第6話 メガネ女子は弱っているが、これが本来の彼女らしい

「あとさぁ……メガネを掛けていると、高確率で鈍臭いって思われるのも、つらい」

「なるほど」


 あんなに興奮気味だったメガネ女子の顔が、暗くなっている。それに釣られてか、幼馴染みの男子も似たような表情を浮かべている。


「まあ、あたしの場合は仕方ないのかな……本当のことだしね」

「……うーん……」


 鈍臭い……。

 鈍い、か……。


 メガネ女子の言葉が気になり、幼馴染みの男子は考え始めた。また、メガネ女子は下を向いている。


「……そうだなぁ……お前って、なかなか鈍い奴なのかもしれないな」

「あー……。やっぱり、そうだよねぇ……」


 ポロッと言ってしまった直後、幼馴染みの男子は「しまった」と後悔した。


 あーあ……。

 おれ、あの言い合っていた時間に戻りたいんだけど……。


 さっきまで元気に言い合っていたメガネ女子と幼馴染みの男子は、一体どこへ行ってしまったのだろうか。あの二人は現在、行方不明である。今では二人揃って、深刻な表情となっている。


「あたしは地味だし、全然かわいくないし、鈍臭いし……。何か終わってんだよなー、あたし。頭が良さそうな見た目なのに、取り柄がないなんてね……。しかも真面目そうに見えて、そんなことはないなんて……。それなのに、面倒なことを押し付けられやすい人間だとは……はぁ……」


 あんなに怒り狂っておいて、おれに向かって愚痴っといて、結局そんなことになるのかよ……。

 でも本来のこいつは、これなんだよなぁ。

 おれに対しては全然、大人しくはないけど……まあ内弁慶だしなぁ……。


 幼馴染みの男子は、落ち込んでいるメガネ女子を、何も言わずに見ている。


 いや、このままじゃダメだ。


「 ……あのさ」

「何?」


 下向きだったメガネ女子は、ハッとして幼馴染みの男子と目を合わせた。彼は胸を撫で下ろし、メガネ女子に語り始める。


「おれが鈍いって言ったの、お前が思っている意味とは違うタイプのやつな」

「えっ? それって……どういう……」

「んーと……」


 しかし、すぐに幼馴染みの男子は言葉が詰まってしまった。メガネ女子に見つめられ、戸惑っているのである。


 いや、おれは言うぞ!


 幼馴染みの男子は、再び口を開いた。


「おれが言っている、お前が鈍いというのは……自分の良さに気付いていないってことだよ!」

「……は?」


 予想外の言葉だったからだろうか、メガネ女子はポカンとしている。


「とにかく! お前はメガネを掛けている人間あるあるより、もっと他に気付くべきことがあるんだからな!」

「……へ、へぇ~……」


 あれだけ自分をからかっていた人間から、まさかのアドバイスを貰って、メガネ女子は困惑している様子。だが彼女は、決して悪い気はしていない。


「そ、それって……」

「はい?」

「気付くべきことって、どんなこと?」

「いやいや! そこまで教えたらダメだ! そうしたら、お前のためになら……」


 キーンコーンカーンコーン……。


「謎のタイミングで休み時間が終わった……」

「何だよ、もう終わりかよ……」


 もっと話したかったのか、メガネ女子も幼馴染みの男子もガッカリしている。


「っつーかさぁ……」

「……何?」

「あたしの愚痴で、休み時間を潰させちゃって、ごめん」

「いや今更かよ、それ!」

「だ、だよね……」


 しおらしくなっているメガネ女子からの謝罪を聞いて、幼馴染みの男子は驚きを隠せない。そして彼は、すっかり落ち着いてしまったメガネ女子に言った。


「……おれが聞きたかったんだから、お前が気にする必要は全然ねーよ」


 幼馴染みの男子は「うん、ありがとね」を背を向けて聞くと、何も言わずに軽く右手を挙げて、そのまま自分の席へと歩いた。

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