第5話 メガネデビューした途端スター扱いかよウゼー

「……あたし……メガネデビューの日は、マジで死ぬかと思ったなぁ……」

「死ぬっていう言葉は……さすがに、大袈裟じゃね……?」


 メガネ女子は、昔のことを思い出して、とても苦しそうである。そんな状態になるくらいなら、わざわざ思い出すことなんてないだろう……というツッコミは野暮かもなぁ、と思った幼馴染みの男子。


「あたしってぇ……今も昔もクラスで地味な人間なのにさぁ……。大人しい方なのにさぁ……」

「はいはい」


 ……こいつ、大人しい人間か……?


 幼馴染みの男子は、またツッコミを入れたくなった。しかし何とか我慢して、気になるメガネ女子のワードを流した。そんな彼の苦労も全く知らずに、メガネ女子は話を進めていく。


「あたしがメガネを掛け始めた途端、クラスメートの大半が! あたしに寄ってきたんだよ!」

「あーあー。覚えていますとも。あのときのお前は……顔が真っ赤で、かわいかったな~」

「うるさいっ! そんなことは、別にどうでも良いから!」

「ど、どうでも良い……かあぁ~……」

「ん?」

「……はあ~あっ……」

「……おい、あたしは止まらずに、話を続けるからな」

「お、おう……」


 さっきのように、再び様子がおかしくなった幼馴染みの男子を見て「うえぇっ……またかよ、おいおい……」と思ったメガネ女子は、あからさまにテンションが下がった彼を、見事にスルーしてのけた。

 対する幼馴染みの男子は、ちょっぴり淋しくもなったが、一応ホッとしているようだ。気にして欲しいような、気にして欲しくないような……。彼は今、複雑な気持ちとなっている。


「だって、今まで誰にも相手にされていなかったような、あたしなんかが……」

「おい、おれは思いっきり、お前のことを相手にしていただろうが」

「あぁ確かに、それはオーバーに言い過ぎたかもな」

「そうだろっ? そうだよなっ!」


 ……?

 さっきから何なんだ、こいつ……。

 元気がなくなったり、元気になったり……忙しい奴だな。


 目の前にいる幼馴染みの男子を、不思議に感じながらも、メガネ女子は話を続けることにした。


「あたしの場合、友達が全然いなかったんじゃなくて、決して多くはないだけだもんね!」

「……そ、そうだなぁ……」


 いや、だから何なんだってば!

 急にやりづらくなったな、お前……!

 まあ、流すか。


 メガネ女子は、話を止めない。


「あのときは生き地獄って、こういうことか……なんて思ったなぁ。メガネを掛けるだけで、あんなに注目されるとは思わなかったよ。何も悪いことしていないのにさぁ、恥ずかしくなって嫌だったわぁ~本当に……」


 あっ、メガネ掛けてるぅーっ!

 一体どうしたの~?

 見せて見せてーっ!


 メガネ女子は、あの地獄のような時間に浴びた言葉の数々を思い出した。そして気分が悪くなった模様。


「うげぇ~……あのときのあいつら、まるで悪魔のようだったなぁ……。みんな、すっげー気持ち悪かった。奴らの目がガン決まりなのが、超きっつい……。ジロジロ見られて、なかなか自分の席にいけなくて……ああ最悪な時間……。そんでさぁ、あたしが泣き出した途端「ごめん」の嵐。あたしが泣かなきゃ……お前らはあたしの気持ち、一生分かんねーのかよって言いたかった」

「……確かに大変だったよなぁ、あれ……」


 つらそうなメガネ女子の表情を見て、幼馴染みの男子は彼女を、ねぎらい始めた。


「……あたしの死にたくなったって気持ち、これで分かったか?」

「……うん……」


 そうだ、つらかったんだよな……こいつは。


 かわいかった、なんて空気の読めない発言をしてしまったことについて、幼馴染みの男子は反省した。彼は今、当時メガネ女子が嫌な気分だったことを改めて知った。


 おれはマジで、バカでクズだったよ……。


 幼馴染みの男子は、話に花を咲かせるあまり、大事なことを忘れてしまっていた自分が情けなくなったようだ。


「でも、あたしのメガネデビューが、すぐにクラスメートたちに忘れられたから安心したよ。お前のおかげでさ」

「……はいっ?」


 自責の念に駆られていた幼馴染みの男子は、まさかのメガネ女子からの言葉が耳に入った途端、下がっていた顔をバッと上げた。


「あたしが泣いた後、お前は……」

「あーっ! それを言うな! それ、言わなくて大丈夫なやつ!」

「えー? 分かった~」

「うんうん。オッケーオッケー……」


 あっさりと止めてくれたメガネ女子に、幼馴染みの男子は安堵し、感謝した。

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