#23 とある魔族の断末魔
「……ふぅ。さすがにちょっと疲れたな」
ちょうど二十体目の魔族を屠ったとき、俺は思わず膝に手を突いた。傍らには、魔族を切り裂き続けたケルベロスウェポンが地に突き刺さっている。
クロエと共にいるところに複数体魔族が現れ、気が付けば息つく暇もなく、何度も何度も魔族が絡んでくる状況となってしまっていた。
これはもしかしたら、魔族殺しの職業特性で魔族を惹きつけてしまっているのかもしれない。
この隙を突いて早々に退散しなければ、また魔族の軍団に囲まれてしまう。
「クロエ、近くに来るんだ。移動石を使うぞ」
「ガルゥ、ワウ!」
俺はケルベロスウェポンを地面から引っこ抜き、素早く鞘にしまう。そして、途中から本格的に戦ってくれていたクロエを近くに招く。
クロエははじめ、吠えて敵の注意を引いて、俺がそこに攻撃を叩き込むような戦い方をして貢献してくれていたが、途中からなぜかさらに体格が立派になり、気が付けば魔族を相手に立派に渡り合うほど、たくましく戦ってくれた。
俺ではなくクロエが仕留めた魔族も、数体いたほどだ。
なんかもう、ユニークモンスターでしかいない幻獣種のような風格すら感じる。
出会ったときはケルベロスから逃げていたが、今ならなんとか戦えるのでは?
「ガウ、アウ!」
「あ、ああごめんごめん」
思考に没入してしまっていた俺を、クロエが吠えて引き戻してくれる。
おっと、早く離脱しなくちゃいけないんだったな。『魔族の戦力を地味に削っていく作戦』は、あくまでも穏便に、じわりじわりと進めていかなければ意味がない。
目立って変に対策でもされたら、それこそ今の優位性を保てなくなるしな。
「よし、村へ戻ろう」
「ガウ!」
俺は胸の高さにまでなったクロエの頭をよしよししながら、リバース村の情景を思い浮かべた。
……あれ、クロエの額に赤い角が生えてきてるけど、なんだコレ?
◇◇◇
「……強き者の気配がする」
自らの赤角が、強者の気配を察知して小さく震えた。
私は高貴なる魔族としてこの世に生まれ、今日この瞬間まで常に己の強さを高めるために生きてきた。
その甲斐もあり私は、魔族四天王が一人『ギンリュウ・マガツヒノカミ』様に認められ、ギンリュウ様の統治するジ・アポンの辺境支配を任されるまでの強さを獲得することができた。
魔族にとっての光栄である“名付け”も、ギンリュウ様より賜った。
その名もライドウという、威厳のある名だ。
魔族は生まれ落ちたその瞬間から同族と命を削り合い、自らの強さを誇示することではじめて生存を許される。
そうして自らの力を証明し続けることでしか、我ら魔族は自らの価値を認めさせることができない。
当然だが、弱い者に価値はない。
強い者に支配されてはじめて、弱い者には生存する意味が生まれる。
弱い者が生き永らえる意味は、強い者の強さの証明と、強い者が強くあることだけに集中できるよう、下僕となってお支えすることだけだ。
魔族は常にそれぞれの強さを高めようと生きている。
私もまたギンリュウ様に挑み、さらなる強さを証明すべく日夜鍛錬を続けている。
まだまだ時間はかかるだろうが、この強さへの渇望こそが魔族の何よりの生存本能なのだ。
「……この臭い、ヤツは人間か?」
気配の方へ行くと、なにやら狼の頭をした者とイヌガミの子が、同胞らと戦いを繰り広げていた。
見た目は我々魔族に近いが、よく臭いを嗅ぎ分けると人間であることがわかる。未成熟な魔族では判別は不能かもしれないが、私には分かる。
人間。
我々の世界で一番弱く、堕落と馴れ合いが大好きな下等生物。
にも関わらずヤツらは、魔族に歯向かい、反抗し、弱いくせに自立と自由を主張し、叫ぶ。
人間の存在が許されるのは、我々のような真の強者、魔族に支配された場合のみだ。だからこそこの数百年間で、魔族は何度も人類を支配しようと試みた。
だがその度に、弱い者であるはずの人類は、なぜか我々を退けてきた。
理解ができない。
なぜ、あんなにも弱く無能な存在が、我々に盾突くことができるのか。
「はぁぁ!!」
人間には、理解できない部分が多い。
その点、魔族はシンプルだ。
強い者に、惹かれる。
そして今、私は目の前の狼頭の男へ向けて、戦いを仕掛けていた。
本能的に。
「むん!」
「――――ッ!?」
が、その瞬間。
私ははじめて魔族としての本能を後悔した。
この人間は、私より強い――。
この私ですら目視できない速度で振り込まれた大剣によって、私の首はととりと落ちた。意識は途絶えた。
コイツは、化物だ――
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