#3 初バトル

「ガウワッ!!」

「おっと」


 俺に向かって突っ込んできたヴィレッジウルフを、鍋のフタでいなして弾き返す。もう一匹はこちらを威嚇するように、後方をのそりのそりと歩いている。


 ヴィレッジウルフの攻撃パターンは、噛みつきか前脚でのひっかきのみだったはず。

 その二つさえ凌ぐことができれば、毒を受けることもなく難なく切り抜けられるはずだ。


 ただ、今俺のすぐ後ろには傷ついたアリアナがいる。

 ヤツらのヘイトを、俺に引きつけなければ。


「だったら……先手を打つまでだ!」


 俺は木の棒をふり回し、勢いよく突っ込んでいく。

 様子見していた方のヴィレッジウルフに一気に接近し、棒を振り抜く。


「ギャフ!?」


 攻め立てていたはずの相手が、突如として攻勢に転じたことに面食らったのか、ヴィレッジウルフは俺の一撃をモロにくらう。


 クリティカル。

 そんな手応えがあった。

 ヴィレッジウルフは倒れ、動かなくなる。


「次!」

「ギャウ!」


 素早く振り返り、俺を狙っていたもう一匹に、鍋のフタによる打撃攻撃を叩き込む。今度も、頭へクリティカルヒット。

 ヴィレッジウルフは耐えられず倒れ、俺のはじめてのバトルは無事終わった。


「ふぅ……」


 今の通常攻撃の威力を見るに、現状のレオンのステータスはまだまだ捨てたものじゃないな。狼の素早い動きにも苦もなく対応できたし。


「魔物は片付いた。次はキミの毒を治療しないと」

「あ、ありがとう……ございます……」


 俺はアリアナの側に戻り、彼女を見た。

 うーん、だいぶ顔色が悪い。


「はぁ……はぁ……」


 かなり呼吸も辛そうだ。このままじゃ手遅れになってしまう。

 しかし今、俺は毒消しなどのアイテムを持っていない。


 どうする……?


「あの……私のカバンに、薬草の研究を記した本が……あります。そこに……毒消しの、調合表が、あるので……」

「そうだった、キミは『薬学士』になるんだったね」

「……え? ま、まだ……見習いの『学徒』ですが……」


 おっと、思わず先走ってしまった。あやしいおっさんだと思われないようにしないと。

 パーティーキャラの一人であるアリアナは、主人公たちと合流する時点では『薬学士』という、薬草などの知識が豊富な職業だった。


 ただアリアナも、どちらかと言えばレオンと同じように飼い殺しにされてしまうキャラクターだった。

 戦闘力がパーティーキャラで最も低いというのと、二人いるメイン格のヒロインの陰に隠れていたというのが最大の理由だ。


「すまない。キミのカバンの中を見る無礼を許してほしい」

「……はい、問題、ありません。お願い……します」


 言ってから、アリアナの大きなカバンの中身を調べる。あ、この辺りの詳しい地図だ。帰宅するためにもあとで貸してもらおう。

 それより今は薬草の本だ。どこにあるか……お、これだな。


「毒消し……毒消し、と……あった」


 毒消しの調合方法が書いてあるページを見つけ、目を通す。

 幸いにして、この辺りの草花で簡単に作れそうだ。


 俺はせっせと周辺からそれらを収集し、アリアナの道具を借りて毒消しを調合した。


「できたよ。見様見真似だけど」

「……問題、ないと思います……」

「よし、今身体を支える。飲めるかい?」

「はい……なにからなにまで……ありがとう、ございます……」


 俺は横たわっていたアリアナの上半身を支え、毒消しを口元へ近づける。アリアナは精一杯、小さな口でついばむように飲んだ。


 段々と、顔色が良くなっていく。


「効いたかい?」

「……ええ、なんとか。呼吸も落ち着いてきました。もう大丈夫そうです。本当にありがとうございます」


 微笑んだアリアナの顔に、ようやく少し安心する。本当に美人だなぁ。

 あれ、でもゲームではアリアナはメガネをかけていたキャラだったような……ま、いっか。


 なんにせよ、命の危機は脱したみたいだ。


「まだ油断はできないから、いったん村まで帰ろうか」

「そ、そんな……これ以上お世話になるわけには……」

「いいんだ。仲間になる人を放っておけない」

「え?」


 おっと、また口を滑らせてしまった。

 誤魔化すように俺はその場を離れ、ヴィレッジウルフのむくろから毛皮や爪、牙などの素材を採取する。

 獣系の魔物の肉は通常なら食べられるのだが、こいつの肉に限っては毒が強くて下ごしらえが面倒なので、放置。


 ちなみに『LOQ』の世界観では、魔物の細胞には『魔粒子』と呼ばれる魔力の元が含まれており、解体などせずに放置すると、大気中に消えていく。

 これを呼吸によって体内に取り込むことで、人間も魔法を使うことができるというわけだ。


 素材を手に入れた後、毒に体力を奪われて歩くことができないアリアナを背負い、彼女の地図を借りて、なんとかアンシ村に戻ることができた。


 が。

 村に戻ってから、新たな問題が噴出した。


「あんれまっ! アダムスさんが若い娘を連れてるよ!?」

「どっかからさらってきたんじゃないだろうね!?」

「シュプレナードに置いてきたっつー娘でねーか!?」


 そう、ここ数年のんだくれるばかりだった『放蕩者』が、突如として若い女性を連れてきたため、村中で変な噂が立ってしまったのだった。


「森で助けた子なんです! 断じてさらったりしてません! あと俺に娘はいませんから!!」


 村中を回り、なんとか皆の誤解を解いたが、疲れた……。

 まあ、これまで『放蕩者』として生活していたことを考えれば、こういう反応も仕方ないのかもしれない。


 というかレオンという男、普段はもっと不愛想だったためか、頭を下げて回るだけでなぜか「案外ちゃんと謝れる人なんだね……」とか言われて驚かれた。


 なんかステータスも上がりそうだし、良しとするか。


「レオンさんって、変わった方なんですね」

「は、はは……」


 夜になり、体力の戻ったアリアナと、いきつけの酒場で夕食をとる。

 俺は前世でもこんなに美しい女性と食事したことなんてないから、少し緊張してしまう。 


「私も花や植物ばっかり見て『変わってる』って言われるから……ふふ、仲間ですね」


 笑ったアリアナは、やはりとんでもなく可愛らしく、その可憐な空気を感じながら飲む酒は、いつもよりやけに美味く感じた。


「……ん?」


 ふとそこで、重要なことを思い出す。

 それは、レオンがアリアナと出会うのは、主人公パーティーに合流してからだったということ。


 となると、どうして今日、出会ったのか。


「もしかして、すでに俺の行動がシナリオに影響を与えている……?」


 そうだとしたら、レオン(俺)が迎える最悪の結末も、自分の力で回避できる可能性があるということ。


「よし、この調子でいくぞ」

「え? なんですか?」

「いやいや、なんでもないよ」


 いぶかしむアリアナをよそに、俺はビールを一気に流し込んだ。

 一日の終わりに飲む酒は、やはり格別だった。




:【体力】が上昇しました

:【魔力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【知力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【運】が上昇しました

:【戦士】の職業素養を獲得しました

:【猟師】の職業素養を獲得しました

:【学徒】の職業素養を獲得しました

:【放蕩者】の職業熟練度が大幅に上昇しました



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