#36 特訓は続く

「それじゃ、今日もおさらいして終わりましょうか。いつも通り無詠唱で、連続使用してください。できる限り速く、正確に」

「わかった」


 いつもの高台。

 完全に魔法の師匠となったアリアナに見守られながら、俺は体内の魔力の流れに意識を集中した。


「――『アイシクルスロー』!」


 氷の刃が、数十メーター先の木の的目がけて飛翔する。

 鋭利なその先端が、樹の幹を抉るように刺さる。


「――『フリージングウォール』!」


 続いて、俺の周囲を氷の壁が覆う。

 分厚い氷壁の放つ冷気が、吐く息を白くする。


「――『アイシクルストーム』!!」


 最後に、自分を中心とした周囲に、次々と尖った氷柱を出現させる。

 これは『アイシクルスロー』と『フリージングウォール』を複合してイメージし、アリアナからアドバイスをもらいながら生み出した魔法だ。


 地面から突き出す氷柱で攻撃することもできるし、氷を壁のようにして行く手を阻んだりすることも可能な、攻防一体の魔法である。


「ふぅ」

「はい、よくできました。完璧ですね」


 一通りの魔法を放ち終え、一息つく。

 アリアナが優しい笑みを浮かべながら、労ってくれた。


 師匠であるアリアナの厳しくも優しい特訓のおかげで、念願の無詠唱での魔法発動も習得することができた。

 ただまだ、魔法の名前だけは呼称しなければ発動はできない。この、名前を叫ぶこと自体が発動のトリガーとなっている感覚のため、こればっかりは仕方のないことなのかもしれない。


 それでも、最初に習得したアイシクルスローも格段に威力と連射性能が上がったし、アリアナ直伝のフリージングウォールも、習得初期と比べると壁の大きさや出現速度が向上している。


 フリージングウォールに関しては、氷の壁によって視界が遮られてしまう弱点があったが、使用する魔力量を微細に調整することで、透明度の高い氷を発生させ、視界を確保しながら使用できるようにもなった。


 さらに、その二つの魔法を応用・発展させて攻防一体のアイシクルストームを生み出せた。


 それもこれもすべて、アリアナの的確で丁寧な指導のおかげだ。


「アリアナ、このレベルまで魔法が扱えるようになったのはキミのおかげだ。本当にありがとう」

「いえ、私はあくまでもレオンさんの頑張ろうとする気持ちに、方向性を与えただけですから」


 控え目に微笑むアリアナは、指導の際の鬼教官とは違って可憐だ。

 彼女は謙遜しているが、俺としては心の底から深くお礼を言いたかった。


 ここまで自在に魔法を使えると、ものすごく楽しいし、やりがいも感じる。


 はじめの頃は魔法自体を信じることができず、まったく上手くなるような気がしなかった。が、毎日毎日アリアナが丹念に手本を見せ続けてくれたおかげで、魔法という超常現象が日常に溶け込んでいった。


 そのおかげで、魔法を拒絶していた無意識が是正され、魔法の存在を受け入れることができた。


 一つの壁を超えたことで、湯水のように魔法へのイメージが具体化していき、日に日に魔法を扱うのが楽しくなった。


「筋トレに近い感覚があるよな」


 俺は自分の掌を眺めながら、つぶやく。


 筋トレも、はじめの頃はキツいだけでまったく楽しくない。だが、地道に続けていくことで身体が変わってきて、自信が付いてくる。

 すると、続けることの意味や有意義さがじわじわと理解できてきて、どんどん新しい種目などにもチャレンジしたくなるのだ。


 ある程度やることで、はじめて楽しさがわかることが多々ある。


 筋トレや運動以外にも、読書やお酒をたしなむのもまさにそうだ。

 お酒も最初はあまり美味しいと思わなかったが、会社の飲み会や飲み始めた友人らに付き合ううち、段々と美味しく感じるようになっていった。


 そして、今では立派なのん兵衛。

 うん、飲みすぎだけは気を付けよう。


「あ、そういえば。レオンさんに、嬉しい報告がありますよ」

「?」


 そこでふと、アリアナが小首をかしげて言った。


「ついにビーンズが収穫できたんです!」


 アリアナからもたらされたのは、そんな報告だった。


 これでいよいよ、チート級のステータス向上が狙えるぞ!



:【体力】が大幅に上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が大幅に上昇しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が上昇しました

:【猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【魔導士】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【魔導士のパッシブスキル『無詠唱』】を獲得しました

:【魔導士のパッシブスキル『魔法連射』】を獲得しました

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