#2 日課を決める

「ふわぁ……よく寝た」


 翌朝。

 思いのほかスッキリと起きれた俺は、すぐにベッドから起きて身支度する。


 汲んでおいた水で顔を洗い、簡素な服に身を包んで身体をストレッチする。

 うん、酒も残ってない。これならいけそうだ。


「次は筋トレだな」


 ストレッチで身体が温まってきたら、スクワット、腕立て伏せ、腹筋の順で筋トレをこなしていく。

 まずはこの三種目を10×3セットでやっていこう。


「うぐぐ……なまってる、この身体……!」


 七回ほどスクワットをした辺りで、さっそく太ももがぶるぶると震えてくる。

 おそらくステータスの筋力の値がかなり低くなっているせいだろう。


「でも……ちょっとずつ、慣らしていこう……!」


 本来のシナリオでは、レオンは主人公パーティーに合流するその日まで、ここアンシ村でのんだくれる毎日を送る。そりゃ、身体は鈍るばかりだろう。

 そんな自堕落な生活のせいで、騎士団長時代の半分以下の強さになってるって、本人が自虐するシーンもあったぐらいだし。


 ということは、だ。

 飲みすぎる生活を改めれば、元々の高いステータスを維持できるということ。

 なので俺は、酒は適度に楽しむ、というルールを自らに課す!


 そして筋力を取り戻すためにも、前世からの日課である、ストレッチ、筋トレ、散歩などをやっていくことにしよう。


 ちなみに『LOQ』のステータスは【体力】【魔力】【筋力】【知力】【精神力】【運】の六つ。 

 ゲームの設定では、この六つ以外にも可視化されていない数値がたくさんあるとされていたが、この六つを上昇させれば、それらも自ずと上がる仕組みだった。わかりやすいのは、確か『すばやさ』なんかは、主に筋力と装備の重量が関係していたはず。


 だが、今俺が生きている世界ここは、『LOQ』にそっくりとは言え、あくまでも現実だ。自分のステータスを見ることはできないし、筋力が足りないからと言って身体がまったく動かなくなるわけでもない。


「…………十回っ!!」


 そう、今の身体でも気合を入れて集中すれば、なんとかこなせる。


「ふぅ、最後は散歩だな」


 汗を拭い、俺は外へ出る。

 今度はこの辺りをゆっくり歩いてみることにする。


「うわ……すごいな、これは」


 一歩外へ出て、感激する。

 視界には、絵の具をこぼしたような真っ青な空に、心地よく風が吹く広大な大草原が広がっていた。

 見渡す先には、木々の生い茂る森や、雲のかかった高い山々も見える。


 画像などでしか見ることができなかった大自然の景色が、目の前にあった。

 澄んだ空気を思いっきり吸い込み、深く吐く。


「あー、空気がうまい!」


 改めて、この世界をじっくり味わっていきたいと感じる。

『LOQ』はリメイク版でオープンワールド的な要素が新しく追加され、マップが超広大になった。

 さらに、行く先々の村や街で人をスカウトしたりして、拠点の街を発展させる『街づくり』の要素もアップデートされた。


 あまりリメイク版でその辺のプレイはやり込めなかったし、この世界でできるといいな。


「よし、明るいうちに歩きまくるぞ!」


 俺は筋トレ後の心地よい筋肉疲労を感じながら、歩き出した。


◇◇◇


「ここ……どこ?」


 そして完全に、道に迷った。

 あらゆる景色が新鮮すぎて、後先考えずに歩きすぎた。


 レオンとしてアンシ村の周辺を歩いた記憶はあるが、この辺境には目印や標識もほとんど見当たらないため、記憶をたどってみたところで、家に戻れる気がしない。


 見上げると空は陰り、木々がざわめいている。どうやら、森に入ってしまったようだ。


「やばい……これ絶対、魔物出るよな」


 森は当然、魔物とエンカウントする場所。いくらレオンのステータスが高く魔物狩りをしているとは言え、油断は禁物だ。


 実際、俺は油断しまくりで武器を装備せずにここまで来てしまったので、さっき慌てて木の棒と鍋のフタ(なんであんの?)を拾った。


 アンシ村周辺は、主人公たちがシナリオの後半に訪れる場所。

 ということは、必然的に出現する魔物も強くなる。気をつけなければ。


 ガサガサ


 うお、さっそくおでましか!?


「きゃっ!?」

「わぶっ?!」


 森の茂みから飛び出してきたのは魔物――ではなく。 

 とんでもなく可愛らしい、女の子だった。


「キミは……アリアナ!?」


 受け止めたその子の顔を見て、俺はおどろく。

 彼女はレオンと同じくパーティーキャラの一人、アリアナ・イリーアムだったのだ。どおりで、とんでもなく顔が整っているわけだ。


「ど、どうして、私の名前を……?」


 少し斜めに被ったベレー帽とボブヘアーがトレードマークの彼女は、初対面で名前を呼んだ俺をいぶかしんでいる。

 えーっと、これどうやって言い訳しよう?


「グルル、ガウッ!」「ガワゥゥ!」

「っ! た、助けてくださいっ!」


 俺が言い訳を考えはじめたとき、アリアナが飛び出した茂みから、獰猛な狼が二体、眼を光らせながら駆けてきた。


 今度は正真正銘、魔物だ。


 こいつは確か『ヴィレッジウルフ』だったか。

 この辺りによく出現する雑魚モンスターの類なんだけど、あらゆる攻撃に毒の状態付与があるから、結構厄介だった記憶がある。


「はぁ……はぁ……」

「っ! キミ、もしかして毒を……!?」

「……さっき、腕を噛まれて、しまって……」


 腕の中のアリアナが、ぐったりと体重を預けてくる。

 これはまずい、急がなくては。


 この世界はあくまでも現実だ。ゲームのように毒状態では死なずHP1で止まってくれることなど、おそらくない。

 手早く『ヴィレッジウルフ』を倒して、治療をしなければ。


 鍋のフタを正面に構え、ぐっと木の棒を握り込み、俺は腰を落とした。


「俺のレオンとしての、最初のバトルだ!」




:【体力】が上昇しました

:【筋力】が上昇しました

:【精神力】が上昇しました

:【運】が上昇しました

:【散歩好き】の職業素養を獲得しました



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