#8 ギルドと職業案内所
レナード牛のタルタルステーキを堪能した、翌朝。
「……うっ」
案の定、若干の二日酔いだった。
くぅ、節度を持って酒をたしなむと決めていたのに、ついやってしまった。
反省。
「おーいレオン。起きてるかー?」
「あ、ああ」
後悔に苛まれつつボーっとしていると、部屋の扉がノックされた。声の主はルルリラだ。
明日からはいよいよエビデ村跡地へ旅立ち、『街づくり』が本格的に開始されることになる。そのため、今日中に諸々の準備を終わらせなければいけない。
「ギルドで職業診断してもらうんだろ? 早く支度しろー」
「ごめん、急ぐよ」
どんよりとした頭痛のある頭をなんとか起こして、濡れた布で顔、身体を拭く。そして簡素な服に袖を通してから、買ったばかりの自分用装備を身に着ける。軽くて動きやすい革の鎧と、腰にはロングソードを下げる。
街の中は安全なので基本必要ないのだが、『LOQ』では装備品なども長く使えば使うほど力が発揮される隠し要素があったので、できる限り身につけておきたいのだ。
「よし、行こうか」
「げ、レオンいつにも増して顔色悪いけど、大丈夫?」
「あ、ああ」
いい歳したおっさんのくせに二日酔いで気持ち悪いだなんて、十代の女の子の前ではさすがに言えない。途中、薬屋で薬草を買おう……。
外に出ると、今日も快晴。街も相変わらず賑わっている。
「はぁー、天気が良くて気持ちイイな!」
隣を歩くルルリラは、今日も身軽さとセクシーさを両立したへそ出し盗賊ルックだ。若さ溢れる眩しい雰囲気に、街行く人が振り返るほど。
長い亜麻色の髪を丁寧に編み込んだ髪型も似合っていて、自分が若ければ夢中になってしまっていただろうなぁ、などとぼんやり思った。
「な、なんだよ、ジロジロ見て」
「あーごめん。いや、今日もルルリラは魅力的だなと思っただけさ」
そうそう、歳をとって恥も外聞もなくなると、案外こういう台詞をさらっと言えるようになったりする。
まあ悲しいかな、おっさんじゃ見向きもされないだろうというあきらめから出るものなので、良いのか悪いのかはわからないのだけれど。
「そ、そういうのさらっと言うんじゃねぇよ! ……耐性、ねぇんだからさ……」
「?」
やけに照れた様子のルルリラがもごもごしていたが、きっと朝早いのであくびを噛み殺していただけだろう。
◇◇◇
会話をしながら歩いていると、あっという間にギルドに到着。
シュプレナードのギルドは建物も大きく、様々な機能を持った施設として君臨していた。
中に入ると、活気と熱気が漂ってくる。一番の賑わいを見せているのは、冒険者たちが集まる『依頼所』だ。
『LOQ』の世界では、魔物を狩って生計を立て、かつ定住しない者を総称して冒険者と呼んでいた。そんな彼らが仕事を求めてやってくるのが、依頼所というわけ。
俺とルルリラは比較的空いている窓口、『職業案内所』というところの列に並んだ。ここでは自分の持っている職業素養の確認、新職業への転職などができる。
今並んでいるのは二、三名み。それほど待たずに対応してもらえそうだった。
「はい、次の方どうぞ」
「よろしくお願いします」
予想通り、すぐに順番が来た。俺は少し緊張しながら、受付の美人なお嬢さんの指示に従う。
「これに、手をかざしてください」
「わかりました」
カウンターの向こうから差し出された、大きめの水晶玉に手をかざす。
これを通して、人それぞれの現在の職業、転職できる職業がわかるのだ。
「レオン・アダムスさん……えっと、今現在は……あ、『放蕩者』ですね」
「なんかすいません……」
「あ、謝らなくて大丈夫ですよ、ハハハ……」
あらためて言われるといたたまれない。
途端に周囲の視線が気になりだし、俺は身を縮める。
「では、他に職業適性をお調べしますね。少々お待ちください」
少し待つと、すぐに受付のお嬢さんが一枚の羊皮紙を持ってきてくれた。
「そこに記載されているのが、今現在『レオン・アダムス』さんが職業素養を持つ職業になりますね」
言われ、渡された紙を見る。
どれどれ――
・散歩好き
:歩くだけで大幅に精神力が向上する傾向
・戦士
:盾の扱いが上手くなり、体力、筋力が上がりやすくなる傾向
・猟師
:動物や魔物への興味、知識が深まり、素材採取が上手く、早くなる
・学徒
:知力が大きく上がりやすくなる傾向。様々な知的職業への出発点となる
・測量士
:地図を頭の中に記憶でき、空間把握能力が向上する。知力と精神力が上がりやすくなる傾向
・ゴロツキ
:筋力、体力は上がりやすく、知力、精神力はほとんど上がらない傾向
・給仕人
:体力、精神力が上がりやすくなる傾向。様々な生活職の出発点となる
・食通
:美味しい食事をすることでステータスが満遍なくアップする傾向
「レオン・アダムスさんの適性は、生活職が多い傾向ですね」
紙を見てうなっていた俺に、お嬢さんが補足をしてくれる。
生活職、というのは一般的な生活の中で熟練度が上がりやすい職業全般を指す。
この他にも、戦闘で力を発揮する戦闘職や、それを補助するタイプの補助職など、それぞれの職業の特性によってカテゴリー分けがされている。
「この中から、どれかの職業に就きますか? 放蕩者の他に、サブ職業を二種類、選択することがきます。現在の職(放蕩者)を辞めて、メイン職業を変更することもできますよ」
丁寧に説明してくれるお嬢さんの笑顔に癒されながら、考える。
受付カウンターで若干恥ずかしい思いをしたとは言え、ステータスの減少がほぼない放蕩者はやめない。サブ職業の二つを考えよう。
んー、戦闘力なら間違いなく『戦士』だろう。この中で唯一の戦闘職だし。
しかしこれから『街づくり』をすると考えると、『学徒』や『測量士』の知識系統の職もスキル的な相性は良さそう。
魔物の素材などを街の発展に活かすと考えれば、素材活用のレシピなどもスキルとして獲得できる『猟師』も捨てがたい。
大穴狙いで『ゴロツキ』か?
確か攻撃しながらアイテムを盗める『
『LOQ』には隠しステータスで『善』と『悪』というパラメーターがあり、アウトローな職業ばかりをやっていると、一部のキャラをスカウトできなくなったり、街で買い物ができなくなるといったデメリットが発生する。
……んー、あとはやっぱり『食通』、悩む。
美味しいものを食べてステータス上がるとか、最高でしかないよな。
よし、今回は今後の生活と相性がいいであろう職業を選ぶとするか。
「じゃあ、『猟師』と『食通』で」
「わかりました。では『スキルメモ』もお渡ししておきますね」
「ありがとうございます」
言って受付嬢は、小さなメモのようなものをくれる。
これがゲーム内でも、スキルを覚えていくきっかけとなるアイテムだった。
要するにこれを手に入れることで『スキル習得』が解放されるというわけだ。
今後は職業に応じたスキルも覚えられるようになるので、さらに能力を強化できるぞ。
「おーい、レオン。どうだった? なんかいい職業あったか?」
「ああ。思ってたより獲得してた素養が多くて迷ったよ」
同じくカウンターで対応してもらっていたルルリラが、諸々の手続きを終えて声をかけてきた。
「ルルリラはどうだった? 『盗賊』から転職した?」
「はん、ウチが盗賊をやめるわけないだろっ!」
そう言って胸を張り、そこをどん、と自分で叩くルルリラ。この仕草が、どうやら彼女のクセらしい。
まあ、現段階では無理に盗賊をやめる必要はないか。
ルルリラはおそらく精神力が高いし、素早さもあるから筋力値もそこそこある。なにより将来性だが、今でも十分戦力として計算できる。
ゆくゆくはその精神力を活かして、防衛隊のリーダーになってもらう予定だ。
「期待してるぞ」
「はん、任せておけってば!」
いよいよ明日は、エビデ村へと旅立つ日だ。
否応なく胸が、高鳴っていた。
:【体力】が下降しました
:【魔力】が下降しました
:【筋力】が下降しました
:【知力】が下降しました
:【精神力】が下降しました
:【運】が下降しました
:【放蕩者】の職業熟練度が大幅に上昇しました
:【猟師】になりました
:【食通】になりました
:【スキル習得】が解放されました
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