#53 レオン、独断す

「こらおっさん勇者っ! こっちに来なさいっ! わたしの言うことが聞けないのっ!?」


 後ろから、ユースティナの金切り声が届いてくる。

 本当、しつこい子だなぁ。


「あなたは死刑! 死刑にするのっ!!」

「それは私刑だろ」

「意味わかんないっ! 一緒でしょ!!」


 うーん、伝わってないな。

 俺とヴァンはクロエの背に乗り、ゆっくりと移動している。


 なぜ移動石やジャンプを使わないのかと言えば。

 ……下手にいなくなると、ユースティナがぎゃーぎゃー言いそうだからだ。


「わたしを無視するなんて、許されないの! 絶対、本当に死刑!」

「はぁ……聞くけど、キミはそうやって自分の思い通りにならない人を、今みたいにすぐ死刑だ、死刑だって軽んじてきたんじゃないだろうな?」

「な、何様なのあなたは!? あなたがはじめてよ、こんな風に『死刑』を指示するなんてっ!」

「よし、ならいい」


 まさか、こんな風に毎回毎回わがままを言って命を弄んでいるのなら、ビンタ一発では済まない話だ。

 まぁ確かに、何様だと言われればその通りだけど。


 単純に、間違っていたり身勝手なことを、富や権力を笠に着て押し通そうとするヤツが許せないというだけの話だ。

 前世の日本でもそういう人間とは付き合わないようにしていたけれど、この世界ではもっと自分に正直に生きると決めているんでね。


 言いたいことは、言いたいだけ言わせてもらうぞ。


「ユースティナ様!」


 と、そこで遠くの茂みから、鎧を着こんだ騎士が数名、慌てた様子で近付いてきた。ユースティナに撒かれた護衛の者たちだろう。


「おいレオン、護衛っぽい騎士たちが来ちまったぞ。ちゃんと説明しないと、まずいことになるんじゃないか? あのユースティナって子、オレたちのことどんな風に言うかわかんないぜ」

「……大丈夫、任せてくれ。考えがある」


 ヴァンが心配して、後ろから声をかけてくる。

 うーん、もうこのナチュラルボーン・アントワネットなお転婆娘を泣くまで説教垂れてトンズラしたいところだが、仕方ない。


 確かにきちんと説明をしておかないと、最悪シュプレナードとロマンラングの国際問題になりかねないからな。

 ……だったらそもそもビンタするなよ、というのは言わない約束だよ?


「あなたたち、あの人を捕まえて! わたしに手を上げた不逞の輩よ、不敬罪で死刑にするんだから!」

「え、えぇ!?」


 姿を確認した騎士たちに、ユースティナはいの一番にそう言った。

 はぁ。本当に自分のワガママだけで生きてる子だな。


「皆さん、俺はシュプレナード国王より勇者と証明された者です。こちらが証明になります」

「こ、これはシュプレナードの勇者殿でしたか。お初にお目にかかります」

「いやはや、ご丁寧にどうもありがとうございます」


 ユースティナを追うように、俺は勇者証明を見せながら騎士たちに近づいた。

 騎士たちはこちらへ向けて丁寧に頭を下げ、敬礼をしてくれた。


 なんだ、周囲にはちゃんと人間できてる人たちがいるんじゃないか。

 ……本人に話を聞く準備ができてないってのが、唯一最大の問題ってことか。


「そんなものどーだっていいの! ヤツはこのわたしを殴ったのよ!? 死刑、死刑なのよっ!!」


 再び金切り声を上げるユースティナ。

 あぁもぉぉ、人の話を聞けよぉ、若者ぉぉ。


「そ、それは……勇者様、この状況は……?」

「いやぁ、実はそのぉ……ははは」


 困惑する騎士たちがこちらに顔を向けるが、実際には確かにビンタしてしまっているので、どう説明したものかと俺が苦笑いを浮かべていると、


「盾突くなら、あなたたちも同じく死刑に処すから!!」


 ユースティナは、さらに素っ頓狂なことを言い出した。

 ……このわからず屋め。


「ユースティナ、いくらなんでもキミ、それはないだろ。この人たちはキミのためにここまで追って来てくれたんだ。キミが勝手にウロウロして迷子になってるだけなのに、だ」

「う、うるさい! あなたたちがもっとしっかりしていれば、わたしはこんなヤツに殴られなくて済んだのにっ!」


 また感情的に、叫び散らすユースティナ。

 ……俺の堪忍袋の緒も、そろそろ切れてしまいそうだった。


「おい、ユースティナ。そんなに自分の勝手を通したいってんなら、自分の手で国を作ってみせろよ。自分の思い通りにできる、自分の国を」

「は? どういうことよ?」


 頭に血が上った俺は、少し前から考えていたことを挑発的に提案する。

 そう、ワガママ放題で暮らしてきて、誰にも文句も言われず、苦労も知らない権力者の子供。


 そういうヤツには――荒療治が一番いい。


「俺はシュプレナード国王から直々に、一つの村を作るよう言われているんだ。国とまではいかないが、キミがそこの村長になればいい。キミがわがままを通したいのなら、キミ自身の力で、街にでも国にでもしたらいいさ。できるなら、だけどな」


 一つの国……いや、村一つ作り上げることすら、大変な苦労があるということを、身に染みて感じさせてやるのだ。


「の、望むところよ。全ての民に慕われ尊敬される、歴史に名を残す統治者になってやるわ!!」

「ふん、言ったな?」


 やっぱり、ノってきたか。

 思いのほか、こういうところは素直なのかもしれない。


「ようこそ、リバース村へ。これからよろしく――新村長」


 こうして。

 お転婆貴族ユースティナ・ロマンラングを、リバース村に迎えることとなった。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が大幅に上昇しました

:【一般アクションスキル『挑発』】を獲得しました

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