#54 抗い難い魅力
ひょんなことからLOQ屈指の嫌われヒロイン『ユースティナ・ロマンラング』がリバース村にやってきて、数日が経過した。
ユースティナは俺の挑発を真っ向から受け、リバース村で村長として活動できるよう迅速に手配した。ほぼ彼女の親族で占められているロマンラング公国のお偉方(というか主に実父)と即座に交渉し、あっという間にリバース村行きの話を取りまとめてしまったのだ。
ただのわがまま娘と思っていたが、そういうところは有能ではらしい。
その際、ありがたいことに、ロマンラング公国からリバース村へ、まとまった資金援助を申し出てくれたのだった。言わずもがな、ユースティナの影響力ゆえのことだろう。
そうしてリバース村は、期せずしてさらなる発展の基盤を得たのだった。
ただ、ユースティナ誘致によって、大きな問題が噴出した。
それは言わずもがな、人間関係である。
「なに、この汚い村? わたしが住むには相応しくないわよね」
「な、なんでそんなこと言われなきゃならないの!?」
とか。
「どこもかしこも、なんだか埃っぽいのよね。わたしの権限で貸し切りにするから、大浴場に案内して?」
「そ、そんなもんあるわけないだろッ!?」
とか。
「人が全然いないし、活気も足りないわ。こんな村潰しちゃって、練兵場とかにした方がいいんじゃない?」
「村をここまでにするのに、どれだけの苦労があったと思ってる!!」
とかとか。
シュプレナードから入植してきてくれた村人や、出稼ぎに来てくれている労働者の皆さんと、毎日小さくない衝突を繰り返していた。
特に、俺の心強い右腕であるアリアナやシェリ、村の重要ポジションに就いている彼女たちとは、本当にソリが合わない。
「レオンさん、どうしてあんな人を連れてきたんですか!?」
「ご、ごめん」
「あんな人を村のトップに据えたら、大変なことになっちゃうってわからなかったの!?」
「け、軽率な行動でした……」
連日、俺はアリアナとシェリの二人に怒られていた。
うぅ、大人になって怒られると本当にみじめな気持ちになる……。
それにしてもこの状況、どうしたものか。
問題がなければ、ロマンラングからの援助により資金面が強固に安定したため、かねてからの目標である沿岸部の城壁工事を開始したいところ。
この村を発足した元来の目的は、対魔族のための城塞都市としての発展だ。そのためにシュプレナード王直々に、俺に権限を与えてくれたのだから。
だが、ユースティナの襲来によって、せっかく築いてきた村の団結力に揺らぎが発生しつつあった。
こんな状態で一大事業を開始して、果たしていい形で物事は進むのだろうか?
俺は原因を作った張本人でありながら、日々のストレスで胃の痛む思いだった。
「ちょっとレオンー。いるー?」
と、今日も今日とて円満ブレイカーわがままお嬢様、ユースティナ・ロマンラングのお出ましである。
毎日力仕事があるとわかっているはずなのに、フリフリなドレスにティアラまでしている。相変わらずのおめかしっぷり。召使いを大勢引き連れて現地入りしてきたときには、大名行列かと思ったっけ。
「……どうした?」
「なによ、その態度。現村長であるこのわたしに向かって悪態をつくなんて、いい度胸じゃない、元村長。死刑にされたいのかしら?」
「……はいはい。それ、バカの一つ覚えだな」
「んなっ、あなた、このわたしに向かって――」
俺も日頃のストレスのせいか、どうしても口が悪くなる。
あぁ、大人げないとわかっているのに……。
「いいから、なにか用件があったんだろ?」
「ぬ、そういう態度もイラっとするんだけど……こほん。ちょっと、城塞建設計画についてあなたと話し合おうと思っているのだけど、どうかしたら?」
気を取り直したように言い、顎をつんと上に向けるようにするユースティナ。その角度だど、こっちを見下ろしているように感じられる。
こいつ、ナチュラルに相手が腹立つ仕草を心得ているな。
「城塞は、ロマンラングの援助によってようやく計画が具体化したのよね? だったら、ロマンラングとのパイプ役と言っていいこのわたしの意見こそ、一番尊重されるべき意見と言っていいと思うのよね」
まぁ、こればっかりは一理ある。
納得はしたくないが。
「城塞の建築にあたっては、労働者は皆一日中炎天下で働いて、疲れて、汗をかいてすごく不快だと思うのよね」
「まぁ、それはそうだと思うよ。なにか、彼らを労う方法があればと思ってはいる」
これは実際、俺としてもどうにかしなければと考えていたことだ。
村の発展のために今日まで、日々肉体労働に従事してくれている人たちへ、あまりリフレッシュなどを提供できていなかったことが気にかかっていた。
その分、いい食材が獲れた場合などは、優先的にたくさん食べてもらうようにしていたのだが、城塞工事のために大人数が流入してくるであろう今後を考えると、それだけでは事足りないかもしれない。
「そこで、わたしは思いついたの。――大浴場を建設したいと思います!」
「…………」
出た、村に来た当初からずっと所望している大浴場。
当然だが、みんなは反対していた。
そりゃ、勝手にやってきたくせに我が物顔で闊歩して、いかにも他人の苦労を知らなさそうな娘が『大きいお風呂入りたい! ないなら作ればいいじゃない!』などと喚き散らしていたら、反対したくなるのが人情というものだ。
俺だって、若干の抵抗はある。
……しかし、しかしだ。
前世では風呂好きとして、風呂上がりの飲酒がなによりの喜びだった身としては、もしリバース村に大浴場やサウナがあったら、最高以外のなにものでもない。
村の皆と一致団結してクタクタになるまで働いたあと、気持ちの良い大浴場で疲れと汚れを洗い流し、ポカポカの身体にキンキンに冷えたビールを一気に流し込む――想像しただけで、喉が鳴る。
「し、仕方ない……作るか、大浴場」
「さすがレオン、話がわかるじゃない!」
こうして俺は、またもやユースティナのわがままの片棒を担ぐこととなった。
やべ、また村のみんなへのホウレンソウ忘れてるじゃん……。
:【体力】が上昇しました
:【魔力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【精神力】が大幅に上昇しました
:【上位:中間管理職】の職業素養を獲得しました
:【一般パッシブスキル『じゃじゃ馬対応』】を獲得しました
====================
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
長めのお盆休みをいただきました。今日から更新再開いたします!
読者の皆様の応援が書く力になっています!
がんばります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます