#4 生存へ、方針を決める

「さて、はじめるか」


 翌日の昼前、俺は酒場にいた。

 今日は死亡エンド回避に向けて、いよいよ具体的な作戦立案をするぞ。

 朝の日課であるストレッチ、筋トレ三種目、軽い散歩を終え、体調はすこぶるいい。


『LOQ』の世界は王道の中世ヨーロッパを意識した世界観のため、ここ酒場は宿屋、ギルドなどが併設された、日中でも活気ある場所だ。


 さすがに昼からは飲まない。『放蕩者』なのに偉いぞ、俺。

 ……正直ちょっと飲みたいけど。


「よっと」


 ヴィレッジウルフの素材を売ったお金で買った地図を、机に広げる。

 頭の中に『LOQ』のマップはある程度なら入っているが、細部まで完璧には記憶できていないため購入。昨日みたいに迷うこともあるし。


 ここ、アンシ村はいくつかの大陸からなる人間の世界の、東の果て。

 そして『LOQ』の主人公が、選ばれし者として旅立つのが、西の果ての小さな村。


 うん、地図で見てもこの距離だ、合流するまでにはまだ時間があるよな。


「まずは『レオン・アダムスが死亡エンドを迎える条件』を洗い出してみるか」


 俺は思考を口に出しながら、地図を眺めていく。

 結果を変えたい場合は、結果の方から逆算して打ち手を考えるのが確実だろう。


 俺ことレオン・アダムスは、ラスボス戦のあと、魔族を滅ぼすために最凶の魔法を使用し、死亡する。

 これはラストバトルの後に発生するエンディングの一部のようなイベントなので、たぶんステータスを上げるだけでは回避できない。


 そもそもの運命シナリオを、俺が魔法を使用しない流れに持っていかなければならないということ。


「ただ、この最凶最悪な魔法はもう、俺(レオン)の中に存在してしまっているんだよな……」


 そう、実はすでに俺の中にその魔法は

 魔法の名は『シャングリラ・ディストラクション』。これは、シュプレナード王国騎士団長に、代々受け継がれる自爆魔法なのだった。


 大陸の半分を飲み込むと言われる凶悪な威力の魔法で、MPではなく生命力そのものを使い大爆発を起こす魔法である。

 最前線で戦い、もし自らが敗北し本国が蹂躙されるかもしれないとき、騎士団長として敵を道連れにせよ、という極端な騎士道精神から生まれた魔法らしい。設定資料に書いてあった。


「ということは、例えば魔法を使えない身体になるとか? いや、たぶんそういうのとは関係なさそうだしな」


 MPを使用しない魔法だ、きっと魔法を使えない身体になるケガや呪いにかかったところで、問答無用で使えそう。あと単純に大ケガとか呪いとか、怖いしな……。


「魔族のいる大陸には近づかないとか? ……いや、無理か。すでにアンシ村が海峡を挟んで魔領域に近いし、魔族の侵攻を許せばそれ自体が危険だ」


 テーブルの地図には、魔族の領土である『魔領域』は載っていない。

 だが、そこは前世でのゲーム知識が役立つ。


「……だったら、先に魔王を倒しちゃうのはどうだろうか?」


『シャングリラ・ディストラクション』を使用するのは、致命傷を受けたにもかかわらず引き下がらない魔王と、彼に率いられた魔族と魔物の大軍勢たちに対してだ。

 それならば、魔王や魔族たちを先んじて討伐してしまえば、レオンがわざわざ命懸けの自爆なんて、しなくてよくなるのでは?


「うん、やっぱりこれが一番シンプルでわかりやすいよな」


 色々と死亡エンド回避のために考えていたけれど、やっぱりこれが一番いい方法な気がする。

 バトルだったらゲーム知識で無双できるしな。ガンガンステータスを上げまくればいいってのも、シンプルだし。

 よし、とりあえず大まかな方向性が決まったぞ。


 今はマイペースな感じでひとまずオッケー!


「あ、おはようございます、レオンさん」

「アリアナ。おはよう」


 地図をしまっていると、アリアナが階段を降りてきた。酒場の二階は宿屋になっており、彼女は昨晩ここに宿泊した。

 まだ毒の影響で体調も万全ではなかっただろうし、夜道は魔物の行動が活発化するので、一泊することを勧めたのだ。


「レオンさん、改めて昨日は本当にありがとうございました。助けていただいたうえに、晩御飯までご馳走になってしまって」

「いやいや、いいんだよ。なにより無事でよかった。それに晩御飯はヴィレッジウルフの素材のお金だし、気にすることはない」

「それでも私の気がすみません。なにか私にできることはありませんか?」

「本当、気にしないでいいって」

「でも……」


 断っても断っても、お礼をしたいと何度も頭を下げてくるアリアナ。

 ゲームでは引っ込み思案で無口な子だったけど、こうして話しているとちょっと雰囲気が違うな。


 これもやはり、俺の行動が運命シナリオに影響を与えているからだろうか?


「それよりも今日、シュプレナードに帰るんだろう? 俺で良ければ、護衛も兼ねてお供するよ」

「ええっ、そんなっ! そんなことまでしていただいちゃったら、私本気でアンシ村の方角に足を向けて寝られないです……!」


 あたふたしながら首をふるアリアナ。相変わらず可憐な仕草である。


「俺も、ちょうどシュプレナードに行きたいと思っていたんだ。久しぶりの大都会で、思いっきり羽を伸ばそうと思ってね」


 シュプレナードには、アンシ村にはない魔法具店や大図書館、大規模ギルドがある。そして屋台と大浴場!

 死亡エンド回避への対応策は、ざっくりとだが決まったわけだし、慌てず騒がず、まずは異世界ライフを満喫しようってことでね。


 ……あれ、なんか典型的な『放蕩者』の思考な気がする。


「わかりました。そういうことであればご一緒させていただきます。……私もレオンさんと一緒なら、安心だし嬉しいです」


 そうして、午後はアリアナと共に大都市シュプレナードへ向けて移動した。


◇◇◇


「はぁー、ようやく見えてきましたね」

「だね。それにしても壮観だ」


 乗り合い馬車と徒歩で、約半日をかけて、シュプレナードに到着した。

 遠目からでも大きな城壁が見えていたが、近付いてみるとものすごい迫力だった。


 陽が完全に落ちる前に到着できてよかった。


「街に入るための列ができていますね。並びましょうか」

「ああ」


 アリアナと共に、城壁の大門から伸びる列に並ぶ。 

 ここからでも門の中が見えて、街に活気があふれているのがわかる。目抜き通りの両側に屋台が立ち並んで、湯気や香ばしい匂いを漂わせている。


 くぅー、待ち遠しいな。

 今日の晩御飯はなにを食べようか。


 そろそろ俺たちの番だな、と思ったところで。


「き、貴様はレオンか!? レオン・アダムスなのかっ!?」


 入り口に門番のように立っていた騎士風の人に、めちゃくちゃ絡まれた。

 ……大都会、こわい。




:【体力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【運】が上昇しました

:【測量士】の職業素養を獲得しました

:【放蕩者】の職業熟練度が上昇しました











:【シャングリラ・ディストラクション】の脈動が開始されました



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