#5 シュプレナード王、現る
「レオン・アダムスが戻ってきたぞ! 早く王にお伝えしろ!!」
大都市シュプレナードへの入り口である大門で、俺は門兵の一人に呼び止められ、そのまま巨大なシュプレナード城へと連行されてしまった。
どうやら門兵たちには、俺の人相書きが配布されていたらしかった。そりゃなんの変装もなく並んでたら、バレてしまうよな。
そう、俺はすっかり忘れていたのだ。
レオンはシュプレナード王から直々に、辺境へと追放されたということを。
「はぁ……」
いやー、しくじった。
異世界の大きな街、見たこともないような荘厳な大図書館で久々の読書、締めには大浴場で汗を流し、美味いメシと酒を楽しんで身も心も完璧に整う――そんな至福の時間を想像し、すっかりレオンの事情を忘却の彼方へ追いやってしまっていた。
アリアナが状況を飲み込めずアタフタしていたけど、大丈夫だろうか。無事に自宅に到着しているといいが。彼女には申し訳ないことをしてしまった。
「それにしてもこの状況、どうしたものか」
俺は今、城に入ってすぐの屯所で待機させられている。しかも妙な警戒をされているようで、重りのついた腕輪をつけられてしまった。
監視役だった門兵の男は、忙しない様子で人を呼びに行った。
「ふわぁーあ……そこのおっさん。暇ならさぁ、ウチのことこっから出してくんない?」
「ん?」
どこからか、声がする。周囲を見渡してみるが、誰もいない。
「こっちだよ、こっち。奥。牢屋ん中。そこのテーブルに鍵があるからさ、ちゃちゃっとここ、開けちゃってよ」
屯所の奥、暗がりのところに牢があった。
その中から、妙に真っ直ぐで透き通った目をした女性がこちらを見ていた。どうやら彼女が声をかけてきたらしい。
「……すまない。個人的にはキミが悪い人には見えないけど、捕まっているってことはなにか罪を犯したということだろうから、俺が独断でキミを開放するわけにはいかないよ」
「はん、真面目かよ。つまんねーおっさん」
げ、初対面なのにひどい言われよう。
「おっさんはさ、なんで捕まったの? その凶悪な人相を見るに、殺しでもやったの?」
「やってない。というか捕まってない。ただ待機させられているだけ」
「はぁ? そんなデカい手枷つけられてるくせに、んなわけあるかって」
捕まって暇なのか、やけに話しかけてくる女性。
俺もまあ暇だからいいけど。
「アンタに比べたらウチなんて、見逃しちゃってもいいと思うんだけどなぁ」
「キミは、どうして捕まってるんだい?」
「ふん、ウチは欲にまみれてブクブクと肥えるだけのバカ貴族から、金銀財宝を巻き上げて庶民に配って歩いただけだっつーの」
「義賊ってやつか」
確かに、言われてみると女性の服装はゲームの盗賊っぽい感じだった。
義賊か……。罪を犯してでも庶民のために行動するなんて、生半可な覚悟じゃできないことだ。
彼女はまだ若いだろうに、揺るがない強い意志を持っているんだろうな。
犯した罪は別として、そういう心の強さは見習いたいと思った。
ガチャ
と、そこで屯所の扉が開けられた。
見ると、一目で身なりが良いと分かる大柄な男性が立っていた。貴族だろうか?
彼の背後には、先程の門兵や装飾が施された鎧を着た者たちがおり、身辺警護がかなり厳重だった。
「お前は……本当に、レオンなのか? 前より少し、やつれたな」
もしかして、この人は――
俺は頭の中にあるレオンの記憶を思い起こし、相手の名前を呼んだ。
「まさか、あなたは……シュプレナード王?」
「久しいな。七年ぶりか?」
なんと屯所にやってきたのは、ここを統治するシュプレナード王だった。
まさか、王様が直接会いに来るなんて思ってもみなかった。
前世では会社の社長ぐらいしか、偉い人というのに会ったことはなかったけど、一国の王様ともなると、たたずまいだけで威圧感がある。
レオンと現シュプレナード王は十代中盤頃からここ王城で暮らし、お互いに剣の腕を競い合い、切磋琢磨した間柄だった。
元々は、主君と騎士という主従関係では計れない強い信頼で結ばれており、その関係は長く続いた。
しかしエビデ村が滅ぼされ、レオンはメンタルを崩してしまった。そんなレオンに王は何度も救いの手を差し伸べてくれたが、レオンは応えることができず、周囲に悪影響を及ぼす自堕落な人間になってしまった。
そうして泣く泣く、王はレオンを追放したのだった。
「レオンよ、お前にどうしても伝えねばならぬことがある……」
え、なんだろう、この張り詰めた空気……?
ま、まさか王直々に処刑される?
それはまずい!
せっかく
「再びシュプレナードのために、働いてはくれぬか?」
「……え?」
が、王様から言われたのは。
思っていたのとは、まったく逆の言葉だった。
:【精神力】が上昇しました
:【運】が上昇しました
:【盗賊】の職業素養を獲得しました
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