#33 恥ずかしい大人、ここに極まれり

「おえ…………うぷ」


 エンシャントドラゴンを命からがら撃退し、その肉でジンギスカンを楽しんだ翌日。

 例に漏れず、見事に二日酔いである。

 ジンギスカンとビールが相性抜群すぎるからいけない。


 うぅ、気持ち悪い……。


「おーい、大丈夫かよレオン? ほれ、水」

「あ、ああ……すまない」


 早起きなヴァンが気を利かせて、水を汲んできてくれたようだった。寝床から上半身だけ起こして、ありがたくいただく。


 あぁ、染みる。


 どうしてこう、俺は毎回毎回学ばないのだろうか。

 飲みすぎたらまずいぞ!って、心のどこかでは良心が叫んでいるのに、どうしても楽しくなって飲みすぎてしまうのだ。


「オレは日課のパトロールに行ってくる。アンタはもう少し寝てな」

「す、すまない」


 日課を欠かさないヴァンに尊敬の念を抱くが、それ以上に自分の失態が恥ずかしい。

 一人の大人として、なんたる無様か……!


「いや、あんまり気にしないでくれよな。それだけオレたちのシンキスカンを気に入ってくれたってことだろ」


 そう言いながら明るく笑うヴァン。その笑顔に癒され、少しだけ元気が出る。


「んじゃ、オレは行ってくるから。途中で薬草でも見つけたら採ってきてやるよ」

「なにからなにまで、本当にありがとう」


 部屋から出て行くヴァンの背中を横になったまま見送る。

 大人として恥ずかしい限りだが、今は安静にしている以外にやれることがない。


「はぁ……それにしても、まさかエンシャントドラゴンと遭遇するとは」


 横になったまま呟く。

 できることがないので、ひとまず今日までに起きたことを振り返ってみることにした。


「ただの偶然なのか? いや、そんなはずない。絶対に運命シナリオが書き換わっている影響だ」


『LOQ』では、ゲームの進行度に関係なくあらゆるユニークモンスターとエンカウントする可能性があるとされていたが、それにしたってエンシャントドラゴンがパオマ村に出現するのはおかしい。


 なぜならば、パオマ村は言うなればRPGの“はじまりの街”だからだ。

 ゲームバランスを考えれば、そこにだけはユニークモンスターは現れないはずなのだ。


「それにヴァンは女の子になってるし、いよいよもう俺の知ってる『LOQ』じゃなくなってきてるみたいだな」


 もはや俺が知っているLOQのストーリーではないと思っていた方がいいだろう。

 ゲームの物語通りに事が進まないということは、もう未来を予見することはできないということになる。


 そうなると今後は、『もしif』に備えて自分ができることをコツコツやっていくしかない。


「いや、でも待てよ……」


 そこでふと、思い至る。

 物語が書き換わっているということは、俺が自爆魔法で爆散する未来も変化している可能性もあるのでは?


 ……いや、そうだとしてもそれを確認する方法は魔王を倒す以外にない。

 それでもし自爆する未来が変わっていなかったら、俺はそこで異世界ライフ、ジ・エンドだからな。


 やっぱり一つ一つ、その未来を回避するためにやれることをやっていくしかない。


「自分のステータスを上げるのは最低限として、『街づくり』して沿岸の防御を固めること、あとはヴァンとも出会って各国に防備を促して……俺が今やるべきは、他になにがある?」


 寝転がりながら、うーんと唸る。

 魔王、魔族に完膚なきまでに勝利(俺が無事で)するためには、他になにができるだろうか?


「……あ」


 一つ、思い浮かぶ。 

 異世界ならではの、“アレ”である。


「俺も『魔法』を鍛えてみるか……!」


 エンシャントドラゴンとの戦闘で、魔法の重要性が痛いほどわかった。自分でも魔法が使えさえすれば、もっともっと戦闘が楽になるはずだ。


「よし、やってみよう」


 一つの決意が、自分の中で固まった。

 まずはギルドに行って転職しなくちゃな。


「うっぷ……その前に、まずは体調回復だ……」


 頭を使いすぎたのか、気持ち悪さがぶり返す。

 俺はもう一度水を含んでから、目を閉じて眠りについた。


 あぁもう。

 これに懲りて、飲みすぎないようにしなくちゃな。



:【体力】が下降しました

:【魔力】が下降しました

:【筋力】が下降しました

:【知力】が下降しました

:【精神力】が下降しました

:【運】が下降しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が大幅に上昇しました

└【魔族殺し】の職業レベルが『ビギナー』に達しました

:【放蕩者】の職業熟練度が大幅に上昇しました

└【放蕩者】が『マスター』に到達しました

└職業を変更しても【放蕩者】のジョブ特性が永久継続となります

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