#9 街づくり、始動……?

「ここがエビデ村……だった場所か」


 辺りを見渡して、つぶやく。

 先ほどシュプレナードを出て、今俺は旧エビデ村跡地にいる。

 周囲には腐った木々が倒れ、荒廃し、苔むした家屋がいくつかたたずんでいるだけだった。


 この景色を見ると、レオンとしての痛ましい記憶が蘇り、若干胸が痛む。


「ちょ、ウチこの移動石のぐわんぐわんする感じ、苦手だわ……」

「確かに慣れるまではちょっときついかもな」


 一緒にシュプレナードからやってきたルルリラが、口元を抑えながら言う。

 俺たちはシュプレナードでの準備を済ませたあと、王様から賜った『移動石』なるアイテムで、一気にここへやって来た。

 後から陸路で、手伝ってくれる常備軍や、募集した労働者の人たちがやってくる予定だ。


 ちなみにこの移動石というアイテムは、使用者のMPを使って、記憶にある景色や場所へと瞬時に運んでくれる超便利な代物だ。俺はすでに『LOQ』をプレイしてあらゆる場所へと行っているので、どこでも行き放題。ただ、まだMPが低いだろうし、いきなり国境を超えてしまった場合の混乱などを考えると、乱用は厳禁だ。


 この移動石、一国に二つあるかないか、というレベルのレアアイテムなので、どれだけ今回の計画が重要かわかる。あと、王様の期待値も。


「あの、レオンさん。私まで同行させていただいて、よかったのでしょうか?」

「ああ、いいんだ。むしろキミが一番重要だ」


 実はもう一人、村の開発・発展に貢献してくれるだろう人に同行してもらった。

 そう、アリアナだ。


「お、恐れ多いです。シュプレナード王の勅令である計画に、私のような薬学士見習いの人間が選ばれるなんて……」


 自分の実力を自覚していないアリアナは、そんな風に言ってかぶりを振る。が、俺はここの発展、そして防備は、本当に彼女にかかっていると考えている。


 それは、なぜか。


 彼女はまず、植物などに詳しいし探求心も強い。

 これは後から聞いた話だが、俺と出会った日、彼女はアンシ村周辺の森を調査していたが、あんなに奥に入る予定はなかった。

 それなのに、目につく草木を調べることに夢中になってしまい、気が付けば見慣れぬ森の奥、そこでヴィレッジウルフに襲われてしまったらしい。


 そんな知的好奇心と真面目さを持っている彼女は、『街づくり』における最重要ポイントの『畑』を、誰よりも発展させる能力を持っているのだ。


『LOQ』では畑が発展すると、最強キャラ育成に必須とされている【ビーンズ】というアイテムが採れるようになる。

 このアイテムは、それぞれ【パワービーンズ(筋力)】や【メンタルビーンズ(精神力)】と、ステータス値に紐づいた物がとれるのだが、これを使用することで各ステータスが飛躍的に上昇しやすくなるのだ。


 ゆえに、アリアナには畑関連のことを全てお任せして、急速に発展させてもらおうと思っている。

 そして色んな種類のビーンズをガンガン量産してもらい強キャラを育て、ここを魔族を跳ねのける最強の拠点とする計画だ。


「王様から、ここでのことは俺に任されている。アリアナには畑づくりを一任したいんだ。キミなら絶対、最高の畑を作れると思ってる」

「……レオンさんが、そこまで信じてくれるなら、私、頑張ってみます」

「ありがとう」


 はぁ、前向きに取り組んでもらえそうでよかった。

 こういった交渉や強力なキャラをスカウトする場合、精神力のステータスが重要になるので、しっかり上げておかなくっちゃな。


 確か精神力は、自分のやりたいことをしたり、人を助けたりすると上がるんだったな。要は自分に正直に、人に優しく、ってことだな。


「んじゃ、まずはじっくり片付けからやっていこう」

「うげ、雑用からかよー!? ウチのことは、そういうのが終わってから呼べよなー」

「絶対そう言うだろうと思ったから、連れてきたんだ」

「『移動石』貸せってば! 帰る!」

「ダメだ。これは王様が俺に預けてくれたものだ。そう簡単には使わせない」


 疲れることはしたくないと言い、駄々をこねはじめるルルリラ。彼女にも当事者としてこの村に愛着を持ってほしいと思い、先に連れてきたんだけどな。


 まったく、人がやりたがらない地味な仕事や雑事をする人がいるから、華やかな仕事だって成立してるんだぞ。

 あぁ、目立ちたがり屋で派手な仕事ばっかりしたがる同期に雑用を押し付けられたときのことを思い出してしまうな……。


「……ん?」


 と。

 俺が前世の嫌な記憶を思い出したとき、視界の隅でなにかがうごめいた気がした。

 背筋をゾっと、悪寒が走る。


 シュルルルルルルッ


 木々が擦れ合わさるような不気味な音のあと。


 突然。


「きゃああああ!」

「アリアナ!」


 突如としてアリアナが宙づりになり、一気に顔の高さ以上の位置にまで引き上げられてしまう。

 見ると、その足には、黒く太いツタが絡みついていた。


「な、なんだよアレ? 腐った樹じゃなかったのかよ!?」 

「『イービルトレント』だ。動きは遅いがタフで毒の息を吐く。気を付けろ!」

「ウ、ウチも戦えってのかよ!?」

「大丈夫! 俺が注意を引き付けるから、盗賊らしく素早さを活かして、ヒット&アウェイで攻撃してくれ!」

「わ、わかった! やってやるよ!」


 俺はロングソードを構え、トレントの正面に立つ。

 横倒しの状態から、のっそりと起き上がった樹の腹には、不気味な目と口がうごめいていた。


「グオオオオ……」

「不気味な声で鳴く樹だ」


 こちらを威圧するように、イービルトレントが低くうめく。

 気を引き締めてかからねば。


 イービルトレントからとれる素材を利用した木材は、丈夫な上にしなやかで、加工することで黒く光沢が出て、大変高値で取引される。


 よし、こいつの素材で、村第一号の小屋を建ててやる!



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【猟師のパッシブスキル『獲得素材増加』】を習得しました


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