#44 魔導秘書、色々とすごすぎる

「よっ」


 手の上で転がしていた樹の実が、一瞬で消え去る。

 これは、絶賛特訓中の空間魔法『ルームーヴ』である。


 俺は今、リバース村近くのいつもの魔法特訓場所で『ジャンパー』で扱える空間魔法の鍛錬をしている。

 手はじめに鍛えることとしたこの『ルームーブ』は、物体を移動させる空間魔法だ。


 覚えてから日が浅い現時点では「掌サイズの小さい物」を「遠目に見えるぐらいの距離」にある「よく見知った場所」にしか移動させられない。

 ただ、これらも何度も何度も使用して精度を上げていくことで、大きい物を遠い場所に移動させることもできるようになるはずだ。


 千里の道も一歩から、ということだな。

 うん、地道にいきましょう。


 ジャンパーは初期段階から『ジャンプ』という、要するにルー〇的魔法を使える。なので自分自身を見知った場所、詳細にイメージできる場所に瞬間移動させることはすでに容易い。もし移動石を持たない場合でも、その代替は利くという状況なわけだ。


 ただ、移動石と違ってとんでもない魔力を消費するため、まだ一日一回が限度だ。距離に応じて魔力消費が増大するので、どこに飛ぼうとも一律で変わらない移動石の方が便利というのもあった。


 なのでまだまだ、移動石との併用が安全。


「ほっ」


 そんなことを考えながら、再び『ルームーブ』を試してみる。

 先程から、食事に使う樹の実をリバース村の倉庫に送り届けるイメージで転移しているのだが、なかなかこの魔法も魔力消費量がかなり多い印象だった。


「……あぁ、なにもしたくない」


 今の俺が使用できる回数は、まだ二発。

 連続で使っただけで、残業した仕事帰りのようなダルさが「ずんッ」と全身にまとわりついたような感覚になる。


 あー、早く家帰ってビール飲んで寝たい……。


「レオン。脱力しちゃってるよ。こっち来て」

「……あ、ああ」


 ダルさのせいで猫背で「うげー」という感じになっていた俺に声をかけてきたのは、一緒に魔法の研究・特訓をはじめたシェリである。

 彼女はいつものエプロン姿のまま、器用に魔力を練り上げている。その姿はもはや、超一流の生活魔法の使い手に見える。


「魔力切れしちゃった? 今回復してあげるからね――『マジックヒール』」


 シェリが俺にむけてかざした手が、温かい光に包まれる。

 身体からダルさが消えて、気持ちも前向きになったような、清々しい気持ちになる。


「ありがとう、シェリ。キミがいてくれるおかげで、効率がめちゃくちゃいいよ」

「ふふ、どういたしまして」


 お礼を言うと、柔らかい笑みを返してくれるシェリ。相変わらずの癒しスマイルだ。


 彼女と魔法の研究・特訓をはじめてから、成長効率が格段に向上していた。

『魔導秘書』となった彼女は、なんと激レアなMP回復の魔法『マジックヒール』を覚え、さらに瞬く間に無詠唱のスキルすらも会得してしまったのだ。


 おかげで、魔力のステータスがあまり高くなく、魔法をたくさん使って成長させるとなるとかなり時間がかかる俺(レオン)でも、一日でかなりの回数魔法を使えるのため、ぐんぐん魔法の精度が上昇している。


 まだ二発しか使えない『ルームーヴ』も、昨日の段階では一度使って「だるっ」となっていたので、超速に成長しているのがわかってもらえるだろう。


 それにしてもうちの魔導秘書、優秀すぎるな。

 その魅力的な容姿もそうだし、シェリはどうやら天に愛された女性のようだ。


 と、思っていた矢先。


 ふらりと、シェリがふらつき倒れそうになった。


「シェリ!」


 瞬時に距離を縮め、彼女を受け止める。


「……っと、あぶないあぶない。アタシも魔力切れだったみたい」


 てへへ、といった感じで気丈に笑うシェリ。

 マジックヒールは使用者自身に使うことはできないので、魔力の消費が限界を迎えてしまったようだった。

 おそらくマジックヒールは半ば、自分の魔力を他人に分け与えるようなものなのだろう。


 そう考えると本当に、感謝してもしきれない。


「レオン、気にしないでよ。全然、大丈夫なんだから」

「でも……」


 俺の気持ちを察してか、シェリは自分の力で立ち上がった。


「アリアナから魔力を回復できる薬を受け取ってるから、大丈夫。まだまだやれるよ」

「シェリ……」


 言ってすぐ懐から丸薬を取り出し、革製の水筒を傾けると、んぐ、んぐとそれを飲み干した。

 一気に、彼女の顔に赤みが戻ってくる。


 もらった薬が効いたみたいだ。


 ちなみに、アリアナもすでに『薬学士』となり、魔法だけでなく植物から様々な効果の薬を作り出してくれている。

 それをシュプレナードに卸すことで村の懐も潤っているので、もう彼女たちには頭が上がらないのが正直なところである。


 ルルリラも上位職の『忍び』になっちゃったし、みんな優秀すぎ。


「さ、もうひと踏ん張りといこう!」

「お、おぉぅ……」


 元気よく拳を突き上げたシェリの襟元から、たわわな果実が揺れていた。

 ……うーん、天は二物も三物も、彼女にお与えになっておられるなぁ……。

 俺は少しだけ、遠い目をしてしまったのだった。


 うーん、たわわ。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【運】が上昇しました

:【一般パッシブスキル『遠い目』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『たわわ』】を獲得しました

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