#10 対イービルトレント

「グオオオオ!」

「ルルリラ、いったん距離を取ろう」

「ら、らじゃ!」


 身を震わせはじめたイービルトレントから、俺とルルリラは離れる。

 トレントのこの動きは、様々な状態異常を発生させる『毒の霧』攻撃の事前動作だ。


 霧を吸い込むと、毒状態だけでなく麻痺や眠りもランダムで発生したりするので、かなり厄介な攻撃だ。

 だが、ここは現実で、コマンド入力だけで戦うターン制バトルではない。霧が届かない範囲にまで動けば、確実にかわすことができる。


「横に回り込むぞ」

「おっけ!」


 ルルリラと連携し、毒の霧が吐かれる正面を避け、樹の両側へと回り込む。

 うめきながらトレントの腹から毒霧が放出されるが、誰にも届くことはない。


 疾駆する俺とルルリラが、ほぼ同時に跳び、樹の胴体と言える幹へと攻撃を叩き込む。

 さらに俺は幹を蹴り上げ高く飛び、アリアナを拘束しているツタを切り落とす。


「きゃっ」

「アリアナ、大丈夫か?」

「は、はい」


 そのまま空中でアリアナを受け止め、着地。

 もう一度距離を取り、アリアナを安全な場所へと降ろす。


「わ、私も戦います」

「危険だ。無理はしなくていい」

「レオンさんに助けてもらってばかりは、嫌なんです。相手が植物系の魔物なら、きっと私もお役に立てるはずです!」


 アリアナは先ほどまでの恐怖を振り払うように顔を叩き、背筋を伸ばして言った。

 パーティーキャラである彼女の精神力も、やはりかなりのもののようだ。


「私、これでも一応戦闘系の『魔法』を使えるんですから!」


 アリアナの言葉のおかげで、俺も『LOQ』における魔法の存在を思い出す。

『LOQ』では、魔法はほぼすべての人が使用できる。しかしそれはあくまでも『生活魔法』と呼称されている、生活の中で使う魔法だ。


 例をあげるなら、身体の一部を殺菌して清潔に保つなど、その程度だ。しかもこれを一回使用するだけで一般人は大きく疲弊するため、ほとんど使わなくなる。結局、石鹸の方が便利だとまで言われている。


 ただ、ごくまれに生活魔法を連発できる才能を持っていたり、特訓したりして、その利便性を人々に提供することで生計を立てている『魔法売り』と呼ばれる人も存在する。だが、独学で魔法を鍛え上げるのはかなりの才覚が必要とされる。


 なので、魔法を自在に習得し操り、能力を向上させて何度も使用できるのは、ある意味パーティーキャラの特権と言えた。


「よし、なら遠距離からダメージを与えてくれ」

「わかりました!」


 アリアナとうなずき合ってから、俺は再び駆け出す。

 イービルトレントはヒット&アウェイを繰り返すルルリラへ気を取られ、こちらへ無防備に横っ腹を晒していた。


「くらえ!」

「グオオオッ」


 俺は走りながら剣を大きく振りかぶり、切り裂く。トレントはこちらへ先の尖った枝を伸ばしてくるが、それらも剣で叩き落とす。同時に逆側ではルルリラが、ダガーで葉を落としていた。


 左右から攻撃を仕掛けられたイービルトレントは、本体をどちらに向ければいいのかわからないのか、枝や蔦を伸ばすダメージの低い攻撃しか繰り出せない。


「今だ、アリアナ!」

「はい!」


 声に反応し、アリアナが分厚い魔導書を取り出し、集中をはじめる。


「我が身に宿る精霊よ、その御身を司る風を巻き起こし、刃となりて敵を討ち果たせ――『ウインドソード』!」


 詠唱のあと、イービルトレントの元へ、“切り裂くような突風”が吹く。


「グオオオオオオ!」


 木肌を切り刻まれ、イービルトレントは断末魔を上げて倒れ伏した。辺りに大きな音が響いた。『土属性』である植物系の魔物には、アリアナの『風属性』の魔法は大ダメージとなる。


「倒した!」


 俺とルルリラの攻撃で注意を惹き、アリアナの魔法で息の根を止めた。

 我ながら、即席にしては見事な連係プレイだったと思う。


「やったな、二人とも!」

「いぇーい! さすがウチらだぜ!」

「ド、ドキドキしましたぁ」


 三人で集まって、思わずハイタッチする。

 あぁ、テンションが上がっているとは言え、俺みたいなおっさんとハイタッチしてくれるなんて、アリアナとルルリラは優しいなぁ。


「二人とも、いい動きするじゃないか!」

「当ったり前だろ、ウチなんだからっ! まっ、レオンとアナっちもよくやったじゃん? ウチには及ばないけどさ!」

「レオンさんとルルリラさんが、上手く引き付けてくれたおかげです」


 全員でお互いの健闘を称え合い、団結力が深まった気がした。


 戦闘のあとは、イービルトレントの素材を集める。

 幹の部分にできていた不気味な顔が無くなり、少し黒光りする大きく太い木が残る。ところどころが火にいぶされたような渋い質感になっており、アンティーク家具のような風合いがある。


 これがかなり高級な材木とされ、高値で取引される物だ。

 元々がタフなイービルトレントの身体であるため、非常に丈夫でかつ柔軟性もある。


 よし、これを使って立派な家を建てるとするか!



:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【木こり】の職業素養を獲得しました

:【魔導士】の職業素養を獲得しました

:【猟師】の職業熟練度が上昇しました

:【一般パッシブスキル『戦況分析』】を獲得しました

:【一般パッシブスキル『モチベーター』】を獲得しました


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