#59 皆、成長する
「ほっ、よっと」
俺は今日も海辺で仕事に励んでいる。
海岸線にごろごろと転がっていた巨石、岩は『スクープエクストラクション』で城塞用に長方形に加工しつつ、あらかた移動させ終えた。
浜の白い砂が顔を出し、作業前より断然美しい。
スクープエクストラクションを習得し、鍛えはじめてから一週間が経った。
初日はある程度、自分が意図した形で石を切り出せるぐらいにまで上達した。だがまだまだ、移動させられる距離が短く、村人達に手伝ってもらいつつ運んだ。
それもあり、二日目は移動距離を意識して魔法を使用した。
おかげで転移させられる距離も伸び、浜から一気に城塞の近場にバシッと移動させられるぐらいに一気に成長できた。
これはおそらく、『ジャンプ』や『ルームーブ』を鍛えていたおかげだろう。
三日目以降は、イメージ通りの箇所を過不足なく転移させられるように精度を上げつつ、並行して転移距離も伸びるよう、工夫しながら作業を繰り返した。
その甲斐あり、今では海岸線の端から端まで、自在に石を切り出して運べるようになった。
毎日、すっからかんになるまで魔力を使い果たし、サウナでととのったら爆睡、というサイクルを続けたおかげだと思う(?)。
「ほらー、あんたたちっ! いつまでも休憩してるんじゃないわよー!!」
と、そこでユースティナが休憩中の皆をどやす声が聞こえてきた。
どやされた皆は、なごやかに笑っている。
彼女も毎日、疲労困憊になるまで動き、働き、汗とどろまみれになってはサウナでととのう毎日を過ごし、どこか精悍な顔つきになってきていた。
自分をゴージャスに見せることばかりを気にしていた頃とは違い、今は動きやすく質素な服装を好んで着るようにもなっている。
もう、以前のように見ているだけで不安になるような、幼稚な人間ではなくなっていた。
「あ、レオンこら! あんたまでサボってニヤニヤしてんじゃないわよっ!!」
「ごめんごめん」
遠目に眺めていたら気付かれ、怒られてしまった。
んー、なんというか、娘の成長を喜ぶ父親というのは、もしかしたらこういう気持ちなのかもしれない。
……甘やかしてしまう気持ちも、わからなくもないな。
「さぁ、作業再開よ! わたしたちが作る城塞が、人類を魔族から守る壁になるんだから、誇りと責任を感じながらしっかり働きなさい!」
「「「おう!」」」
ユースティナが語った言葉が、作業をする皆の心を打ったのがわかった。
かく言う俺も、なかなかにグッときた。
彼女の言う通り、ここはシュプレナードの最東端、よって、人間の領土の最東端でもある。
と、いうことは。
この海を挟んだ向こうは魔族の国であり、魔族のテリトリーだ。
要するに、ここに建つ城塞の防御力が、そのまま人類の対魔族の防御力になると言っていい。
語るまでもなく、とても責任重大な仕事である。
それをユースティナがしっかり自覚し、受け止め、言葉に変えて部下たちを鼓舞したのだ。
はぁ、人間、成長するものだな。
「一日働いたあとは、サウナが待ってるわ。わたしのおごりで、コーヒー牛乳をつけるわ。キンキンに冷やしたやつをね!!」
「「「はははは!」」」
皆を引き連れながら、城塞ができ始めている森の方へと移動するユースティナたち。その背中は、以前より格段に頼もしく見えた。
「……さて、俺も気を取り直して作業するか」
残っている石はもう少ない。
おそらくこの作業は今日で終えられるだろう。
と、そんな風に思った矢先。
「レオォーーン! ちょっと来てーー!!」
森の方から、ユースティナの大声が響いた。
その焦りを感じさせる声に、一瞬緊張が走る。
一気に、ジャンプで移動する。
「どうした? なにかあったのか?」
近づき見ると、皆が居並ぶように同じ方角を見ていた。
「見て!」
ユースティナに言われるがまま、全員の視線の先へと顔を向けると。
――地面に大きな口が、開いていた。
「……ダンジョン、出現か」
また新たな課題が、発生していた。
:【体力】が上昇しました
:【魔力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【知力】が上昇しました
:【精神力】が上昇しました
:【運】が上昇しました
:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました
:【魔法狩猟師】の職業熟練度が上昇しました
:【ジャンパー】の職業熟練度が上昇しました
:【一般パッシブスキル『父親の気持ち』】を獲得しました
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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
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