#60 秘めたる才能?

 城塞の建設予定地からすぐの森林に、ダンジョンが出現した。

 前にルルリラと特訓したダンジョンと同じく、ランダムに発生する『ユニークダンジョン』だ。


『LOQ』のユニークダンジョンは、放っておけば自然消滅する。

 しかし今回ばかりは、場所が場所だ。消滅するのをただ待つだけでは、リバース村に魔物が押し寄せてくる可能性も否定できない。


 急ぎダンジョンボスを討伐し、ダンジョン自体を消滅させなければならない。


 というわけで、ボス討伐チームを編成することとなった。

 メンバーは俺、アリアナに加えて――


「さあ、いきましょう!」


 我らが村長、ユースティナである。

 そこらへんで拾ったみたいなこん棒を両手で持って、勇んだ表情を浮かべている。


 が。


 ぶっちゃけて言おう。たぶん彼女がいても戦力的な上積みは一切ない。

 守りながら戦わなければならないので、むしろマイナスだ。


 が、人間的に成長したユースティナは、村長としての責任感から、この一大事を見て見ぬフリすることができなかった。そのため「絶対にわたしも行く!」と言って聞かず、連れていくこととなった。


「……結構な濃度の魔力が漂ってるな」


 俺を先頭にしてダンジョンに入ってすぐ、濃い魔力が身体にまとわりつく感覚があった。

 中に漂う魔力が濃ければ濃いほど、生息する魔物は魔力を吸収して強力になる。


 俺は後ろを振り向き、アリアナに目配せした。


 ユースティナを守りながら進もう――

 ――はい。


 本来ユースティナは、主要パーティーキャラであるため、かなり高性能なステータスを持つ。

 だがそれは、ロマンラングで合流し、ストーリーをしっかり消化しながらシュプレナードまで成長しつつ進んだ場合だ。


 今のユースティナは、俺の独断でリバース村の村長となっているため、おそらくだが戦闘能力はほとんど育っていない。

 しかも彼女自身、パーティーの主な役回りとしては回復役であるため、能力値に見合わないダンジョンに潜るのはかなり危険なのだ。


「村長として、わたしが絶対にボスを倒してやるわ!」


 が、村長としての責任感に目覚めてしまった彼女を止めることは、誰にもできなかった。

 まぁ、その気持ち自体は尊重するべきものであるため、強く止められなかったというのもある。


「ユースティナ、君の姿勢は素晴らしいと思うけど、絶対に無理は禁物だ」

「ふん、危ないときはレオン、あなたがわたしを守りなさい」


 などと会話しつつ、俺はさっそく現れた魔物――ヘルバッドをケルベロスウェポンで一刀両断する。


「レオン、あなたやっぱり強いのね。夜に飲んだくれてる姿とは大違いじゃない」

「と、当然だ」


 ユースティナに満面の笑みで褒められ、若干恐縮する。

 飲んだくれてるのがデフォだと思われてるの悲しい。まぁ元放蕩者ですけど。


「えい!」

「す、すごい! アリアナ、あなたとんでもなく強い魔法を扱えるのね! 今度わたしにも教えてくれるかしら!?」

「え、ええ」


 と、後ろで魔物の群へ向けて魔法を使用していたアリアナに、ユースティナの興味は移っていった。

 俺が尊敬される時間の短さよ。悲しい。


 なにはともあれ、今のところは俺とアリアナならこのダンジョンも楽勝でクリアーできそうだった。

 これだけの力量差があるなら、ユースティナを護衛しながらでもボスの討伐は余裕かもな。


「わぁ、なにかしらアレ!」

「ばっ、ユースティナッ!!」


 と。

 俺が油断した瞬間、ユースティナが壁で光るなにかに気を取られ、隊列を離れた。

 アリアナも周囲を警戒していたため、気付くのが遅れる。


 さらに。

 距離の開いたユースティナへ、ヘルバッドが鋭い牙を光らせて突進していた。

 しかも『ジャンプ』するには、魔力を練れていない。


 間に合わない――

 最悪な予感に、俺の背筋が震えたとき。


「わたしの村を脅かすヤツらは――死刑よっ!!」


 ばちこーーーーん


 と、火を噴きそうなフルスイングで、ユースティナはこん棒でヘルバッドを叩き落とした。

 なんと、一撃粉砕。

 ちなみにヘルバッドは、ラストダンジョン近くでも出現する、かなり強い部類に位置する魔物である。


 ……んな、アホな。


「さぁ、どんどんいくわよ!」

「「…………」」


 さらに勇んで、ずんずん進んでいくユースティナ。その背を見ながら、俺とアリアナは顔を見合わせた。


 なんであの娘、あんなに強いの?


「あ、」


 そういえば。

 ユースティナは、見た目の可憐さや回復適正とは裏腹に。


 筋力の伸びが異常に良いのだった。

 おそらく、ここ最近の力仕事で筋力値がぐんぐん成長していたのだろう。


 それにしても。


 ……LOQスタッフ、ちょっと悪ふざけがすぎやしないか。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました

:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました

====================

貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

読者の皆様の応援が書く力になっています!

更新がんばります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る