴れまわるその姿に、アリアナは若干引き気味だ。


 ……バケモノすぎるぞ、ユースティナ・ロマンラング。


「はぁ……はぁ……これが、わたしの実力よ!」


 俺が止めるのも聞かず、ずっと前衛としてダンジョン中盤まで来たユースティナ。さすがに少し疲れが出たようだった。


「回復魔法をかけますね」

「ありがと、アリアナ。助かるわ」


 気の利くアリアナが一歩進み出て、ポワっと手を光らせる。

 途端、ユースティナの顔から疲れが消えていく。


 こうして何度もアリアナがユースティナを癒してくれたおかげもあり、ダンジョン行軍は順調に進んでいた。


「……ふぅ」

「アリアナ、魔力は大丈夫?」


 一度、深く息を吐いたアリアナに、俺は確認する。

 アリアナが自ら調合した、魔力を回復させる薬草を噛む。


「……薬草の残量なども考えると、最下層までを攻略するには、少し心許ないかもしれません」

「一度出て態勢を整える方が確実かもしれないな」


 前衛をユースティナが勤めてくれたおかげで、俺自身はまったくと言っていいほど疲れていない。が、無理に一日で攻略することもない。

 現状でわかっているダンジョンの規模としては結構大きめなので、一日で攻略するのはかなり骨が折れる。


「ふん、わたしは全然このままで構わないけどね!」

「ばか。アリアナのサポートがなかったらこんなとこまで来られなかったぞ」

「ば、ばかじゃないわよ!」


 ここまで一緒に来てわかった。ユースティナは強い責任感が芽生えたせいなのか、放っておくと自分のキャパ以上に無理をしてしまう。


「……ん?」


 ふと、魔力が流れ込むような気配を感じ、振り返る。

 周囲を確認すると、横穴のような通路があり、その奥に小部屋程度の空洞が存在した。


 そして、その中央に――周囲の魔力を吸収している魔石があった。


「ありゃどう見ても、誰かが意図して置いたもんだな」

「それって、誰かが狙ってダンジョンを発生させたということですか……?」


 魔石を見たアリアナが、俺の方を見て顔を曇らせる。


 ダンジョンは魔孔という現象の余波として発生するものだが、実はこれを人為的に発生させる方法がある。


 それは、周囲の魔力を集める性質を持つ魔石に、さらに大きな魔力を込めて設置することで、自然の魔力が集積して高濃度の魔力帯が生まれ、魔孔が起こりやすくなり、ダンジョン発生の可能性を飛躍的に高めることができるのだ。


 これは本来、転生者である俺しか知らないことのはず。

 なぜなら、マルチエンディングシステムを採用しているLOQの中の、一番有名な“バッドエンド”で語られていることだからだ。


 その、エンディングとは。


 ――勇者たちを全滅させた魔王が多数のダンジョンを作り出し、魔物を氾濫させ、人類を完全に蹂躙するというバッドエンドだ。


 このエンド自体は、世界各地のダンジョンを完全放置すると行き着く結末となっていた。


 もしこの『魔石によるダンジョンの意図的な発生』が、最悪の結末への布石なのだとしたら……絶対に、止めなければならない。


「……一旦、外に出ようか」

「そ、そうですね」

「ま、少し疲れたし、レオンがそう言うなら構わないわ」


 現時点で最悪のシナリオが進行しているという確証はないが、言い知れぬ不安を肌に感じ、俺は一度撤退することを決めた。


 アリアナとユースティナも、なにかを感じ取ったのか、俺の判断に従ってくれた。


 が。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 入り口の方へとUターンしようと考えた途端、ダンジョン内に大きな揺れが巻き起こった。

 これは巨大な魔力が共鳴することで発生する『魔力震動』だ。


「二人とも、俺の近くに!」

「はい!」「ええ!」


 アリアナとユースティナを守れるよう近くに呼び寄せ、俺は周囲への警戒を強くした。

 こんな狙ったようなタイミングで、ダンジョン内に魔力震動が起こる。


 やはり、何者かの意図を考えずにはいられなかった。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

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