#32 趣味回:食事編 ドラゴン肉のジンギスカン

「よっしゃああ! ドラゴンの尻尾肉で『シンキスカン』するぜ!」

「「「うおおおおおお!!」」」


 エンシャントドラゴンから切り落とした巨大な尻尾を囲んで、パオマ村近隣の皆さんが集まっていた。

 テキパキとなにやら準備をはじめるその勢いに押され、俺は一人ソワソワしていた。クロエは村の子供たちと遊んでいる。すげー癒される光景。


「『シンキスカン』ってのは、この辺でよく食べられる焼肉料理のことだぜ。いつもならパオマシープの肉を使うんだけど、今日はとびきりな肉があるからな。使わない手はないぜ」


 隣にやってきたヴァンが、先程一緒に解体したエンシャントドラゴンの尻尾肉の塊を見せながら笑った。

 茶色と言っていいぐらいに濃い色をした赤身に、薄く霜降りがかっている。


 見るからに“肉っ!”という感じで、食欲をそそる。


「パオマシープもそうなんだけど、ドラゴンの肉は独特の臭みがあるって言われてる。でもシンキスカンなら、美味く食えるはずさ」


 どこか待ちきれない子供のように、嬉しそうに話すヴァン。シンキスカンという響きと、いつも使われるのがパオマシープ(羊)ということから考えても、おそらくは『ジンギスカン』のような料理で間違いないだろう。


 うん、楽しみだ。


「おし、まずは火とデカい鉄板だ! キビキビ動けよー!!」

「「「うおおおおおお!!」」」


 ヴァンの掛け声に合わせて、勇ましい村の男たちが雄叫びを上げ、一斉に動き出す。わっせ、わっせと声を掛け合いながら、石やレンガなどを積み上げて囲炉裏のようなものを作り、そこにたくさんの火を起こしていく。


「シンキスカンにはな、この特性の鍋を使うんだぜ」

「お、おおぉ」


 得意げなヴァンが指さす先では、男たちの手によって大きく丸い鉄板が運ばれていた。その形は独特で、真ん中がこんもりと盛り上がった形状になっていた。

 そう、あのジンギスカンで使われる鍋そのものの形だった。


 その鉄板を火の上にセットしていく。火が大きいので、すぐに温まって煙が出てくる。


「鉄板が温まってきたら、脂身を塗りたくれー!」

「「「うおおおおおお!!」」」


 エンシャントドラゴンの尻尾から切り出した脂身の部分を、鉄板に塗っていく。

 脂の香ばしい匂いが漂い、一気にお腹が空いてくる。


「まずは野菜を敷き詰めろー!」

「「「うおおおおおお!!」」」


 次に投入された新鮮な野菜たちが、鉄板の上でじゅうう、じゅううと子気味いい音を立てながら、踊る。


 くぅぅ、もうすでに見栄えだけで飯テロだ……!


「ここで野菜を鉄板の周りによけて、少し待機っ!」

「「「うおおおおおお……」」」


 待機を命じられた男たちが、わかりやすく意気消沈する。

 俺も耐え忍び、生唾を飲み込む。


 確かジンギスカンは、中央の盛り上がった部分で肉を焼くことで、その脂が周囲に落ち、それを野菜に吸わせることで、さらに美味くなるんだっけな。


「よーし、ここでいよいよ主役の登場、ドラゴン肉をど真ん中で焼けぇぇ!!」

「「「うおおおおおお!!」」」


 待ちに待ったヴァンの合図に合わせて、皆急ぐように鉄板の真ん中で肉を焼きはじめる。薄切りにされた新鮮なドラゴン肉が、てらてら光る脂を滴らせながら焼き色をまとっていく。


 うぅー、美味そうだ……!


「至福の瞬間は目の前だ! カーリックたっぷりの自家製タレを手元に準備しろ!」

「「「うおおおおおお!!」」」


 隣の人から回ってきた壺の中には、なにやら黒い液体。この食欲をそそる匂いは、間違いなくニンニクの香りだ。カーリックというのは、ガーリックのことだろう。


 あぁ、この匂いたまらん……!

 白米が食いてぇ……!


「そのタレでびしゃびしゃにして食えよ! それが一番うまいシンキスカンの食い方だからな!」


 隣に腰掛けたヴァンが、俺の器にタレをどぼどぼ注ぎながら言う。

 言われなくてもびしゃがけする気満々だぜい!


「おし、みんな揃ったな? んじゃ――いただきますっ!!」

「「「いただきまぁぁすっ!!」」」


 クロエと遊んでいた子供たちも席に着き、全員で手を合わせた。

 そして皆一斉に、鉄板の上の肉へとカトラリーを伸ばす。


「思いっきりタレまみれにして……と」


 俺もアツアツの肉を、タレの器にどぼんといく。

 焼けたばかりで、タレにつけてもまだ湯気が出ている。


 一口で一気に頬張る。


「あふ、はふ、ほふっ」


 アツい。アツいけど……ウマい。


 まずはガツンと、ニンニクの効いたタレの味が口の中で爆発する。

 その後、ドラゴン肉を噛むたび、じゅわっ、じゅわっと肉汁が溢れ出てくる。


 パンチ力あるタレの風味と、噛めば噛むほど溢れる肉の旨味が合わさって、口の中を濃厚なコクが支配する。


 あぁ……あぁぁ!

 これは、ウマい!!


「ただ……ビールも白米もないのが悔やまれる……!」


 これ以上ない最高のジンギスカンなのだけれど……お供である白米、もしくはビールがないのが悔やまれた。

 本当に悔しいです……!


「はい、あなたもどうぞー」

「え!? こ、これはビール!?」


 村の女性が水瓶に持ってきてくれたのは、なんと黄金色に光り輝くおビール様だった。

 なんて絶妙なタイミングなのか!!


「じゃあ、ご厚意に甘えて……」


 注がれたキラキラのビールを、俺は一気にあおった。


 ゴク……ング……ゴク……!


「……っぷはぁぁぁぁ!!」


 これは……言葉にできない。

 もう最高である。

 いや、最高でも表現として足りない。


 ジンギスカンの濃い味とさわやかなビールの味わいが、たまらなく合う。


「苦労のあとのこれは、やっぱりやめられないな」


 俺はつぶやいて、ほふぅと一息ついた。


 隣ではヴァンが、勢いよく肉にがっついている。うん、よく食べる女性は素敵だ。

 少し離れた場所にいるクロエも、美味しそうにドラゴン肉を味わっている様子だった。


 ああ、たまらない時間だ。


 俺はこうして、幸せなひとときを堪能したのだった。

 ごちそうさまでした。



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