#17 異常の理由
川から出現したキラーベルーガは、本来は魔族の領域である『魔領域』に生息する魔物だ。
独特な頭の形とナイフのような背びれが特徴の、チョウザメ型の魔物である。大きいものでは全長六メートル以上になり、かなりの威圧感がある。
本来のシナリオで遭遇するタイミングでは、あくまでも雑魚敵の一匹でしかないが、それはあくまでもラストダンジョン前の、キャラクターたちが育ち切っているタイミングでの話だ。
なぜ、そんな強力な魔物が、辺境とは言え人間の領土であるこの辺りに出現しているのか。
まったくもって意味不明である。
言葉を選ばずに表現するなら、ゲームバランスの崩壊もいいところだ。
「アリアナ、ルルリラ! あの魔物はかなり危険だ。二人は距離を取って、魔法や投石で牽制するだけでいい!」
「わかりました!」「らじゃ!」
二人に指示を出し、俺はキラーベルーガへ向かっていく。
俺はユニークモンスターのケルベロスから入手した特殊武器『ケルベロスウェポン』を装備しているので、個人的にはそこまで警戒する相手ではない。
ただ、ユニークのように異常な個体である可能性も否定できない。
この世界は『LOQ』に酷似してはいるが、現実だ。
常に油断は禁物なのだ。
「ブシュウウウ!」
こちらに背びれを向けるように回転してくるキラーベルーガ。これは『スイムカッター』という切り裂き攻撃だ。
俺は向かってくるベルーガの身体を、あえて寸でのところで躱す。
そしてすれ違い様に、ケルベロスウェポンでその背を斬りつける。三つ頭の地獄の番犬が火を噴くように、大剣の刃が背を抉るように迸った。
「ブシヤァァァ!?」
ベルーガの全身から、血飛沫が噴出する。
俺の一撃は予想以上の威力だったらしく、キラーベルーガの身体を一刀両断した。
「す、すごいですレオンさん!」
「と、とんでもねーヤツだなお前!?」
距離を取っていたアリアナとルルリラが、驚きを浮かべて近寄ってくる。
正直、自分でもキラーベルーガを一撃で倒せるとは思っていなかったので、内心でかなり驚いていた。
この攻撃力があれば、もしかしたら魔族とも渡り合えるかもしれない。
「それにしても……」
なぜ、こんな魔物がここにいるのか。
俺は一抹の不安を抱きながら、思案に耽る。
「……アリアナ、専門じゃないと思うが、少しコイツのことを調べてみてもらってもいいか?」
「はい、お安い御用です」
俺の頼みに、アリアナは快くうなずいてくれる。
彼女の調査能力や知的好奇心は、植物のみに向けられるものではないみたいだ。
その有能さに、頭が下がる思いだった。
「身体が大きく成長していますね。……彼らが餌にしている小魚などが、濃い魔力を含んでいるのかも」
キラーベルーガの巨体を調べながら、アリアナが言う。
確かに『LOQ』の世界では、魔族の生息地域である魔領域は魔力濃度が濃く、それに順応した他生物は身体が大きく成長するという設定があった。
そもそも魔族という存在も、魔物が濃い魔力によって突然変異し、人間並みの知能を獲得した存在、という風に規定されていた。
だからこそ人間の住んでいる魔力濃度が低い大陸と、魔族が住む魔力濃度が高い大陸(魔領域)、という風に、海峡を挟んで棲み分けられていたのだ。
「もしかして、この辺りの魔力濃度が上昇している……?」
研究家肌のアリアナは、キラーベルーガの身体の検分を進めながら、独り言を零す。
俺はその言葉を聞き、ある一つの仮説に辿り着く。
もしかして俺が
一度抱いた思考が、次第に不安となって大きく育っていく。
「ウチは難しいことはわかんないけどさ、この辺の魔力濃度が高くなってるとして、なんで上がるわけ?」
首を捻ったルルリラが、アリアナに純粋な疑問をぶつける。
「魔力濃度が上昇する原因は、主に三つほどあります」
投げかけられた疑問に、丁寧に応えるアリアナ。
俺も設定資料集で読んだ内容を、頭の中で反芻する。
「一つは、周辺一帯の魔物を一挙に狩りすぎた場合です。魔粒子が大量に発生し、それが魔力に変換されてしまうせいで、魔力濃度が高まります。ただ、レオンさんの狩りで追い付かないほど魔物が発生していたと考えると、それが根本原因ではない気がします」
「んー確かにね。それだと数が異常に増えてる理由がわからないままだ。レオンは増えたから狩ってるわけだもんね」
二人の言う通りだった。
魔物を狩りすぎると魔力濃度が高まってしまう、という理屈なのだが、それが原因なのだとしたら、そもそも毎日狩っても追い付かないほどに、魔物の数が増えたことの理由が説明できない。
順番が逆、ということだ。
「二つ目は、
魔孔とは、地震のように突如発生する自然現象の一つだ。
なんの前触れもなく、大地に魔力が噴出する
だが、魔孔は自然に発生して自然に閉じてしまうものなので、生態系に変容をきたすほどの影響はない場合がほとんどのはずだ。
「んー、それも違う気がするけど」
「そうですね。私もそう思います」
二人は思案顔で、言葉を交わす。
「じゃあ、最後の三つめはなんなのさ?」
「えっと、三つめは――」
そこで一瞬、ざわりと背筋を悪寒が走った。
周辺地域の、魔力濃度が上昇する理由。
それは。
――魔族の生誕。
「ァ……アァ…………」
そこに突如、現れたのは。
生まれたばかりの、魔族だった。
一切の感情を感じさせない虚ろな目が、ただただこちらに向けられていた。
:【体力】が上昇しました
:【魔力】が上昇しました
:【筋力】が上昇しました
:【知力】が上昇しました
:【精神力】が上昇しました
:【漁師】の職業素養を獲得しました
:【猟師】の職業熟練度が上昇しました
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