#57 城塞建造スタート
「さぁ、今日も張り切っていくわよっ!!」
「「「おーう」」」
リバース村から少し移動した海岸で、ユースティナが拳を突き上げて叫んだ。それに呼応して、村人の数名も決意の声を上げる。
今日も天気が良く、海辺には気持ちのいい風が吹いている。
サウナ完成から数週間が経過し、いよいよ城塞建築が本格始動することとなった。
ユースティナはあれからどっぷりとサウナにハマり、毎日決まった時間にサウナ浴し、俺のお手製コーヒー牛乳を飲んでは「ととのったわ~」などとのたまうようになった。そろそろ金取るぞ。
サウナは村人も代わる代わるに利用するため、格好の交流の場となり、毎日ユースティナは村の皆と少なくない時間を共にすることとなった。これぞまさに、裸の付き合い。
その影響からか、彼女へのヘイトで占められていた村人の態度が徐々に軟化し、一部の人たちからは好意的な意見すら聞かれるようになった。
「言動はまぁ腹立つことあるけど、根は悪いヤツじゃない」
「ああ見えて腹割って話すと、案外話の分かる人よ」
「サウナ好きに悪いヤツはいない」
おい最後ただのサウナ好きだろ。
俺もあんまり人のこと言えないけど。
まだまだユースティナを嫌っている人たちもいるが、好きな人もいれば嫌いな人もいるというのは集団生活の常だ。
徐々にだが彼女が受け入れられつつある現状は、少し前と比べれば好ましい状況と言えた。
本人もそのいい流れを感じ取っているのか、以前のような自分の事しか考えていない言動・行動ではなく、例えるなら「わたしのわがままについてきなさい!」というような(?)、人を巻き込もうとしている気概を漂わせるようになってきた。
紆余曲折はあったが、村はいい方向へと軌道修正している。
「壁の建設も順調そのものだしな」
言って、海辺を見渡す。海岸線をずっと先まで貫くように、壁を建設予定の土地が広がっているの見えた。
すでにシュプレナードから派遣された職人の皆さんによる土地の検証、地均しなども終わり、いよいよ俺たちが作業をする段となっていた。
「わたしだってもっと持てるわ。ほら、貸しなさいってば! えいやっ、っとと!」
「ははは、無理するなよー」
「ほら危ないぞー」
「うるさいわね、大丈夫よ! 任せなさいってば!」
少し向こうではユースティナが、村人らと共に資材運びを行っている。
顔に泥がついているが、前とは違い楽しそうだ。
俺は一応だが現場監督と、石などの超重量級の資材を運ぶ役割を担っている。
当然だが本来であれば城塞用の巨石などは、とんでもない輸送コストがかかる。が、俺の空間魔法を使えば、それらを必要最低限に抑えることができるというわけだ。
「俺の『ジャンパー』としての力がどこまで育ったか、その判断材料にもなるしな」
今日までずっとジャンパーとして、空間魔法はトレーニングし続けている。
習得した空間魔法は、まだ基礎の基礎である『ジャンプ』と『ルームーブ』のみだが、両方とも回数や、運搬対象の質量、移動距離まで、なかなかのレベルに育っている。
大人十人をシュプレナードの領内に飛ばすぐらいは、もうわけない。
城塞建築のための超重量の石や岩は、果たしてどの程度までなら運べるだろうか?
なんにせよ、これなら魔法の特訓にもなって一石二鳥だな。
「わたしに相応しい最強の城壁を作るんだから、みんなきびきび働きなさい!」
「「「はいはい」」」
「返事は一回でいいの! 今日も作業が終わったら、最っ高なサウナが待ってるわよ! 気合入れていきましょう!!」
「「「おう!」」」
俺が魔力を練りながら考え事をしている間、ユースティナはせっせとらしくなく労働に勤しんでいる。どうやら、働いて入るサウナの方が気持ちが良いと気付いたようだ。
ふむ、着々とサウナ道を究めつつあるな。
将来有望な娘である。
「どんどん汗をかきなさい! かけばかくほど、サウナが気持ちよくなるわよ!!」
「「「おーう!」」」
言動がどこか、部下を煽る系の管理職のおっさんみたいである。
でもま、結構現場は盛り上がっているようなので、良しとしよう。
「よし、俺も働くとするか」
俺も持ち場につき、練り上げた魔力で空間魔法を発動させる。物を移動させる魔法『ルームーブ』だ。
まずは海岸に無造作に転がった岩々を、加工するための石切り場に移動させるのがタスクだ。
俺は一番近くにある身の丈ほどの岩に向け、両手を突き出した。
が。
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
岩はびくともせず、思うようには動かなかった。
それもそのはず、冷静に考えればすぐにわかることだが、大人ほどの大きさの岩は下手をすれば何トンもの重さがある。
大人十人、せいぜい七百キロ程度を運べたからといって、俺はなにを調子に乗っていたのか。
こんな重たい物体を瞬間移動させようだなんて、そうそう簡単になことではない。
……が。
だからこそ、これを実現できたとき、俺の空間魔法はさらに強力になったということ。
というか、なんか少年漫画の特訓みたいで燃える!
その日から、俺と岩との格闘がはじまった。
:【体力】が大幅に上昇しました
:【魔力】が大幅に上昇しました
:【筋力】が大幅に上昇しました
:【知力】が上昇しました
:【精神力】が上昇しました
:【運】が上昇しました
:【魔族殺し】の職業熟練度が大幅に上昇しました
└【魔族殺し】の職業レベルが『エキスパート』に達しました
:【魔法狩猟師】の職業熟練度が大幅に上昇しました
└【魔法狩猟師】の職業レベルが『ノーマル』に達しました
:【ジャンパー】の職業熟練度が大幅に上昇しました
└【ジャンパー】の職業レベルが『ノーマル』に達しました
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