#15 ゴロツキを撃退し、秘書をスカウト

「どっからでも来い」


 俺はわざと挑発的に、ゴロツキどもを手招きした。

 こちらを睨みつける連中の額に、ビキビキと青筋が走ったのがわかった。


「舐めてんじゃねぇぞコラァァァァ!!」

「てい」

「うひいぃぃぃ!?」


 いの一番に向かってきた男の腕を掴んで捻り上げ、その辺に転がす。

 次。


「おどらぁぁぁぁ!」

「てい」

「あひぃぃぃ!?」


 こん棒のような木材を振り上げ、一心不乱に向かってきた男の鼻を掌底でつき、その辺に転がす。

 次。


「このクソがああぁぁ!」

「てい」

「ひぎぃぃぃ!?」


 ナイフを振り回してイキったヤツの手首を蹴り砕き、その辺に転がす。

 次。


「ふ、ふざけんじゃねぇぇ!」

「てい」

「いびぃぃぃぃ!?」


 気合十分に上着を脱いでいたヤツの腹を以下略。

 次、次、次。


「――これで終わりか?」

「な、なんて野郎だ……っ!」

「兄貴……や、やばいですぜ……!」


 あっという間に取り巻きの数十名は地面に転がった。低いうめきがなんとも哀れだ。

 こいつらのボスらしい兄貴とやらは、一番の子分と恐れおののいている。


「ほら、かかってこい。ここでとっちめとかないとまた繰り返すだろうからな」


 俺は一歩一歩近づきながら、また手招きをする。

 だが二人は、その大きな身体を目一杯縮こまらせて、じりじりと後ずさった。ビビっているのだろうか。


「い、いけ! お前いけよオラ!」

「え、えぇぇ? 兄貴が先に腕っぷし見せてくださいよ!?」

「オレの言うことが聞けねぇのか!?」

「そ、そんなぁ!」


 とうとう、二人で言い争いをはじめる。

 なんとも見苦しい。


「どっちでもいい。来い」

「あ、ああ、兄貴には指一本触れさせねぇぞ!」

「てい」

「びゃびぃぃぃ!?」


 突進してきた一番子分を、ビンタでその辺に転がす。ちなみにもちろん手加減はしている。

 さて、残るは兄貴一人だ。


「あ、あぁ……」


 またも一歩、後ろに下がる兄貴。

 もはや膝が震えている。


「部下に身体張らせといて、お前は逃げるのか? 情けなくないのか?」

「う、うるせぇ!」

「喚くなら猿でもできる。一端に群れのリーダーやってたんなら、行動で示してみせろ」

「うるさいうるさい、うるさいんだよっ!」


 ヤケになったのか、口角泡を飛ばしながら向かってくる兄貴。


「むん」

「アガッ!?」


 ヤツの大振りなパンチをかわし、鳩尾に一撃入れる。

 吐き気を催したのか、口元を抑えてうずくまった。


「がぁ……うぁ…………」

「もう、悪さしないか?」


 俺は兄貴の横に膝を着け、背中をさすってやる。

 苦しいときは全部吐いちまいな。


「し、しません」

「人に迷惑かけないか?」

「か、かけません」

「よし、言ったな」


 俺は無理矢理ヤツの手を握り、笑顔で指切りをした。

 もし今度、街に来たときにこういう形で出会ったら――容赦しないぞ?


「すいませんでした……オレら調子乗ってました……」


 身体を引きずるように去っていくゴロツキ連中を見送りながら、俺はすっかり酔いが醒めてしまっていることに気が付いた。

 あぁ、せっかくの晩酌だったんだけどなぁ。


「お客さん」

「わっ」


 と、急に後ろから声をかけられる。

 振り返ると――酒場の彼女が立っていた。


「どうしても、お礼が言いたくて。助けてくれて、ありがとう」

「いや、いいんだ。俺はただいきつけの店を台無しにするヤツらが許せなかっただけだから」


 俺がお礼をされるのは、筋違いだ。俺はただ、いつも最高の晩酌タイムを提供してくれる自分の行きつけを守っただけなのだから。

 むしろ、日ごろの感謝を伝えたいのは俺の方だ。


「アタシ、シェリ。シェリ・インダストリア。あなたの名前は?」

「俺? 俺はレオン・アダムス」

「レオン、か……うん、かっこいい名前だね。アタシは好きだな」

「そうかい? ありがとう」


 えくぼを作って、微笑むシェリ。

 若い男なら確実にイチコロであろう至高のスマイルに、俺も軽く眩暈がした。


 まあ、俺は若くないのでギリギリで理性を保っていられるけど。


「レオン、なにかアタシにお礼をさせて」

「いや、別に気にすることは――」

「イヤよ、そんな風にはぐらかされるのは。アタシがそうしたいんだから、お礼、させてよね。じゃないと付きまとっちゃうんだからっ」


 今度は悪戯っぽく言うシェリ。

 コロコロと変わるチャーミングな仕草が、魅力爆発である。


「じゃあ……」


 俺はそこで、考える。

 この流れで、俺の秘書になってもらうことを提案したら、どうだろう?

 ……さすがに嫌がられるだろうし、なんか恩着せがましい気がしてしまうな。


 でも、シェリがたまにでも村に来てくれたら嬉しいから、言うだけは言ってみようか。


「今、俺は秘書を探していて」

「わかった。アタシがなる」

「ええっ?!」


 即答だった。

 いやいや、お店とか大丈夫!?


「大丈夫よ。元々短い間だけ雇ってもらっただけなの」

「あ、そうだったんだね」

「アタシ、将来は自分のお店を持ちたいと思ってるの。そのために、接客以外の仕事も覚えておいて損はないしね。じゃ、さっそく店長に『お世話になりました』って言ってくる!」

「行動がはやいな」


 こうして俺は、最高な秘書をスカウトすることができた。

 シェリの行動力を考えると、俺がぼーっとしててもグイグイ引っ張ってくれそうだし、安心だな。


 秘書も見つかったことだし、俺は飲みなおそうと思い、シェリに続いて店に入った。


 一仕事終えた後の一杯は、やっぱり美味かった。



:【体力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【放蕩者のパッシブスキル『酔拳』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『受け流し』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『一対多』】を獲得しました


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