#39 ダンジョンで特訓

「ここがダンジョンか」


 シュプレナードから馬に乗り少し走った岩場。

 その奥に、ぽっかりと口を開けた洞窟が発生していた。


「どう見てもダンジョンだね。こりゃ特訓に打ってつけだ」


 隣のルルリラが、腕を回しながら言った。


『LOQ』におけるダンジョンというのは、二種類ある。

 一つは、ゲーム開始時点からマップ上に点在しているノーマルダンジョン。

 二つ目は、ランダムに出現したり消失したりする、ユニークダンジョンである。


 今回のものは、後者、ユニークダンジョンだ。


 ちなみにダンジョンは全て洞窟型で、その種類を問わず、大地から高濃度の魔力が噴出する魔孔まこうという現象が原因でできると言われている。


 それゆえ、ダンジョン内には濃い魔力が漂い、その中にいるだけでも魔力がぐんぐん上昇するという、ルルリラの言う通り、特訓するには最高の場所と言えた。


「ただ、警戒と注意は怠らないようにしよう。俺もルルリラも新職業になりたてだ。油断すると足元をすくわれる」


 当然、ダンジョン内には魔物が多数発生するので、戦う準備もぬかりなくしなければ。俺は装備品を確認すると同時に、買い込んだ薬草などの回復薬を出しやすい位置の革ポーチに仕込んだ。


「任せとけっつーの。もう盗みばっかりしてた頃とは違うんだからさ! 信じてくれてもいーじゃんか」


 ルルリラは不貞腐れながら腕組みをした。

 確かに、出会った頃に比べれば彼女はかなり成長したと思う。ずっとリバース村で訓練や土木作業に従事していたせいか、顔に精悍さがある。

 元々の整った顔立ちが、さらに逞しく魅力的になっている。


「そりゃ信じてるよ。でもだからこそ、しっかり準備してダンジョンを難なく攻略してほしいわけさ。ルルリラは大事な仲間だからな」

「大事な……ば、バカじゃん! 恥ずかしいっつーの!」


 ルルリラは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 おや、ありのまま思っていることを伝えただけなのだが。


 おっさんが本音を言うのキモかったかな!?


「そ、それじゃ行こうか」

「お、おっけーい!」


 気まずさを誤魔化すように、俺たちはダンジョンへと足を踏み入れた。


◇◇◇


「アイシクルスロー!」

「「ギャ!」」


 ダンジョン内。

 群がってきたゴブリン二匹を、氷の刃で瞬殺する。


「うん、いい感じだ」


 俺はここぞとばかりに魔法を撃ちまくっていた。

 高濃度の魔力が充満しているおかげですぐに魔力が回復するため、ほとんど魔力消費がないのだ。


 使えば使うほどライフステータスシステムによって魔法の精度や威力が上がるので、ここで魔法を使いまくればとんでもないステータス向上が狙えるかもしれない。


「……レオンさあ。いつの間にそんな鬼みたいに強くなったんだよ。引くんだけど」

「そ、そうかな? というか引くとか言わないで?」


 近くでスライムを倒したルルリラが、ジト目気味に言った。

 おっさんにはっきり「キモイ」と「引く」を言うのは厳禁だぞ?


 傷つくからな!


「魔法なんて使えなかったじゃんか。なのにもう同時に二発とか三発撃ってるし、連射してるし」


 言いながらルルリラは横穴から顔を出したゴブリンを、小さなナイフを投げて撃破する。

 なにそれ、手裏剣みたいでかっこいい。


「……ウチだって結構頑張って強くなったのに、なんだっつーの。これじゃいつまでも足手まといじゃんかよ」

「?」


 なにやらブツブツと言い背中を向けるルルリラ。

 やば、なにか気に障るようなことをしてしまっただろうか?


 若い子を不安にさせないようにって、機嫌や気分を顔に出さないように心がけていたんだけどな。うーん、難しいもんだなぁ。


「おっと、レオン、そこ動かない方がいい」

「っ」


 と、急に言われ、俺はその場で固まる。


「踏み込んだら足元が抜ける。そこ、下に奥に毒沼があるみたいだ」

「お、おう。ありがとう」

「なんか、今までより色んな気配を感じ取れるようになった気がする。ほら、あそこ。おりゃ」


 言ってすぐ、ルルリラがひゅっとナイフを投擲した。暗闇から「ギャ!」と悲鳴がした瞬間、ゴブリンが倒れこんできた。


 す、すげー。


 どうやら『忍び』になったからなのか、ルルリラは探知スキルが大幅に向上しているみたいだ。これは、かなり頼りになるぞ。


「……ここ、“ボス”が生まれてるみたいだ。倒す?」


 キリっと目を細め、集中力を高めるルルリラ。そうして、ダンジョンの奥まで察知したらしい。

 その自信に満ち溢れた顔を見て、百人力な気分がした。


「――ああ」


 そして俺も、笑い返した。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔法狩猟師】の熟練度が大幅に向上しました

:【魔法狩猟師のパッシブスキル『環境魔力吸収』】を獲得しました

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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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