ゲームの不遇おっさんキャラに転生したおっさん ~必ずパーティーで飼い殺しにされる無能なおっさんキャラでも、マイペースに楽しく生きれば主人公より強くなれるみたいです~
葵 咲九
プロローグ
#1 35歳おっさん、覚醒
「……あれ……これって……ゲーム世界に転生したってことか?」
ふと、思考がそのままつぶやきになる。
近くの酒場で飲んだくれていた俺は、まるで雷に打たれたように前世のことを思い出していく。
酔いが醒めるように、一気に色んな知識、情報が頭に浮かぶ。
前世の俺は、
普通のサラリーマンとして地方で働いていたが、同期が順調に出世していく中、俺だけ平社員のままで、職場ではかなり肩身の狭い思いをしていた。
そういった状況もあって、俺は仕事じゃなくて趣味に生きることにしていた。
俺の趣味は、筋トレやランニング、草サッカーなどの運動と、小説などを楽しむ読書だ。そして何より美味いメシと酒。
週末は運動を楽しんだあと、近場のサウナ付き銭湯で汗を流し、そのまま行きつけの居酒屋に入って本やスマホで読書しながら、キンキンに冷えたビールをキメるのが自分へのご褒美だった。
そんな最高の週末を思い浮かべながら、ウキウキ気分で定時退社して、相棒の自転車で帰宅する途中。
信号無視で交差点に突っ込んできたスポーツカーにはねられ、俺の三十五年の人生はあっけなく幕を閉じた。
そして、今。
俺は『ライフ・オブ・クエスト』というゲームのキャラクターの一人、『レオン・アダムス』となって今日まで生きてきたことを、今この瞬間に自覚したのだった。
奇しくも今日、四月一日は、レオンの三十五歳の誕生日だった。
ぬるくなったビールの表面に、飲み疲れしたレオンの老け顔が写る。
これが、今の俺か……いや、結構イケメンじゃね?
レオンは長めの銀髪に碧眼で、黒い腹巻がトレードマークのいわゆるイケオジ風キャラクターだった。
通称『LOQ』は、俺(佐伯大輔)が中学生ぐらいのときに大流行したゲームで、当時としては珍しいマルチエンディングストーリーと、奥深いキャラクター育成システムで一時代を築いたRPGである。
リメイク版がリリースされ話題となり、俺も懐かしさのあまり寝る間を惜しんでプレイしていた。
もしかしたらレオンに転生したのは、その影響なのかもしれない。
この『LOQ』、ゲームシステムに二つの大きな特徴がある。
一つ目は『ライフステータスシステム』。
これは、日々の生活や行動、言動までもがステータスに影響を与え、日常の過ごし方によってステータスが上下すると言うもの。これのコントロールがかなり難しく、決して同じステータスのキャラは存在しないとさえ言われていた。
二つ目は『マルチワークシステム』。
RPGではポピュラーな、剣士や魔法使いなどのジョブ、いわゆる職業を選択するシステムの進化版だ。
様々ある職業を選択することで、ステータスに補正がかかったり独自のスキルなどを覚えるのが普通だが、『マルチワークシステム』では最大で三つの職業に同時に就けるのだ。
しかも、その職業同士の組み合わせ次第で覚えられるスキルが変化したりもするので、キャラの育成だけでもやり込み要素が無限大だった。
「でもレオンは……最弱職の『放蕩者』なんだよなぁ」
ただこのレオン・アダムスという男、ゲーム内ではかなり冷遇されていた。
なにせパーティーキャラなのにもかかわらず、初期職業が最弱と名高い『放蕩者』なのだった。
しかも『LOQ』のステータスは、歳をとるほど上がりにくいという設定がされており、レオンは後半に仲間になるキャラなのにもかかわらず、初期ステータスからほとんど伸びないという、かなり扱いにくいキャラクターだったのだ。
だが初期性能が低い職業というのは大器晩成型で、やり込めば最強になれるというのはRPGによくある王道パターン。その例に漏れずこの『放蕩者』も、覚悟さえあれば最強になれる素質を持った職業の一つなのだった。
まず、放蕩者は『ライフステータスシステム』において唯一、ステータスの減少がほとんどない。
しかも普通の職業であればマイナス補正がかかる行動をした場合でも、ステータスが上昇する判定になりやすい。
ネットの攻略サイトでよく『問題児ほど可愛い的なやつ』だと言われていたっけなぁ。
しかしレオンに関しては、こういった背景が知られているのにもかかわらず、ほとんどのプレイヤーは馬車に載せっぱなしの飼い殺しキャラとなってしまっていた。
これは他のやり込み要素がありすぎるせいもあるが、主人公をはじめとした他の若い美形キャラたちに比べるとおっさん臭い(特に黒い腹巻が)せいと、クセの強いステータス特性が最大の理由だ。
要するにレオン・アダムスは、まったくポテンシャルを発揮できずに『無能キャラ』の烙印を押されたキャラなのだった。
それにしても、本来であればレオンは三十五歳の働き盛り。なのになぜこんなノンダクレになってしまったのか。
「故郷が魔族に滅ぼされたんだよな……」
そう、俺の中に実体験として刻み込まれている過去。
人間と敵対する種、魔族の侵攻によって、生まれ故郷であるエビデ村が滅ぼされてしまったのだ。
当時まだ二十代だったレオンは、七大国の一つであるシュプレナード王国の騎士団長として、皆に慕われ働いていた。
だがその頃に、新しい魔王が主導した大規模な侵攻があり、魔族の領土である『魔領域』に近い辺境にあったエビデ村は、レオンらの到着を待つことなく滅ぼされてしまった。
焼け野原となったエビデ村の跡地で、レオンは悲しさと悔しさのあまり、血の涙を流しながら魔族を相手に暴れ続けた。その様は敵味方問わずに恐れられ、『シュプレナードの鬼神』という異名を授けられた。
だが、レオンの心に開いた大きな穴は埋まることはなかった。
その頃から酒量が増え、訓練にも身が入らなくなってしまう。
王国の騎士団長と言う、国の守護者として素行が問われる立場だったために、我慢の限界を迎えた王から直々に追放されてしまい、シュプレナードからも追い払われることとなる。
流れ着いた先は、エビデ村にほど近いアンシ村。
そこに腰を落ち着け、レオンは騎士としての剣の腕で魔物駆除をしながら、細々と生計を立てる日々を送っていた。生きる気力も失い、夜な夜な酒場で酔いつぶれるのが日課となっていた。
そんなレオンはマルチエンディングなはずの『LOQ』で、ほとんどのシナリオの最後で――自らの命を犠牲にして、魔族を滅ぼす最凶の魔法を発動させ、世界に平和をもたらす。
それでようやく、これまでの放蕩放題を巻き返し、英雄の一人とたたえられ、歴史に名を残す形にはなるんだけど……うん、俺、死にたくはないな。
佐伯大輔として三十五歳で死んで、三十五歳のレオン・アダムスとして覚醒したんだから、もっと人生を楽しみたい。
もっともっと趣味を楽しんで、美味いメシと酒を味わいたい。
……よし、こうなったら前世で『LOQ』をプレイした知識を活かして、死なずに世界を平和にする方法を模索してみよう。
『佐伯大輔』の記憶を持った『レオン・アダムス』なら、絶対に最高にハッピーなエンディングを迎えられるはずだ。
「……とは言ったものの。今日はひとまず帰って寝よう」
うん、何はともあれ、明日から頑張ればいいよね?
俺、なんせ放蕩者だし。
俺はアルコールの回った重い体を引きずり、貧相なボロ家へと帰った。
酔いが戻ってきて、すぐに眠りにつくことができた。
:【精神力】が上昇しました
:【運】が上昇しました
:【放蕩者】の職業熟練度が大幅に上昇しました
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貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。
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