#14 秘書を探して

「秘書か……俺に見つけられるだろうか」


 俺は『街づくり』の仕事を終えた夕方、移動石を使いシュプレナードに戻り、すっかり行きつけとなった酒場に来ている。


 ウィルさんとの契約期間が終了するまでに、俺をサポートしてくれる秘書を見つけたい。そのための一人作戦会議を、例によってお酒を嗜みつつ行っているところだった。


 まず、秘書にはどんな能力が必要か。


 ステータスで考えるなら、おそらく精神力は外せない。

 前世の職場では、秘書と言えば社長に付いていた人ぐらいしか見たことがなかったけど、すげー気が強そうなタイプの人だったっけ。

 俺が会社の廊下ですれ違いに挨拶したら、プイって感じで無視されたっけ。


 ……ああいうタイプの人は、絶対に嫌だな。


 そう考えると、悪い意味で気が強いって感じじゃなく、しっかりしているけど思いやりがあって人間力もある人が良い。これってやっぱり、精神力のステータスが高い人になるよな。


「ただ、あまり優秀なスカウトキャラの記憶はないんだよな……」


 そう、俺はリメイク版『LOQ』の『街づくり』をそこまでやり込んでいなかったので、秘書ポジションに最適なスカウトキャラの情報がほとんどない。パーティーキャラ級に強くなるバトル要員は、きっちり覚えているんだけどなぁ。


 それに、現実において自分のステータスがわからないのと同じで、他人のステータスも見ることはできない。


 秘書に向いている人なのかどうか、それをどうやって判断するか。

 それが今抱えている課題だ。


 というかそもそも、俺の秘書なんてやってくれる優しい人、いるんだろうか?

 シュプレナード王の後ろ盾があるので、そこそこの賃金は払ってあげられるし、シュプレナードという国家の重要な仕事だからやりがいはあるとは思うんだけど、どうなんだろう。


「お客さん、なにか飲み物追加しますか?」

「あー、じゃあエールをください」

「はーい。エールひとつー」


 考え込んでいた俺に、酒場の給仕のお姉さんが声をかけてくれる。

 ショートヘアがよく似合っている彼女は、きびきびと店内を忙しなく動きまわりながら、ピンと背筋を伸ばして周囲をよく見ている。その洗練された無駄のない立振る舞いは、凛とした美しさを漂わせている。


 これは後から知ったことだが、彼女目当てにこの店にやってくるお客もいるぐらい、彼女はこの辺りでは有名な看板娘だそうだ。


 ……彼女みたいな人が、秘書になってくれたら最高だよな。

 ステータスがどうとか、関係なく。


「はい、エールどうぞー」

「ありがとうございます」

「ねえ、お客さん。アタシの顔に、なんか付いてるかな?」

「え?」

「ずーっとこっち見てたからさ。気になって」

「ぶほっ」


 口に運んでいたエールビールを、思わず吐き出す。

 いい年したおっさんが女性をガン見するとか、まずいまずい。


「お客さん、一人で来ること多いですね。いつもここの、隅っこの目立たない席で飲んでるイメージ」

「こ、この席、好きなんです。静かに飲んでいられるから」

「へぇー、渋いね」


 彼女は話しながら、柔らかく微笑んだ。

 うお、グッとくる仕草だな。

 俺がもし若かったら、イチコロだったことだろう。


「ごゆっくり。たくさん飲んでくれたら嬉しいよ」

「は、はい」


 空いた皿を器用にいくつも持って、ふんわりと笑って去っていく彼女。

 気が利く上にテキパキしていて、俺みたいなおっさんに対しても愛想良くしてくれる、素敵な人だな。


 ……スカウト、してみる?

 いやいやいや、店員さんにナンパとか、ダメだろ。


「おいっ、こっちに来いよ女っ!」

「お前だよお前っ!」

「はい、ただいまー」


 と、俺が店の隅っこで懊悩おうのうしていると。

 見るからにガラの悪い、大柄な男二人組が、彼女を呼びつけていた。


 ……嫌な感じだな。


「姉ちゃんよぉ、いい加減オレのもんになったらどうだ?」

「そうだそうだ、どんだけ通ってやってると思ってんだよ!」

「あー……毎度ありがとうございます」


 横柄な態度で、彼女を無理矢理抱くようにする片方の男。それを見て連れの男が下卑た笑い顔をしている。


 せっかくの酒が不味くなる。

 正直、不愉快だ。


「こんなとこでせっせと働くよりよぉ、姉ちゃん。この尻振って客を取った方が何倍も稼げると思うぜぇ? オレがその辺の面倒も見てやるからよぉ、なぁ?」

「そうだぜ、大人しく兄貴のもんになっちまえよ。ひぇっへっへっ!」


 男は彼女の下半身を撫でながら、唾を飛ばして高笑いした。

 俺はゆっくりと席を立つ。


「……お客さん、そんなにアタシの身体に興味があるんなら、まずはその残念なオツムをなんとかして、もっと男を磨いてから出直して」

「あぁ? なんだあ?」

「アタシは貧乏人だけど、魂まで貧乏になった覚えはないの。お客さんたちみたいに女を下に見て、職業差別して、その挙句に自分のことも客観視できないアホとは、同じ空気すら吸いたくないわけ」

「な、なんだとこのクソアマがぁぁ!?」


 と、彼女の言葉に激高した男が、マグで殴りかかろうとした。


 が、させない。

 俺は男の腕をグッと掴む。


「酒、入ってるだろそれ」

「な、なんだぁ!?」


 生産者の方々が、丹精込めて作った酒だ。そして、お店で働く人たちが真心こめて提供してくれたもの。


 一滴たりとも零させるものか。


「その一杯の酒の方が、お前らより価値あるぞ」

「なんだぁテメェはぁぁ!?」

「あれ、キミら、よく見たらあのときの」


 男の腕からマグを回収してから、よくよくその顔を見ると。

 ルルリラとひと悶着起こした、あのゴロツキ二人組だった。


「ま、またテメェかぁぁ!?」

「あ、兄貴! 腕、腕気を付けてください!」

「キミらあれだな。一回本気で痛い目みないと、わからないらしいな」


 俺はため息まじりに言ってから、ぐいっと男を引っ張る。


「な、なんちゅー力してやがんだコイツぅぅ!?」

「店の中じゃ迷惑がかかる。外に出ろ」

「お、おうわぁぁぁ!?」

「あ、兄貴ぃぃ!」


 腕を掴んだまま、俺は男を店外へと放り投げる。連れの男は悲鳴のような声を上げながら追従。

 俺の筋力、めちゃくちゃ育ってるかも。


「あの、お客さん……」


 彼女が、心配そうに俺を見ていた。唇が小さく震えている。

 あんな大男二人に凄まれて心底怖かっただろうに、自分の言葉で毅然と立ち向かったのだと思うと――心底、尊敬できる人だな。


「申し訳ない、騒がしくしてしまって。俺とあの二人の分のお勘定、ここに置いておきます」

「え、でもあなたは何も――」

「なんにせよ注目を集めてしまったし、そのせいでここにいる皆さんの宴席を中断させてしまったのは間違いないので。受け取ってください」


 ありがたいことに、ヴィレッジウルフやイービルトレントの素材が高値で売れたおかげで、個人的な持ち合わせにも今は余裕がある。


 いい歳したおっさんたる者、自分の尻は自分で拭うもんだ。


「それじゃ、今日はこれで。美味しかったです。また来ます」

「待っ――」


 俺は言って、店を出た。

 外では、男が二人……じゃなく、十人ぐらいに増殖していた。

 急いで取巻きを呼びやがったか。


「逃げずにちゃんといたか」

「あ、当たり前だろうがぁ! テメェ、この人数を相手にできると思ってんのか、あぁん!?」

「問題ない。弱いヤツほどよく吠えるし、群れるもんだからな」


 俺は首をストレッチしながら応える。


「そんな奴らが束になったところで――負けんよ」

「言ってくれるじゃねぇか……オレ様を怒らせたこと、あの世で後悔させてやるぜぇぇ!!」

「兄貴ィィ! 暴れてやるぜぇぇ!!」

「「「うおおおお!!」」」


 増えた取巻き連中が、兄貴とやらの気合いに合わせて、得物を振り上げて叫ぶ。


「お前ら、やっちまえ!!」


 そして。

 全員が同時に、俺に向かってきた。



:【体力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【放蕩者】の職業熟練度が上昇しました

:【食通】の職業熟練度が上昇しました

:【一般パッシブスキル『ゴロツキキラー』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『威圧感』】を獲得しました

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