#51 ユースティナ・ロマンラング
「わたしの言うこと聞かない人は入国禁止っ!!」
作中屈指の嫌われヒロイン、ユースティナ・ロマンラングの名(迷?)台詞が炸裂した。
ロマンラング公国の海辺の森で俺は、期せずしてヴァンと、彼女に付きまとうユースティナに出会った。
「ヴァン、簡単に状況を説明してくれないか?」
「オレがプルラウラとロマンラングの国境にある関所を『勇者証明』を見せて通ったらあの子がいて、そこからずっとしつこく付きまとわれるって感じだ」
「な、なるほど」
「とにかくしつこい。ずっと『あなたはなにをするの?』『どうして勇者になれたの?』『勇者ってわたしより偉いの?』とかなんとか。もう鬱陶しくてたまらない」
「ご苦労様です……」
苦虫を噛み潰したような表情で、背後のヴァンが言う。
俺は視線をユースティナに戻し、改めてどうするべきかを思案する。
嫌われヒロイン、ユースティナ・ロマンラングは、ネット掲示板では『ナチュラルボーンアントワネット』と呼ばれていた。
要するに『パンがないならケーキを食べればいいじゃない?』とのたまったとされるマリー・アントワネット(実際は言ってないらしい)のような言動・行動を地でいく、超絶ワガママで世間知らずという意味合いである。
LOQにおける本来のメインストーリーでは、ロマンラング公国に入ったヴァンが国内を周遊中のユースティナと出会い、勇者の冒険に好奇心を抱いた彼女に付きまとわれ、そのしつこさに折れてパーティーメンバーに加入するという流れだった。
はじめは彼女に最悪な印象を抱いていたヴァンだが、共に旅する中で様々な現実や人類の命運、一国を背負う覚悟がお互いを成長させ、次第に意識しあう仲になっていく――というストーリーだった。
明確にカップルになる描写はなかったが、一応はLOQのメインヒロインとされる立場の女性が、このユースティナ・ロマンラングだ。
が、とにかくユーザーに嫌われていたし、正直、俺も苦手だった。
ただ、彼女だけが覚える最強の回復魔法があるので、嫌われているのに大体のパーティーにはいるという、なんとも立ち位置が微妙な存在となっていた。
なんというか、クラス全員に嫌われてるのに先生にだけは好かれてて、我が物顔で中心にいようとし続ける仕切り屋委員長みたいな、そんなキャラだ(世の委員長はみんな一生懸命がんばってる人だと思います!)。
「ちょっと聞いてる!? わたしの言うことを聞けない人は、ロマンラングにいちゃいけないのっ! ヴァンから離れて、さっさとどこかに行ってくださらない!?」
癇癪を起したように金切り声でやんややんや言うユースティナ。
あー、このままだとマジでロマンラング公国への入国を禁止にされてしまいそうだな。
やはりここはヴァンに任せて、俺とクロエはトンズラするのが最適解では?
先に述べたようにこの二人、仲が悪いのは最初だけで、ある程度時間が経てば懇意になるのだから、俺が巻き込まれる必要はない気がする。
「レオン、頼む。助けてくれ……。一緒にエンシャントドラゴンと戦って、シンキスカンを食った仲だろ?」
が、後ろにいるヴァンから切実な声が届く。
さっきからクロエのふわふわな毛をがっしと掴んで、怯えるように縮こまっている。
主人公をここまで追い込むとは……恐るべし、ユースティナ・ロマンラング。
「えーっと、俺はシュプレナード王国の勇者として認められているレオン・アダムスという者だ。一応、これが証拠だ」
俺は懐から勇者証明を取り出し、目の高さに掲げた。
まずは自己紹介をして、気分を落ち着かせてもらおうと思ったためだ。
機嫌が悪い人とまともな対話なんてできないし、なによりそういう人の相手をしているとこっちまでイライラしてくるしな。
「あら、あなたも勇者だったのね! なんだぁ、もう少し早く言ってよ。気が利かないのね」
「……っ」
ユースティナは俺の勇者証明を見て、パッと表情を明るくした。
というか、気が利かないとか言わなくてもいいと思うだけど? 彼女はいつも一言多い。
これも嫌われるポイントの一つだった。
「それじゃ、近くに馬車を待機させているから、そこで色々とお話を聞かせてちょーだい……って、あら?」
言うとユースティナは、キョロキョロと辺りを見回す。
「付き人たちが誰もいないじゃないッ!!」
「お前が自分で撒いたんだろうがっ!」
ユースティナの大声に、ヴァンが容赦なくツッコミを入れた。
はぁ……そういえば彼女にはお転婆属性もあるのだった。
「……ん?」
と、そこで。
妙な気配が、俺たちを取り囲むように移動していることに気付いた。
まさか――
「お前ら、その女を置いていけ。さもなくば、痛い目を見ることになるぜ」
気付くと。
盗賊団らしき男たちに、俺たちは包囲されていた。
……脅す相手は相手を選んだ方が、いいと思うよ?
:【体力】が上昇しました
:【精神力】が上昇しました
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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
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