街づくり編 序章

#6 ルルリラとゴロツキ

 王様との対面を果たした、翌日。

 俺は宿泊した宿屋で日課を済ませてから、大都会シュプレナードの目抜き通りを歩いていた。日本とは全然雰囲気が違う西洋建築が並んだ景色は、とにかく新鮮で飽きない。

 天気も良く、最高の散歩日和だ。街のあちこちから、人々の活気が感じられる。


『再びシュプレナードのために、働いてはくれぬか?』


 昨日の王様の、真剣な表情を思い出す。

 その真意は、こうだ。


 まずシュプレナード王国は、人間の国の中では一番大きな国土を誇る大国だが、いくつかの海域を挟んで魔領域と接している国でもあるため、沿岸部の防備が欠かせない。


 今現在、魔族の頂点である魔王に君臨している者は、これまでにないほど凶悪で強力な存在。

 ゆえにこれまで以上に、沿岸における軍備を厳重なものにしなければならないのだと言う。


『そこで、だ。旧エビデ村跡地に、新たな城塞都市を建設しようと考えているのだが、その土地での陣頭指揮をレオン、お前に頼みたい。余の右腕として騎士団長まで務めたお前ならば、街を豊かにし、それに裏付けされた強固な防衛線を構築できると信じている』


 レオンとしては旧知の仲とはいえ、国で一番偉い人にそこまで言われてしまうと、凡人な俺は二つ返事でうなずいてしまう。

 それに、もう二度とエビデ村のような悲劇は見たくないしな。


『わかりました。俺でよければ、やらせてもらいます』


 返事をしながら、これがおそらく『街づくり』プレイのきっかけとなるイベントなんだろうな、と頭の隅で考えていた。


 初期の『LOQ』では、旅の途中に出会う色んな職業の人をスカウトし、自分が拠点に選んだ街へ行ってもらい、時間が経過すると自動的に発展して、貴重なアイテムが買えたり、無料で宿屋が利用できたりと、やり方次第で色んな恩恵があった。


 リメイク版ではこれにさらに、防壁の建設や、街人を特訓してパーティーの一員にできる機能まで備わっていた。街人はプレイヤーが出した指示次第で成長の仕方が変わり、主人公ら主要メンバーを凌ぐ強さになる場合もあった。


 まあ、この無限に遊べてしまう育成システムのせいで、さらにレオンは日の目を見なくなったんだけどね……。


『いつか必ずお前が、自分の意思で堕落から脱し、こうしてシュプレナードへ帰還してくれると信じていた。今のお前の眼は、騎士団長を務めていたときのように生気に満ちている。余は今、本当に嬉しい』


 王様は俺と熱い抱擁を交わしながら、そう言ってくれた。

 ただ俺としては、若干いたたまれなかった。だってシュプレナードに来たのは、大好きな本、風呂、美味いメシと酒に釣られただけだし……生まれ変わっても思考が放蕩者なままで本当にごめんなさい。


 でもまあ、ある意味では生き延びようって必死なわけだから、いいか。


「なーに一人で黄昏たそがれちゃってんのさ、おっさん。キモいよ」


 と、そこで隣を歩くが声をかけてきた。

 昨日、屯所の牢にいた義賊の彼女である。


 彼女を見て、街に呼べるスカウトキャラなのでは?とピンときていた俺は、エビデ村の発展に協力してくれる人材として、彼女の解放を王様に直談判したのだった。


「いや、なんでもない。それより、キミの名前を教えてくれないか?」

「ありゃ、言ってなかったっけ? ウチはルルリラ・ホワイトストーン。ルルリラと呼んでくれよな、おっさん!」

「わかった。あと俺はおっさんだが、レオン・アダムスという名前があるぞ」

「じゃあおっさんでいいじゃん。よろしくな、おっさん!」


 ルルリラはわざとらしく、俺をおっさんと呼ぶ。

 まあ実際おっさんだし、俺自身はそこまで気にしないが、そのままにしてしまうのは彼女のためによくない気がした。


「じゃあルルリラ、俺を少しでも認めてくれたら、名前で呼んでくれ」

「はぁ? 天下の大盗賊ルルリア・ホワイトストーン様が、アンタみたいな冴えないおっさん、認めるわけねーだろ!」

「お、おいおい。そういうことはあんまり街の真ん中で言わない方がいいぞ」


 叫んだ彼女――あらためルルリラは、自信満々に胸を張り、自分でどん、と叩いた。抜群のプロポーションを誇る彼女の胸に、街を行き交う人の視線が集まる。


 ……この世界がもしリメイク版の『LOQ』に近いとすれば、俺は『街づくり』プレイをあまり深くやり込めなかったため、大きく育つスカウトキャラはあまり知らない。


 でも、ルルリラの華やかさを見れば、誰でもわかる。

 彼女はきっと、大きく成長するキャラクターだと。


「わっと。危ないじゃんかよ、気をつけろぃ!」

「す、すいません」


 そこでルルリラが、街の歩行者とすれ違い様、ぶつかりそうになる。

 人が多い街ではよくあることだが、俺はルルリラのを見逃さない。

 

「こら、ルルリラ。ダメだろ」

「っ! うっそ……バレたの、はじめてなんだけど」


 ルルリラは先ほどすれ違った瞬間、財布をのだ。


「ほら、俺が返してくるから。渡しなさい」

「ぶぅー、ウチが生きるための手段だぞー」


 不貞腐れているルルリラから財布を奪い、慌てて街人を追いかける。


「これ、落としましたよ」

「え、はい? うわぁ、ありがとうございます!」


 すぐに追いつき、財布を返却。ルルリラのためにも、余計なことは言わないでおこう。

 そして回れ右、すぐさまルルリラの元へ戻ると。


「わっと。危ないじゃんかよ、気をつけろぃ!」

「……あぁん? なんだテメェ?」


 性懲りもなく、ルルリラがガラの悪そうな男二人とぶつかっていた。

 ……いや、今のはどっちかと言えばぶつかられていた感じだな。


 あぁ……だからやめろって言ったのに。


「おう、兄貴。こいつよく見りゃ上玉じゃねーですかい?」

「は、離せよっ!」


 ルルリラの腕を掴み、乱暴に拘束する大柄な男。

 もう一人が顔を近づけ、品定めするかのようにルルリラを見る。


「……ほう、肉付きもいいし、楽しめそうじゃねーか。おい姉ちゃん、オレたちに絡んだバツだ。来な」

「は、離せったら!」


 ルルリラの腕を締め上げ、そのまま無理矢理連行しようとする男たち。

 さすがにこれは見過ごせない。


 俺は人混みを割って、男たちの前に出る。


「頼む、彼女は俺の協力者なんだ。その辺で勘弁してくれ」


 言い、すっと頭を下げる。

 前世の会社では、出世欲の強い同期の代わりによく頭を下げさせられたっけ。でもまあ、おかげで無用な争いを起こさずにいられる。


「おいおい、なんだぁこのおっさん? 混ぜてほしいのかぁ?」

「返してほしけりゃよぉ、それ相応のもん出せよ!」

「いや、難癖をつけてきたのはそっちだ。金とかは払えない」

「あぁ? 態度でかいんじゃねぇかテメェ!?」

「ぐっ」


 大柄な男二人は、引き下がらず俺を殴りつけてきた。

 痛たた。


「お、おっさん、殺されるよ、逃げなって!」

「女は黙ってろ!」

「あぐっ」


 拘束されながらも俺を心配してくれたルルリラを、男が殴った。

 ……これはもう、我慢できんな。


「別に俺を殴るのはいいが……彼女を殴るのは、違うんじゃないか?」

「なんだぁ? イキがってんじゃねぇぞコラァァ!」

「はぁ……イキがってるのは、どっちだ」


 俺の胸倉を掴もうと伸ばした男の手を掴み、ぐっと力を込める。途端、男が「ぐあぁ!?」と悲鳴を上げる。


 あ、まずい。結構本気でやってしまった。

 自分では筋力がどの程度かわからないので、もしかしたら折ってしまったかもしれない。


「い、痛てぇ!」

「だ、大丈夫ですかい、兄貴っ!?」


 大きな身体を縮こまらせて、リリルラを拘束していた男はうずくまった。その隙をついてルルリラは、俺の背後に身を隠す。


「ク、クソが! きょ、今日のところはこれで勘弁してやる!

「お、覚えていやがれよ!」

「はぁ。それ、典型的な小物悪役のセリフだぞ」


 叫びながら、男二人は人混みへ消えていった。

 ガタイの割にはあっけない。


 ふぅ、とりあえずよかった。


「お、おっさん、その……」

「いやとにかく無事でよかった。これに懲りて、盗みはやめるんだぞ」

「か、考えといてやるよ!」

「ああ、頼むよ」


 義賊とは言え恐怖心があったのか、ルルリラは少し震えているようだった。

 俺もレオンとして積み重ねた幾多の戦闘の記憶がなければ、もっとビビっていたかもなぁ。


「そ、それより! おっさん、もう一回名前、教えろよ!」

「え? あぁ、レオンだ。レオン・アダムスだ」


 俺は切れた口元を拭いながら、適当に反応する。


「……レオン! ウチはアンタに借りができた。しょーがねーから、力貸してやるよ!」

「……ああ、ありがとう」


 名前を呼んでくれたルルリアは、少し顔が赤かった。


「必要なものがあれば、なんでもウチに言いな! どこからでも盗ってきてやるからさ!」

「だから、盗みはやめなさいって」


 そうして、俺とルルリラの距離が。

 少しだけ、縮まった気がした。



:【体力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【ゴロツキ】の職業素養を獲得しました



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