#18 対魔族(幼年期)

 俺は魔族の姿を目視した瞬間、一足飛びに向かっていく。


 その灰色と黒が混ざったような暗黒の四肢と、筋肉が異様なほど盛り上がっている体躯。そして一番の特徴である額の赤い角――『LOQ』の魔族は言うなれば、“黒い大鬼”とでも形容できる姿をしている。


「でやっ!」


 俺は躊躇なくケルベロスウェポンを振りかぶり、その喉元めがけて剣を振り抜く。

 これで首が飛んでくれれば、一旦は事なきを得るのだが――


「……ァ?」

「やっぱり、躱すのかよ……っ」


 首を落とさんと振り込んだ渾身の一撃を、魔族は瞬時の反応で回避する。

 魔族は生まれながらに戦いを好み、かなり高い戦闘力(ステータス)を有しているとされている。


 なぜか。


 魔族は、元は様々な魔物が高濃度の魔力に感応し、突如として知性と自意識に目覚め、人間のような二足歩行の姿となる存在だ。

 だが、ヤツらの知性と自意識はすべて“自分よりも弱い存在を支配すること”を本能として、人間とはかけ離れた思考体系を形成していく。


 その思考が発達していく過程で脳が独特の形状変化をし硬質化して、額を突き破るように赤い角が生えるのだ。このが大きく威圧的であるほど、強力な存在の魔族となる――と、設定資料に長々と書かれてあった。


 目の前の“ヤツ”は、まだ生まれたばかりの小さな赤角だった。


 それなのに、だ。

 俺の初撃は、見切られた。


 魔族がどれだけの戦闘種族なのかが、うかがい知れた。


「アァ……ァ?」


 サメのように感情のない真っ黒な目が、こちらを不気味に睥睨へいげいしている。俺の後方、アリアナとルルリラもその視界におさめたらしかった。

 ……判断を、急がなければ。


「アリアナ、ルルリラ! キミたちはひとまず逃げろっ!!」

「えっ」

「な、なんでだよ!? ウチらだって――」

「……ァア?」


 と、そこで。

 目の前の魔族が、と口元を歪めたのがわかった。

 全身があわ立つ。


「アァァァァァアア!」

「ひっ!?」


 ――コイツ、ルルリラを“弱い者”と見たか!


 目の前にいた魔族が、ルルリラめがけて地を蹴ったのと同時。

 その行く手を阻むようにして、俺もバックステップしつつ剣を振った。


 ガギィン!


 ヤツの爪と、俺の刃がつば競り合う。

 ルルリラの目の前、火花が散るような光景だった。


「アァァ?」

「ぐ……!」


 コイツ、すごい膂力で押し込んできやがる……!


「あ……」

「ルルリラ、立て! 腰を抜かしてる場合じゃない!」


 俺と魔族の刹那の応酬に、ルルリラは慄き腰を抜かしてしまっていた。

 まだ、彼女たちは魔族と戦うには早い……!


「アリアナ、俺の懐から移動石を抜いて、二人で村に戻ってくれ! 俺はコイツをなんとかしてから戻る!」

「で、でもそれじゃレオンさんが……っ!」

「大丈夫だ、俺一人ならなんとかできる! だから早くっ!」

「わ、わかりました!」


 俺は魔族の攻撃をなんとか押し止めたまま、退避するようアリアナに言う。

 アリアナは言う通りに移動石を抜き取り、ルルリラに肩を貸しながら距離を取ってくれた。


「いけ! 思考が育っていない魔族は、弱い者から狙う! はやくっ!」

「はいっ!」

「ァァァ?」

「お前の相手は、俺だ!」


 ジロリ、とアリアナたちへと視線を這わせた魔族へ、俺はケルベロスウェポンを突き込む。


「ィ……ィヒィ……!」

「コイツ……!」


 ケルベロスウェポンの剣先を豪快に両手で掴み、血しぶきを上げる魔族の両手。

 にもかかわらず、ヤツは笑う。まるで、戦いによる痛みを喜んでいるかのようだ。


 不気味だ。


「イィ……オマエ、ツヨ、い」

「もう言葉を……!」


 俺の大剣を掴んだまま、低い声で言葉を話す魔族。

 どうやら、笑う、という感情表現を完全にマスターしたらしい。


「ヒ、ヒヒ……たの、しいなぁ。たたか、い」

「こっちはなんにも楽しくない、ぞ!」

「……グッ!?」


 俺は力を込めて、思い切り武器を横薙ぎに振り回す。そして遠心力で、魔族を岩肌めがけて吹っ飛ばした。


「はぁ……はぁ……」


 肩で息をしながら、俺は立ち昇る砂煙の先を睨む。

 ひとまず、アリアナとルルリラは離脱してくれたようだった。


 だが、ヤツはまだ立ってくる。

 腕に伝わったヤツの殺気が、まだすぐそこに感じられるからだ。


「イヒ、ヒィィ……オレ、オマえ、ドッチが、ツヨい?」

「俺だ。俺が勝つ」

「オマエツヨい、たたかい、カッてオレ、ツヨクなるぞォォ!!」


 叫び、ヤツが突っ込んでくる。


 ヤツが人里に下りたならば、間違いなくリバース村を壊滅させ、そこで支配者として君臨する――そんな最悪な未来が待っているだろう。


 なんとしても、今ここで討ち果たさねば。


 俺は大剣ケルベロスウェポンを、再び構えた。



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が大幅に上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が大幅に上昇しました

:【運】が上昇しました

:【一般パッシブスキル『先手必勝』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『武器防御』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『しんがり』】を獲得しました

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