#21 おっさん、勇者と証明される

「レオン・アダムス。そなたを『勇者』と任命する」

「身に余る光栄、謹んでお受けいたします」


 俺はシュプレナード王の御前でひざまずき、重厚な証書を受け取る。

 これこそが『勇者証明』。


 勇者証明とは、その名の通り勇者としての証明書のことを指す。

 そして、この世界における勇者とは、魔王を討伐するために、七大国各国の王が直々に任命し、その特権として国境を意に介することなく、自由に大陸の行き来ができる者。


 その特権の元、自らを鍛えつつ、様々な土地で強者を仲間にし、魔王を打倒する力をつけていくというのが、言うなれば『LOQ』のメインストーリーと言える。


 ちなみに『LOQ』における主人公『ヴァン・オルフェン』は、西の果てにある七大国が一つ『プルラウラ王国』にて、この勇者証明で公に認められた勇者となり世界へと旅立つのだ。


 だから俺もこの異常事態に対処するため、あまり派手な動きはしたくなかったところだが、背に腹は代えられないと思い、勇者証明を発行してもらうことにしたのだった。


 本当なら、勇者などと言う目立つ存在にはあまり興味がない。

 だが今この瞬間にも、どこかで魔族が誕生し、人々の暮らしを脅かす可能性があるのだとすれば……そんな状況を見過ごすわけにはいかない。


 俺だけが唯一、移動石でこの異世界中全土、好きなところへ移動することができるのだ。それなら、俺はできることをしたい。

 小さなことでいい、それを自分のペースで積み重ねていくことこそが、俺の編み出した人生を有意義に生きるコツだから。


 それに、誰かが困ったり怯えたりしている状況で飲んでも、酒もメシも不味くなるしな。おっさんの戯言たわごとと笑われるかもしれないが、俺はこの世界で自分に正直に生きると決めている。


 どうせ飲むなら、やっぱり心の底から楽しみたいだろ。


「あとは……あの作戦を、実行に移すか」


 勇者証明を受け取った俺は、王城を出たその足で、今度は様々な店の並ぶ市場の方へと足を向けた。

 そして、ありとあらゆるものを買えるだけ買い込み、そのに備えた。


◇◇◇


 後日。

 俺は暑苦しい“狼マスク”をかぶって、魔領域にいた。

 前々からこっそり考えていた作戦を、実行するためだ。


 その、作戦とは。


「魔族の戦力を地味に削っていく作戦~~っ!」

「クゥゥ~ン」


 ドンドンパフパフ。

 俺は小さく呟き、足元のクロエをよしよしする。


 俺の手元には移動石があり、有力魔族の攻撃パターン(ゲーム知識)もある程度は入っている。そのアドバンテージを存分に活かし、魔王の戦力をじくじく削っていこうという作戦だった。


「よーし……気を引き締めていくぞ、クロエ」

「ワン!」


 足元のクロエをもう一度よしよししてから、俺は視線を上げる。

 今俺がいるのは、魔族国家ジ・アポンのある大陸の辺境、荒涼とした大地の広がるクロイソベル半島だ。


 魔族の支配は魔王を頂点とし、その下に四天王と呼ばれる国を統べる魔族がいる。そのパワーバランスはシンプルで、自分より強いかどうかのみで測られているが、だからこそ彼らは同族をし、強さを競い合うことで、さらなる強さへと己を高めあげていく。


 魔領域で魔族が生まれると、それを察知した近隣の魔族と戦闘になり、勝てばそのままその界隈で生き残り、さらに別の魔族と戦い続け、自らの力をある程度誇示することができれば、自治することなどが認められるという流れだ。


 まさに、魔族の世界は“弱肉強食”。強い者の意思や論理こそが、魔族の守るべき指標となる。


 ちなみにだが、恐ろしい魔族ではあるのだが、強さを測る戦いにおいて、敵対者の命を簡単に奪ったりはしない。ヤツらは強さを誇示すると同時に『弱いものを支配したい』という本能的欲求があるので、自分より弱いとわかった者を生かしておきたいと考えるのだ。


 そういった思考体系に加え、人間から得る知見や知識で、発展・巨大コミュニティ化していったのが、魔王を頂点とする魔族たちの世界と言えた。


「そんなものに今、一人と一匹で挑もうというわけですな」

「アン、ワン」


 俺は狼マスクの位置を直しながら、自虐的につぶやく。

 ま、ブツブツ言いながらもステータスアップにもつながるだろうし、なにより魔族の数を減らすことで、生存エンドへの足掛かりともなる。


 なにせ魔領域のユニークモンスターであるケルベロスを倒すことができたのだから、そうそう魔族にだって負けやしないはず。

 有力魔族であるほど、自分の方が強いと主張したがるため、一対一を好む。そうなれば、ゲーム知識もある俺は、たぶん負けないはずだ。


「クロエ、大船に乗ったつもりでいろよ」

「ワン!」


 クロエの愛くるしい返事に、俺がよしよしで返していると。


「おい、貴様! そこでなにをしている!?」

「…………っ!」


 さっそく、赤い角を生やした魔族に出会った。

 あれれ、結構、赤角が、大きくていらっしゃるんですね。


 ……さっそく、大ピンチかも?



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【運】が上昇しました

:【勇者】の職業素養は――獲得できません。

└これは主人公のみに許された職業素養です。

:【旅人】の職業素養を獲得しました

:【上位:ジャンパー】の職業素養を獲得しました

:【上位:ダークナイト】の職業素養を獲得しました

:【魔族殺し】の職業熟練度が大幅に上昇しました

:【猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【魔族殺しのパッシブスキル『魔族誘致』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『作戦立案』】を獲得しました

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