#35 アリアナ、鬼教官と化す

「レオンさんほら、また集中が乱れていますよ!」

「は、はいっ」


 リバース村近くの高台。今日も俺はそこにいた。

 正式に俺の師匠となった、アリアナも一緒だ。


「魔法で重要なのは具体的なイメージと、それを信じる力です。レオンさんはどこか半信半疑に魔法を使っているように見受けられます。心の底から、ちゃんと魔法に向き合ってください」

「す、すいません」


 眉間にしわを寄せたアリアナが、ぷりぷりしながら言う。

 アリアナ、まさかの鬼教官キャラである。


 師匠になってもらった日から今日まで、連日なかなか厳しい指導が続いている。

 今は氷属性の防御魔法『フリージングウォール』の会得を目指しているところだ。


「ではもう一度私が手本を見せますから、それをよく観察してくださいね」

「わ、わかった」

「細かい所作まで、くれぐれも見逃さないように」

「心して見させていただきます」


 返事を聞き、アリアナが厳かに目を閉じる。


「……我が身に宿る精霊よ、その御身を司る氷を顕現させ、壁となりて我を守りたまえ――『フリージングウォール』!」

「おおっ!」


 その場で即座に詠唱すると、彼女の周囲を氷の壁が囲った。見るからに頑丈で分厚い氷が、防御壁となって彼女を守っている。


 これだけの氷であれば、生半可な物理攻撃ではヒビを入れることすらできないだろう。


「とまぁ、こんな感じです」


 アリアナの声に合わせて、氷の壁は粒子となって消えていった。

 うーむ、もはや自由自在と言わんばかりの貫禄がある。


 なによりアリアナの魔法は、正確で丁寧なのにも関わらず、発動が迅速で無駄がない。

 これが信心深さと日頃の行いの差なのか……!?


「レオンさんのような魔法自体をあまり信じることができない人には、やはり何度もも何度も他人の魔法を見て、魔法が起こす奇跡を目の当たりにするのが一番です」

「疑り深くてすいません……」


 魔法を信じていないとか否定したいとかそういう気持ちは一切ないのだが、日本で三十五年間、理不尽で冴えない現実を生きていたせいなのか、魔法という現象そのものを無意識に否定してしまっているのかもしれない。


「いえ。実際に魔法というものを信じることができず、自分の魔法の素養に気付かずに過ごす人も大勢いますから。……私自身も、以前はそうでしたし」

「アリアナも?」

「はい。私の両親はシュプレナードで魔法の研究をしている研究者なのですが、魔法素養の優秀な両親に比べて、私にはあまり魔法の才能がなかったんです」


 そこでアリアナは、少し遠くを見るような目をした。


「そのため私は魔法の道を断念し、代わりに薬草や植物などを研究する道を志すことにしました。魔法素養はダメだったけど、研究家肌なところはちゃんと両親から受け継いでいましたから」


 どこか自虐的に、肩をすくめて笑うアリアナ。

 なにか言葉をかけたいと思い、俺は深呼吸する。


「でもおかげで、俺はすごく助けられているよ。アリアナがいなかったら、リバース村がこんなに豊かになることはなかったと思う」


 俺は思っていることをそのまま告げた。

 彼女と早い段階で合流していなかったら、まだリバース村は更地だったかもしれない。勉強熱心で誠実な彼女だからこそ、ここまで一歩一歩進んでこれたのだと思う。


「ありがとうございます。……レオンさんがそんな風に言ってくれるから、私は自分に自信を持つことができました。だからあきらめていた魔法にも、前向きに取り組みなおして研究・鍛錬することができたんです。今こうしてレオンさんに魔法を教えていますが、それもこれもレオンさんのおかげなんですから」


 アリアナは俺に向き合い、可憐に笑った。

 うーむ、なんとも可愛らしい。


「そうか。だからこんなにも魔法に熟達したんだね」

「ええ。両親に感じていた疎外感や後ろめたさも、今ではほとんどありません」


 もう一度、アリアナは笑った。

 ちなみにアリアナの魔法力は、パーティーキャラの中では三番手から四番手の実力だった。

 が、LOQにおけるパーティーの魔法担当は、一人か二人がセオリーだったため、ほぼほぼアリアナは待機キャラになってしまう不遇キャラだった。


 だが今は、そんな風に誰かと比較されて有能か無能かなどと言われる筋合いはない。

 自分らしく、マイペースに生きていい。


 誰だって、きっとそれがいい。


「……だから何度でも言いますけど、私、レオンさんには感謝してもし足りないんです。本当に、私と出会ってくれてありがとうございます」

「お、恐れ多いよ。でも、こちらこそありがとう」


 胸が温かくなるような笑みを向けられて、俺は少し照れくさくなる。

 俺が頭を掻いていると、アリアナが深呼吸してから小さく「よし」と言った。


「さぁ、特訓再開しますよ! ビシバシいきましょー!」

「ビ、ビシバシ!?」

「はい! ビシバシです!」


 そう言ったアリアナの顔は、心底から明るく前向きなもので。

 こっちまで、力をもらえるような気がした。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました

:【猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【魔導士】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【一般パッシブスキル『見て盗む』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『感謝感激』】を獲得しました

:【魔導士のパッシブスキル『魔力感知』】を獲得しました

:【魔導士のパッシブスキル『魔法観察』】を獲得しました

====================

貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

読者の皆様の応援が書く力になっています!

更新がんばります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る