第8話 変わったのは、ちょっとだけのつもりだったが……?

 そして翌朝。


「あっ、おはよう! ……って、あれ?」

「お、おはよう……」


 メガネ女子は教室に入ると、仲良しのクラスメートに挨拶された。そして彼女は、どうやら友達に気付かれたようである。何かを。

 ちなみにメガネ女子は、幼馴染みの男子が言っていたように内弁慶で、学校では(幼馴染みの男子と関わるときを除いて)割と控えめなキャラとなっている。地味で平凡な生徒だ。自分から挨拶を全くしないわけではないが、どちらかと言えば挨拶をされることが多いくらいだ。

 しかしメガネ女子は、友達が全くいないわけではない。学校で目立っていなくても、彼女は彼女なりに、楽しい学校生活を過ごしているのだ。幼馴染みの男子の他、数人の仲良しと共に。


「ポニーテールにしてんじゃーん! めっずらし~」

「あ……うん……。何か昨日、やってみたくなっちゃって……」


 仲良しグループの子たちが、みんな笑顔でメガネ女子を囲んだ。もちろん全員が仲の良い友達なので、あの日のようにメガネ女子は嫌な気分になっていない。それでも、やはり照れてはいるが。


「今まで髪を下ろしている姿とか、よく体育の授業で見る、一本縛りとかしか見たことなかったけど……すごく良いじゃん! かわいい~」

「めっちゃ似合っているねー!シュシュもオシャレだよ! あと、やっぱり髪質が良いよね~。これからも、どんどん色々なヘアスタイルにチャレンジしなよ!」

「そうだよ! せっかくのロングヘアなんしさぁ、もっとヘアアレンジを楽しむべきだって!」


 まさか、こんなに好評だとは……。

 ポニテメガネは、二次元に限らなかったのか!


「ど、どうもありがとう……」


 昨夜、メガネ女子は色々と悩んだ結果、今日の髪型をポニーテールにすることにしたのだ。これくらいなら、あたしでもできるだろう……ポニテメガネは(二次元の話だけど)人気があるらしいし……と思ったのである。

 また体育の授業で、一本縛りにする際に使用している黒いゴムではなく、シュシュでまとめている。このシュシュは以前、メガネ女子が友達とオシャレな雑貨屋へ行ったときに「かわいい」と、一目惚れして購入したものである。買ったものの、なかなか使う勇気が出なかったので、しばらくの間は鑑賞用アクセサリーと化していた。

 それでは店で売られていたときと、あまり変わらないではないか。シュシュの置かれている場所が移されただけ。そんなことは購入者自身も分かっていた。

 しかし地味な自分が、そんなかわいらしいものを使用することは許されるのか。そのように、ずっと悩んでいたが、やっと本日きちんとアクセサリーとして活躍させられたのであった。


 良かった……。

 ほんの少しイメチェンだったけど、やってみるもんだね。

 あと髪質か、誉められちゃったんだけど!

 嬉しい……!

 ちょっとだけでも、変化は大事ってことか! 


「そのオシャレは、やっぱり自分のため?」

「へっ?」


 友達からの質問に、メガネ女子はポカンとしてしまった。


「ど、どうして……そんなことを聞くの?」

「あー、ごめんね。昨日の会話、盗み聞きをするつもりはなかったんだけど……でも結局は……盗み聞きしたことになっちゃうのかねぇ……」


 戸惑っているメガネ女子を、彼女の友人たちは申し訳なさそうにチラチラと見ている。ああ、そうだったのか……と思ったメガネ女子は、笑みがこぼれた。


「アハハ~……やっぱり聞こえちゃったか~……すごかったよね、あたしの声!」


 前日の休み時間、幼馴染みの男子とメガネ女子が会話していた様子を、仲良しグループの者たちは見てしまったらしい。


 昨日は、あたしたち日直だったってのもあって、みんなと休み時間を共に過ごさなかったもんね……。


 メガネ女子と幼馴染みの男子が、昨日の休み時間に、一緒にいた理由は「日直だったから」である。


 それにしても、みんなに見られた……というか知られてしまったとは……。

 主に、あたしの醜態……。

 まあ、もう過ぎたことだから仕方がない!

 アッハッハッハッハ……。


 メガネ女子が日誌を書いていると、それが気になった幼馴染みの男子が彼女の元にやって来たのだ。そこから、あの二人の会話が始まったのである。


「あなた……彼が話し相手だと、あんなにバリバリ喋るんだね」

「ちょっと、ビックリマンボウだったよ~」

「あんな悩みがあったなんて、全く知らなかったし……」


 あのときのメガネ女子のことについて、素直に感想を述べる、彼女の仲間たち。メガネ女子は開き直って、笑うしかなかった。


 やばい……あたし、ひょっとして……。

 みんなに、嫌われたのかな?

 うわー、どうしよう!

 内弁慶だから、既に友達が少ないのに!

 この学校での、あたしの友達……あいつだけになっちゃうじゃんかー!


「あれ見ていたとき、何か淋しかったからさ……わたしたちにも、ああいう風に接してよ!」

「……えっ?」


 しかしメガネ女子の友達の口から出てきたのは、彼女にとって予想外且つありがたい言葉だったのである。


「だって、あなた……わたしたちと友達になってから結構経つのに、ちょっと遠慮がちな感じだったんだもん!」

「そうそう。あれくらい、はしゃいでくれても嬉しいのにさ~」

「もっと仲良くなりたいもんね。だから相談とか、いっぱいしてよ!」


 これまで、メガネ女子が感情を剥き出しにできる人間は、自分の家族以外には幼馴染みの男子しかいなかった。メガネを掛けているが故の、その他にも数々の何かしらによって、心を開くことが難しかった彼女だったが……。


「うん。みんな、ありがとう!」


 今回のメガネ女子の、ちょっとしたアクションを機に、様々なことが良い意味で変わった模様。

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