第9話 幼馴染みに報告だ

「そんなことが、今朝あったわけよ」

「へえ~っ! それは良かったな! マジで似合っているし!」

「ありがとう。あと何か、あたしより喜んでいるみたいだね。お前……」

「そっ、そうかぁ?」


 放課後、メガネ女子は幼馴染みの男子に、今朝の友人たちとのやり取りを報告した。今日は日直ではなく、お互いの友達グループの付き合いもあって、学校では話ができなかった二人。

 そういうことで、二人は今、一緒に下校しているのだ。


「あたしたち二人の会話、友達に聞かれちゃったけどさ……これでみんなとの距離が縮まったなら結果オーライか?」

「そうだよ。それでオッケー!」

「前からあたし、あの子たちといるのが楽しかったけど……これで、ますます楽しくなりそう」

「うんうん。良いぞ……!」

「お前のおかげだよ。色々と、ありがとね」

「お、おう……。どういたしまして……」


 メガネ女子から、素直な感謝の言葉を受け取って、幼馴染みの男子は照れている。そして、とても喜んでいる。


「それでさぁ……あたし、お前に聞きたいことがあるんだけど……」

「えっ、それは何だ?」

「その……お前ってさ……あたしのことが好きなの?」

「はっ、はああっ?」


 メガネ女子の、まさかの発言。予想外の言葉が耳に入ったため、幼馴染みの男子は動揺している。しかし、そんなパニック状態の彼を少しは心配しながらも、隣にいる女子は話を続けるらしい。


「どうして、そんなことを聞いたのかっていうとね……。あたしの友達全員が、お前の様子を見て、すぐに分かっちゃったみたいだよ。好きな子には意地悪したくなっちゃうタイプとか。あたしが、お前を全然そういう目で見ていなかったと知ったときの、お前のリアクションとか。みんな鋭いね~。あたしとは大違いだよ」

「っ……!」


 メガネ女子の話を聞いている幼馴染みの男子は、まるで恋するオトメのようだ。彼は今、下向きの真っ赤な顔を、両手で被せている。


「お前の、あたしに対する『鈍い』っていう評価は、そういうことだったんだね。それは納得」

「~っ!」


 図星だった。実は幼馴染みの男子は、さりげなく自分の気持ちを、あのときメガネ女子に伝えようとしていたのである。それでも彼は結局、自分に勇気がなかったことと、好きな子が抱えている悩みと真剣に向き合いたいという強い意志によって、告白はしなかったのだった。


「みんながね、あたしたちの会話について、ラブコメみたいだ~って楽しそうに評価していたよ」

「ひぃ~っ! お願いだから、もう勘弁してくれよぉ~っ! 恥ずかしい~っ!」

「恥ずかしいって言っても、今お前は、あたしと二人きりじゃんかよ……」

「それでも、やめてくれ~いっ!」


 昨日は、あれだけメガネ女子を怒らせていた幼馴染みの男子が、今日はメガネ女子(と、彼女の友人たち)に翻弄されている。


「……おれって、そんなに分かりやすい人間だったんだな……」

「うん。そして、あたしは色々な意味で鈍かったということ。ごめんなさい」

「いや、この件は別に、お前が謝ることじゃねーから……」


 今度は、謝罪するメガネ女子を見て、あたふたしている幼馴染みの男子。優しい言葉を聞いてホッとしたメガネ女子は、すぐに下げていた頭を上げた。


「でもさぁ……あたし、やっぱり鈍いにもほどがあるよ。最初から最後まで愚痴を聞いてもらって、アドバイスまでしてもらったのに、それを『こいつ、優しい奴だなぁ』で済ませちゃうんだからね。めちゃめちゃ自分に向けられている好意に、全く気付かなかったって……」

「全て、おれが悪かったんだよ。あんなに『ツンデレは二次元に限るっ!』と主張していた相手に対して、意地悪なことばっかり言っちゃっていたんだからさ……」


 ここで、メガネ女子と幼馴染みの男子は同時に「はあ~あ……」。すると二人は、


「あ……!」

「っ! ……ふふ」


 今度は笑い合った。そして嬉しそうなメガネ女子を見た後、幼馴染みの男子は言った。


「……おれ、いつか改めて、お前に自分の気持ちを伝えるよ。このままじゃ、カッコ悪いからさ。きちんと自分の口で言いたい。この思いは、おれから言わなきゃ意味がないよ。だから……そのときまで、待っていて欲しい」

「……そっか。分かった!」

「あっ、ごめん!」

「えっ、何? どうしたの?」

「えーっと……そのっ……」

「……?」


 モジモジし始めた幼馴染みの男子を、メガネ女子は不思議そうに見ている。彼は、一体どうしたのだろうか。


「お前がおれのことを好きって、決め付けちゃったみたいで、悪かった……。きちんと、お前の気持ちを聞かないなんて、おれってマジで自分勝手な奴だよな……」

「ああっ! それなら大丈夫だよ!」

「えっ! それって……」

「うん。そういうこと」


 メガネ女子も幼馴染みの男子も、お互いに顔を赤く染めている。メガネ女子がストレートに自分の気持ちを伝えなかったのは、さっきの彼との約束を守りたかったからだ。

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