魔族対策編

#16 森の異常

「ウィルさん、皆さん。本当にありがとうございました。また遊びに来てください」

「こちらこそ、今日までありがとうございました。また招集があればすぐに駆け付けますので、そのときにまた」


 できたばかりの村の入り口のアーチの下で、俺はウィルさんとその仲間たちと、別れの挨拶を交わしていた。

 アーチには、村の名前である『リバース』と職人に書いてもらった。

 リバース村。名前の由来はそっくりそのまま、“再生”とか“生まれ変わり”という意味からつけた。


 村の主要メンバーとして、アリアナ、ルルリラ、シェリも同じく握手などをしている。俺の足元では、クロエも名残惜しそうに吠えている。


 新メンバーであるシェリは、この数日で瞬く間に馴染んでいった。ウィルさんから仕事の引継ぎも迅速に終え、ビシバシ俺の秘書として働いてくれている。

 服装がなぜか酒場で働いていたときのままエプロン姿なのが違和感だが、本人いわく「アタシの勝負服なの!」とのこと。


 それより、なぜか主要メンバーが女性ばかりになってしまった……これじゃまるでハーレムみたいじゃないか。


「まあ、俺はそんなに若くないしな……」


 アリアナ、ルルリラ、シェリの美しく整った顔立ちをぼんやり眺めて、ふとつぶやいた。


「ワン、ワン!」

「よしよし、お前も美人さんだよな」


 足元のクロエを撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。


◇◇◇


「周囲の森がおかしい?」


 ようやく村の体裁が整いだした、ある日のこと。

 村の中心であり、役場の機能も兼務している自宅にて、俺はアリアナから報告を受けていた。部屋にはルルリラとシェリもいる。


「はい。定期的に周辺の森の調査をしているのですが……木々や草花の成長速度が、異常に早いんです」

「それって、悪いことなの?」


 神妙に語られたアリアナの言葉に、シェリが疑問を差し挟む。


「一概に悪いということではないのですが、あんな速度で成長していたら、まず間違いなく生態系がおかしくなります。それに、いくらこの村を整備したとしても、木々の成長に飲み込まれて再び荒れ果ててしまうことになります」

「はぁー? それって、ここまで開墾したのが意味なくなるってこと?」

「放っておくとゆくゆくはそうなる、ということですね」

「マジでやばいじゃん! なんとかしないとっしょ!!」


 ソファにもたれてリラックスしていたルルリラが、真剣な表情で声を上げた。


「毎日イービルトレントを狩ってはいるけど、それでも足りないってことなんだね?」

「はい……。本来であれば、毎日狩る必要なんてないはずなんです」


 俺はここの『街づくり』をはじめたときから、日課としてイービルトレントを狩り続けている。が、確かに最近狩っても狩っても大量に出現している気がしていた。

 おかげで村の財政面は潤っているのだけれど、このままの状況はまずそうだ。


「わかった。一度森の奥地まで調査に行くとしよう」


 せっかく『街づくり』が軌道に乗り、自走をはじめたのだ。

 一日も早く魔族に対抗する防衛拠点とするために、ここでまた振り出しに戻すわけにはいかない。


「よし、さっそくだけど、俺が行ってくる」

「わ、私も行きます!」

「ウチも行く! ウチが建てた家、森に食われたらたまんないからねっ!」


 アリアナとルルリラが、調査に立候補してくれた。


「じゃあ、シェリは村のことを頼む」

「ええ、任せて」


 シェリには、まだ駐留中の騎士団、労働者の方々への対応など、村の運営を任せることにした。

 俺は装備などの準備を整え、森へ出発した。



 森の奥地を目指し、歩くこと数時間。

 木々の切れ目に、大きめの川が見えてきた。


 ここに来るまで、幾度となくイービルトレントや、ヴィレッジウルフらと遭遇した。

 アリアナとルルリラの戦闘経験はかなり向上しており、難なく倒すことができたが、いかんせん数が多い。 


「この辺りで少し休もうか」

「はい」

「さんせーい」


 俺は日課のおかげかまだ余裕があるが、アリアナとルルリラの顔に疲労の色が見えたので、休憩することにする。


「はぁー。顔でも洗おうっと」

「足を滑らせないように気を付けるんだぞ」

「はん、子供じゃないっつーの!」


 ルルリラが川縁に近づき、顔を洗おうと腰を落とした。

 その瞬間。


「ぎゃっ!?」

「どうした!?」


 短い悲鳴のあと、ルルリラが焦った様子で川から離れた。


「大丈夫ですか、ルルリラさん!?」

「ルルリラ、どうした!?」

「か、か、川に、化物……!」


 震えるルルリラに近寄ると、彼女が川を指さした。

 俺は川へ一歩近づき、その辺りを見た。


 すると――


「ブシャアアア!」

「うわっ!?」


 顔に喰らいつかんばかりに、水面から独特な頭を持った巨大魚が飛び出した。

 間一髪のところで、ヤツの攻撃をかわす。


 そしてすかさず、その姿を確認する。


「まさか、『キラーベルーガ』か!?」 


 飛び出した後、また川に戻ったヤツの姿を見て、確信する。

 あの巨体に、独特な頭の形状と、背筋に並ぶ刃物の切っ先のような背びれ。


 キラーベルーガ。本来であれば、魔領域の川にしか出現しないチョウザメ型の魔物だ。


 いくらここらがゲーム後半に訪れる場所とは言え、あんな厄介な魔物が出現するようになるって、いったいどういうことなんだ?


 この辺境に、いったいなにが起こってる?



:【体力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【釣り人】の職業素養を獲得しました

:【猟師】の職業熟練度が上昇しました

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